第13話 プレゼント
貴族学校の食堂テラス。
ゾーゴとダチネルがケーキと紅茶をはさみ、テーブルに座っている。
ダチネルが言う。
「合同授業はどうだった?王子達とは仲良くなれたのか?」
ゾーゴが首を横に振る。
「最低限の会話だけで済ませておいた」
「…ええと、合同授業とは言っても、たぶん伯爵家同士の顔合わせみたいなものだろ。それはまずいだろ」
「別にまずくないよ。俺は地方の領主の息子だ。王都権力とか関係ない。課題のスライムの核は提出されたし、報告書も書き上げ提出した。これがベストだ」
「ベストねぇ。ベターだと思うけどな。まあ、お前らしくていいんじゃないか」
「うん」
ふと見ると、リズが向こうを歩いている。
ゾーゴに気付くと一礼する。
ゾーゴは手を挙げて挨拶を返す。
そしてリズは向こうへ歩いていった。
ダチネルがニヤニヤしながら言う。
「で、あの研究員とはうまくいったのか」
「まあ、駄目だったよ。食事には行ったけど、それから何もない」
「食事ってすごいじゃないか。で、なんで駄目だったんだ。話が合わなかったのか?」
「さあね」
「ふーん。まあ、色々あるわな」
ケーキを食べ終えダチネルが言う。
「じゃあさ、明日は久しぶりに、ふたりで遊びに行こうぜ。街で買い食いしよう。楽しもうぜ」
「いや、すまない。用事があるんだ」
「またかよ。最近付き合いが悪いぞ。暇な俺をどうしてくれるんだ」
ゾーゴが笑っていう。
「すまんすまん。じゃあさ、オークションの招待状が届いたんだ。それに連れて行ってやるからさ、許してくれよ」
「マジか?面白そうだな。よし、じゃあそれで手打ちにしてやるよ」
翌朝。
ゾーゴは冒険者ギルドに向かう。
シャルロットとイネコと一緒の時間を過ごすのは楽しみだった。スライムの核という目に見える成果物が手にはいるのも分かりやすくてよい。
笑顔で冒険者ギルドに入る。
いつものテーブル。そこには死んだ魚の目をしてズーンとしているシャルロットがひとり。イネコはいない。
何事かと、ゾーゴはテーブルに座り言う。
「どうしたシャルロット?元気がないな」
「ズーン。坊ちゃん、ごめん。実はなぁ…悪いニュースと悪いニュースと悪いニュースがあるんや。どっちから行く?」
「なに?悪いニュースと悪いニュースと悪いニュース?じゃ、じゃあ、悪いニュースから頼む」
「実はなぁ、先日ギャンブルに行ってスカンピンになってしもうたんや。」
ゾーゴが呆れる。
ため息をついて言う。
「ハァ。だから言っただろ。ギャンブルなんてするもんじゃない」
「いやな、1回は倍に膨らんだんやで。ちゃんと儲かっとったんや。イネコも興奮しすぎて前転しとったくらいや」
「前転!?」
「グルングルン止まらへん勢いの前転やった。そんな勢いに乗ったあたしらが、そこで止まるわけにはイカンやろ?そんで、イネコと2人で全財産を全ツッパしたら、一気にバチコーンや。絶対あいつらイカサマしとる。やられたわぁ」
「…まあ、やってしまった事は仕方ない。勉強代とでも思えばいい。で、2つ目の悪いニュースとは何だ?」
シャルロットが罰が悪そうに言う。
「胴元に借金して、もう一回勝負してたんよ。そんでなぁ…」
「お、お前、それは駄目だろ…で、どうなった?負けたのか?負けたんだろ」
「…勝ってはないんや」
「素直に負けましたって言えよ…まあ、仕方ない勉強代と思って切り替えていけ。スライム狩りに精を出し借金を返していけばいい」
ゾーゴはうなだれて、続ける。
「で、3つ目の悪いニュースって何なんだ?」
「…怒らへん?約束してくれる?」
「イラッ。や、約束する。だから早く言え」
「あたしとイネコは売られそうになったから、胴元にシャルロット汁飲ませてご機嫌を取ったんや。そんで、お金だけじゃなくてMPもスッカラカンなんや。だから、今日の冒険はキャンセルして?メンゴメンゴ」
「…クックック」
ゾーゴは笑ってしまう。シャルロットが不審気にゾーゴを見る。
「怒ってる?」
「いや、怒っていない。笑わせて貰った」
「ホンマか。あー、良かった。わっはっは」
「わっはっは」
ふたりでしばらく笑い、ゾーゴが言う。
「仕方ないから今日は休もう。何かおいしいものでも食べに行くぞ。で、イネコはどうしたんだ?」
「お花を摘みに行ってきますわウフフ、って言っとったけど…長いなぁ。便秘なんかな」
「暴飲暴食のイネコが便秘か。それはキツイだろうな…ちょっと待つか」
そしてサイコロとカードで遊び、待つこと1時間。イネコは帰ってこない。
そろそろサイコロに飽きてきたゾーゴが言う。
「イネコはかなりの難産みたいだな。ところでイネコのMPは回復してるのか」
「完璧の満タンやで。ああっ!ほら坊ちゃん、ゾロ目!ゾロ目!あの時にこれが出とったら…」
「ふーん…イネコはギャンブルでグルングルンだったんだよな」
「せやでー」
「またやりたいとか言ってたか?」
「ああ、言うとった。金が無いから無理やって言うといた」
「もしかして…イネコはひとりでこっそりスライム狩りに行ってないか?」
「…ありえる」
ゾーゴとシャルロットは勢いよく立ち上がる。
「イネコひとりはさすがに心配だ。草原へ行くぞ」
「イエッサー!」
草原に来たゾーゴとシャルロット。
地面と周囲を交互に見て、イネコの痕跡を探す。
シャルロットが声を出す。
「坊ちゃん、草が倒れとるで」
「よし、向こうへ行くぞ」
急ぎ歩く。
途中、スライムの残骸がある。
核はない。
何かが起きている。
ゾーゴは不安になる。
ゾーゴはふと思う。
シャルロットとイネコは、自分にとってどのような存在なのか?
