第11話 合同授業 前編
冒険者ギルド。
ゾーゴがギルド内に入ると、いつもの席にシャルロットとイネコがいる。
「坊ちゃん、こっちやでー」
「ゾーゴ様、やっほー」
手を振るふたりに手を振り返し、歩み寄る。
そしてテーブルに座ると、サイコロとトランプがある。
「なにをしてるんだ?」
「イネコにギャンブルを教えてるんや」
ゾーゴが呆れる。
「ギャンブルってなぁ。そんな事をイネコに教えるなよ」
「いやいや、坊ちゃんのおかげで種銭がたまってきたんや。ここらでひと勝負と行こかな、と思って」
ゾーゴはため息をつく。
「ギャンブルなどやめておけ。賭場だけがもうかる仕組みになっているだけだ」
イネコが首を傾げる。
「ええ?シャルは簡単にお金が儲かるって言ってたけど」
「信じない方がいい。まあ、楽しむ程度にしておくんだな」
シャルロットがバツ悪気に頭をかく。
イネコが肩を落とし、言う。
「頭がいいゾーゴ様が言うなら、そうしまーす。あーあ、大金を稼いで実家への旅費にできると思ったのに。早く実家に帰ってカエルを膨らませて遊びたいなー」
「カエル?」
「うん。カエルのおケツにストローを差し込んで、空気を入れたらパンパンに膨むんだよ」
「…はい?」
「そして、一気に吹き込んでパーン!」
「ヒィィィ!」
「…はっ!」
イネコが突然、何かに気づいた表情になる。
そしてボソボソとつぶやく。
「ボソボソ…おケツにストロー…コウノトリ…ニチャア」
ゾーゴは気を取り直し、用件を切り出す。
「さ、さて、今日はMPの回復度合いはどんなものだ?」
「あたしは8割ってとこやで」
「私は半分くらいだよー」
ゾーゴは水筒をふたつ取り出す。
「なら、この水筒にウォーターを入れてくれ」
「よっしゃ、シャルロット汁が欲しいんやな!本妻と例のセカンド用やな!任しとき!とびきりの汁を流し込んだる…せや、デートはどないやったん?」
「いや、まあ…」
ゾーゴは口ごもる。
それを見て、シャルロットが失恋中の女を狙うナンパ男のように、心から心配そうに言う。
「…どないしたん話聞こか?」
ゾーゴは首を横に振る。
正直に話すつもりはない。適当にあしらうことにした。
「あいにく、まだセカンドだ。かなりのおかたいメスでな。まあ、いずれは愛人にメタモルフォーゼさせるつもりだ」
「マジかっ!エロっ!坊ちゃんエロっ!早くラブホでコウノトリを召喚できたらええなぁ!」
「ピクッ」
イネコがラブホという単語にピクッと反応した。
ゾーゴが言う。
「さ、さて、シャルロット汁を水筒に入れてくれ。あとは、次の冒険までMPの回復に全力を注いでくれ。いいな」
「「イエッサー!」」
「あと、スライムの核については他言は無用だ。約束しろ」
「「イエッサー!」」
ゾーゴとしては、今日の一番の目的はシャルロット汁とイネコ毒汁の秘匿だった。
ふたりに釘を差して、目的は完了した。
そして、勝手にスライム狩りをさせないため、MP消費もさせた。
ゾーゴは今後、ふたりを完全に囲い込むつもりだった。
当初は無能で愉快なおもちゃだと思っていた。
それが今では有能な特殊技能の持ち主となった。
ゾーゴが利用価値のある人間に育てたのだ。野垂れ死にする予定の人間をゾーゴが養い、育てた。
ゾーゴの好きにしても罰は当たらないだろう。
今後は自分の為だけに、好きなように使いたい。
ゾーゴが言う。
「そうだ、シャングリラでもツケがきくようにしておいた。いつでも食べに行け。あと、ギャンブルはやめておいた方がいい」
「「イエッサー!」」
それだけ言って、ゾーゴは冒険者ギルドを出ていった。
イネコが言う。
「ねえ、シャル。ゾーゴ様はいつか、本命とセカンドと、3人でコウノトリを召喚するのかなぁ?」
「いや、せんやろなぁ。あんなマジメなカタブツが愛人とか無理やろ。本命ひとりしか愛せへんタイプや」
「え?でも、シャルはゾーゴ様をけしかけてたじゃない?」
「ネタやで。坊ちゃんは、なんか性格がかわいくてなぁ。ついついアホな冗談をかましてまうんや」
「ふーん、そーなんだー。あ、なんかお腹が空いてきた気がする。シャングリラに行こうよ」
「よし来た!そんで、ギャンブル行こえや」
「えー!?ゾーゴ様がやめとけって言ってたよ。ダメだよー」
「社会勉強や。ええがなええがな」
そして、合同授業。
王子をリーダーとするパーティーは、草原にいた。
「王子ー!スライムはどこにいるのー?早く戦いたーい!」
