第14話 オークション 前編
オークション当日。
手配しておいた馬車に、ゾーゴとアズが乗り込む。
2人が着ているのは落ち着いた色のスーツとドレス。
採寸され身体にピタリとあったサイズ。上質な生地。派手さはないが、縫い目のズレひとつすらない。細部の正確性が美しさであると分かる衣装だった。
アズは自分の身分を考え、高級な服装に気後れしている。オドオドとぎこちなくしている。
ゾーゴは内心アズがつらくないか心配するが、下手には口には出さない。余計緊張をさせかねないからだ。何かあれば自分がアズをエスコートできるように、と考える。
馬車は街をガタガタと走る。
外をぼんやり見ていると、冒険者ギルドの前通り過ぎる。仲間の顔を思い出し、ゾーゴが少し笑顔になった。
やがて馬車は王立多目的ホールへとたどり着く。
とても大きな3階建ての白い洋館である。
馬車を降りると、ダチネルが近づいてきた。
「よう、ゾーゴ」
「ようダチネル。待ったか?」
「いや、ちょうどいま来たところだ」
ダチネルがアズを見てにっこりとする。
「やあ、アズ。とてもきれいだね。お姫様みたいだ」
「そんな。ダチネル様、恐れ入ります」
「今日は、ゾーゴと俺がアズの従者になるからね。安心して楽しんでくれ」
「ふふふ。ありがとうございます」
アズの緊張が少しほぐれる。
ゾーゴはうれしくなる。
三人で会話をしながら会場内に入る。
ゾーゴに用意された席は1階の貴族用の観覧席。
目の前が競売壇となる特等席である。
後ろ2階は観覧席。富豪などの平民階級が座る。そこからは1階の観覧席は見えず、競売壇だけが見える。
そして斜め後ろの3階はビップ席。王族や高位の貴族が座る。死角となり、1階2階からは見られないが、3階からは会場全体を見渡すことができる。
一階は十分なスペースを空けてテーブルが並べられている。
テーブルのうえにはキャンドル。光源が少ない薄暗い会場で、キャンドルはテーブルの上だけを照らし、座る人の顔ははっきりと見えない。
各テーブルには1人のウェイターが付く。
ゾーゴが受付に案内状を渡すと、ゾーゴ専用のウェイターがゾーゴのテーブルまで案内する。
ゾーゴはさり気なくアズを見る。
特殊な空間に緊張しつつも、すこし高揚している気がする。普段あまり見ないその表情に、ゾーゴも気分が高揚した。
席に着き、ウェイターが問う。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
「俺は紅茶だな。ダチネルはどうする?」
「俺も紅茶にしておこう」
「アズは何か飲みたいものはある?」
「では、私も紅茶でお願いします」
「…かしこまりました」
ウェイターが慇懃に頷き、薄暗闇のなかに消える。
テーブルの上には軽食。ドライフルーツの盛り合わせ。
ダチネルがひとつつまみ、口に運ぶ。
「ボリボリ。ゾーゴ、これ美味いぞ」
「どれどれ…ボリボリ。本当だ、うまい。アズも食べなよ。おいしいよ」
「は、はい。では失礼します…ボリボリ。あ、すごくおいしい!もうひとついいですか?」
「どんどん食べてくれ」
アズの好みに合ったようだ。ゾーゴは幸せな気分になる。
やがてウェイターが紅茶を運んできた。
ゾーゴはウェイターに耳打ちする。
「このドライフルーツの盛り合わせを、土産用に包んでくれ」
「かしこまりました」
「装飾を丁寧にして包んでくれ。あと、どこで手にはいるかも教えてくれ」
「かしこまりました」
ダチネルがゾーゴをからかう。
「お姫様のご機嫌取りか?」
「ふん!」
ニヤニヤしながらゾーゴが鼻を鳴らす。
ふと見ると、向こうにアモリアとその両親らしき人のテーブルがある。
アモネルは両親らしき人に笑顔で話しかけられながら、ドライフルーツをむさぼり食っている。
そして逆方向には、トモエルとソーカのふたりのテーブル。ソーカが貪るようにドライフルーツを食べ、トモエルが恥ずかしそうな表情をしている。
爵位を考えると、ソーカが無理を言ってトモエルに連れてきてもらったのだろう。
仕掛けで外光が取り込まれ、壇上が明るくなった。
皆のおしゃべりが止まる。
スーツ姿の中年男が小さなハンマー片手に登壇した。
そして、オークションが始まる。
オークショニアが両手を広げて挨拶をする。
「本日は高貴なお歴々にご来場して頂き、誠に感謝しております。皆様、本日のオークションについては、サイフに厳しい奥様方に、内緒にして来て頂きましたか?」
笑いが起きる。
「買うは一時の後悔、買わぬは一生の後悔と申します。この言葉は、よく覚えて帰って下さい。奥様に問い詰められたら、そう言って開き直るです」
ゾーゴはアズを盗み見する。
頬を上気させ、オークショニアの話術を楽しんでいる。
「では、早速参りましょう。最初の一品ではこちら…」
助手が、オークショニア脇の机に、ひとつのオルゴールを恭しく置く。
「風鳴きのオルゴール。かのアレフガルドの王ロトが愛したとされる珍品でございます。これを奥様にプレゼントすれば、怖い奥様も途端に優しくなります!」
笑いながら、貴族たちが競りを始める。
「5万!」
「6万!」
「6万5千!」
ゾーゴがアズに言う。
「アズ、参加してみて」
「え?参加ですか?」
「そう。はじめから絶対に買うと決めている人がいるんだ。どうせその人たちが、何としてでも落札する。今のうちなら、適当に競りに参加しても大丈夫だよ」
「で、でも…怖いです」
ダチネルがニヤリと笑い、言う。
「アズ、見てなよ。10万!」
オークショニアが大げさに反応する。
「おおっと!若き紳士から大胆な提案です!皆様、拍手をお願いします」
ひとしきりの拍手。ダチネルは両手を挙げて拍手に応える。
そして、また競争が始まる。
「10万5千!」
「11万」
「さあ、アズ!」
「はい…10万!」
11万からのまさかの10万。
一瞬の静寂の後、皆が笑い出す。
オークショニアがとっさに、それを盛り上げる道具にする。
「おっと、どちらの奥様なのでしょうか!夫に無駄遣いさせまいと、必死に値引きをされております!皆様、そちらの賢明なご夫人に盛大な拍手を!」
皆から大きな拍手が上がる。
アズは耳まで赤くして、下を向く。
慌ててゾーゴが言う。
「ごめん、アズ。怖い思いをさせてしまった?」
アズが半泣きの表情で顔を上げる。
そして言う。
「何が何だか分かりませんが…私、とても楽しいです」
満面の笑顔。
ゾーゴはその美しさに心臓が跳ね上がる。