友達だと思う。冒険仲間だと思う。
そして。
役に立つ駒だとも思う。使い潰しても許される存在だとも思う。
一方、ダチネルはどうだろうか。
気楽に付き合える大切な友達だ。駒だとも使い潰す存在だとも思っていない。
ダチネルとシャルロット達には、どんな違いがあるのか。分からない。
しかし今は、イネコが素直に心配だった。それは間違いなかった。
向こうにいた。地面に座るイネコの後ろ姿。
ゾーゴとシャルロットが顔を見合わせる。
「どうやら無事みたいだな」
「よかったでー」
ゆっくり歩み寄る。イネコは気付かないで、手元で何かを触っている。
覗き込む。膨らんだカエルを持ち、ブツブツ言っている。
「ニチャア…オケツにストロー…コウノトリ…オシベとメシベ…」
ゾーゴは思わず吹き出す。
「わっはっは!何やってるんだイネコ」
イネコがビクッとして振り返る。
「ビクッ!え!?ゾーゴ様!?シャルも!?ふたりとも、こんな所でどうしたの?」
シャルロットが呆れて言う。
「あのなぁ。それはこっちのセリフやで。勝手に消えて、あたしら滅茶苦茶心配したんや。こんな事はしたらアカン」
「へ?…ご、ごめんなさい」
イネコがしゅんとなる。
ゾーゴが言う。
「シャルロットの言うとおりだ。今後は控えるようにな」
「はい、ごめんなさい」
「で、それが例のカエルを膨らませるアレか?」
イネコがニッコリ笑顔になる。
「そうだよ!ゾーゴ様、一気に吹き込んでパーンってやるから見てて!いくよ!」
「ヒィィィ!やめろ!」
そして3人は街への帰路につく。
イネコがニコニコしながら言う。
「ゾーゴ様は実家のお兄ちゃんみたい」
「イネコには兄がいるのか」
「うん。優しくて頼りになるお兄ちゃんだよ」
「そうか。俺がお兄ちゃんか。俺はひとりっ子だから兄弟とかはよく分からない。お兄ちゃんはどんな人なんだ?」
「うーん…」
イネコは少し考えてから言う。
「お兄ちゃんは、私が寝てたら、私のおマタの匂いをかぎにくるんだよ」
「…そうか」
「ゾーゴ様のこと、お兄ちゃんって呼んでいい?」
「いや、やめてくれ。なんかイヤだ」
「じゃあ、アニキは?」
ゾーゴは理解した。
イネコは家族とはなれて寂しいのだ。
ゾーゴは言う。
「構わない。俺のことはアニキと呼べ」
「ふふふ。じゃあアニキ、これプレゼントだよ」
イネコがスライムの核をひとつ渡す。
「ギャンブルで儲けて、アニキに何かプレゼントを買うつもりだったんだけどね。スカンピンになって何も買えなくなっちゃったんだ。さっき、スライムを一匹狩ったんだ。これをアニキにあげるね」
「…この為に、ひとりで草原に来たんだな」
「うん!いつものお礼だよ」
ゾーゴは理解する。
イネコとシャルロットに感じていた汚い感情は、仲間から置いていかれる恐怖、そして嫉妬だった。
独りよがりな被害妄想。
恥ずかしい。
ゾーゴはつぶやく。
「きれいな核だ。ありがとう。大切にする」
「えへへ。喜んで貰えて良かったよ」
イネコのプレゼントを見ながら、汚い感情が浄化されるのを感じた。