ニコニコと大声をあげるのはアモリア・フォン・チオル。
金髪の美少女。
自信満々なアホ。
金色の鎧に全身を包み、自分の身長程もある大剣をブンブンと振り回す。
「アモリア、剣を振り回すな。危険だ」
面倒くさそうに答えるのはレインハルト・ヴェンリス。
黒髪、鋭い眼光の美少年。
次の国王となる予定の男。
「アモリア様、スライムは地面の草を良く見るといいそうですわ」
にこやかに言うのはトモエル・フォン・ペンドラゴン。
金髪、スタイルの良い美少女。
融通の利かない努力家。
「皆様!私がスライムを見つけてみせます!頑張ります!」
目を皿のようにして地面を見るのはソーカ・フォン・ドラコニア。
赤毛の美少女。
スクールカーストが気になるタイプ。
「…」
それを無言でぼんやりと眺めるのはゾーゴ・フォン・ムラタリア。
黒髪。
平凡、童顔の少年。
アモリアが言う。
「久しぶりに王子の前で剣を振るえるのに、相手はスライムかー。スライムって弱いんでしょ?」
ソーカがすかさずヨイショする。
「スライムなんて楽勝ですよ!アモリア様の武勇は有名ですからねー!」
「え!?ソーカはボクの強さを知ってるの?」
「知っているも何も、学校では知らぬものはなし!アモリア様の武勇に並ぶ者はいないと皆が申しております。ヨッ!男前!ナンバーワン!」
アモリアが微妙な表情になる。
「いや、数年前から、王子には全く勝てないんだけどね…ナンバーワンじゃなくて、ナンバーツーなんだよ。ふぅ」
ソーカは慌ててフォローを入れようとする。
「おっといけね!王子とアモリア様こそが並び立つナンバーワンと皆が申しております」
「並び立つナンバーワン?何なのそれ?」
ソーカは話題を変える事にした。
トモエルに話しかける。
「さてトモエル様、スライムはいませんねー。でも、今日はトモエル様の華麗な魔法を見られるチャンスです!楽しみで昨日の夜は全く眠れませんでしたよ」
「あら、今朝は寝坊をしそうになったと言ってませんでしたか?」
ソーカは話題を変える。
「いやぁ、明け方ウトウトしてしまいまして。ウトウトといえば、王子は歩き疲れていませんか?」
王子が面倒くさそうに言う。
「…ウトウトと俺に何の関係があるんだ?」
「…すいません」
しょぼんとするソーカ。
ふと、ゾーゴと目が合う。
ソーカがニッコリとゾーゴに媚びて笑う。
ゾーゴはとりあえず目をそらしておいた。
アモリアが言う。
「王子、久しぶりにボクと戦ってよー。ボクもあれから強くなったから、久しぶりに勝てる気がするんだ」
「気が向いたらな」
「それっていつなの?いつ勝負してくれるの?ねえ、王子ー」
そこにソーカが地面を指し声を上げる。
「あれ?草が倒れてます。これってスライムのじゃないですか」
ゾーゴが見る。もはや見慣れたスライムの跡だった。
しかし、目立たないようにしたい。あえて何も言わない。
トモエルが向こうを指差し、言う。
「あそこですわ。スライムがいます」
向こうにスライムがいた。モゾモゾと歩いている。
アモリアが大剣を振り回し言う。
「じゃあ、倒してくるねー。みんな、ここで待ってて。ウンタラカンタラ(詠唱)…」
そして、膝を深く落とす。
ゾーゴが慌てて言う。
「アモリア、ちょっと待ってください」
「え?」
アモリアが大きくジャンプする。そして、50メートルは向こうのスライム付近まで飛び、ズシンと着地する。
そして振り返り、またジャンプする。そして、ズシンと音を立てゾーゴの目の前に着地する。
そして、にっこり笑顔で言う。
「なに?ゾーゴ君」
ゾーゴは事務的に答える。
「注意点があります。スライムの粘体は毛を溶かします。つまり、下手に頭皮に触れてしまうと、ハゲになるのです」
「…ハゲ?」
「はい。なので、剣よりも遠距離魔法の方がよろしいかと」
「遠距離魔法は苦手なんだよ。でも、ハゲは困るなぁ。うーん…あっ!じゃあ、こうしたら、いいんじゃないかな」
アモリアがまたスライムにジャンプする。そして、着地と同時に剣を振り下ろす。
轟音が響き、土煙が舞った。
土煙の中から、アモリアが飛び出る。
そしてゾーゴの目の前にズシンと着地する。
「跡形もなく吹き飛ばしたらいいんだよ。これでハゲなくて済むよ。どう、ゾーゴ君?」
ゾーゴはやはり事務的に答える。
「お見事です。しかし、核も吹き飛びましたので、残念ながら課題は失敗かと」
「あっ!」
うなだれるアモリアだった。




