第10話 シャルロットの恋愛相談
冒険者ギルド。
奥のいつものテーブルで、シャルロットとイネコがダラダラとしている。
イネコが言う。
「ねえシャル、暇だよー。スライム狩りしようよ。核を集めておいて、ゾーゴ様に買ってもらおうよ」
「アカン。明後日の坊ちゃんとのスライム狩りに備えて、今はMP温存や。無駄打ちはやめとこ。肝心な時にコンディションが悪くて、坊ちゃんががっかりしたらアカンからな」
「分かったー。じゃあ、ご飯食べよっかなー」
「食え食え。坊っちゃんのツケで食えるからなぁ。ホンマにありがたいお方とお会いできたで」
そこに、突然ゾーゴがやってきた。
ソワソワと落ち着かない様子でテーブルに座る。
シャルロットが言う。
「坊ちゃんまいど。今日はどないしたんや?遊びに来たんか?」
「まあ、そんなところだ」
シャルロットはソワソワするゾーゴを見て、失恋中の女を狙ってナンパする男のように、心から心配そうに言う。
「どないしたん話きこか?」
「う、うん…」
モジモジしながらゾーゴが言う。
「なんというか…人と食事をすることになったんだが、ご馳走して喜ばれるレストランとはどんなところだろうか」
その瞬間、シャルロットの目がカッ!と開いた。
「坊ちゃん!女やな!女なんやな?」
「男ではない…そう、女だ」
「女やな!そんで本命か?セカンドか?どっちなんや」
「セ、セカンド!?いや、それは、なんというか…分からない」
「揺れとるんやな!ふたりの間で揺れとるんやな!よっしゃあ、任しとき。あたしが女とは何かを教えてやるからな」
シャルロットが胸を張り、言う。
「で、坊ちゃん、お相手はどんなメスなんや?」
「メ、メス!?いや、研究員をしている、普通の女性だ」
「平民か?お偉いさんか?」
「平民だ。しかし、エリートの学徒だ」
「なるほどなぁ。おかたいメスなんやな」
「おかたいメス!?」
シャルロットは少し考えて言う。
「なあ、坊ちゃん。オスとメスの間で一番大切にすべき事ってなんやと思う?」
少し考えて、ゾーゴがつぶやく。
「…愛?」
シャルロットが大きく頷いた。
そして言う。
「そう、金や」
「金!?愛じゃなくて金!?」
「そう、金や。でもな、相手がおかたいメスなら、自分から金なんて言えへん。彼氏が金を持ってるから付き合いましたー結婚しましたー、ゲヘヘ。なんてとても言えへん。それが女心や。さあ、坊ちゃんならどうする?」
「俺は相談する相手を間違えたんじゃ…」
「その通り!好きになった相手がたまたま金持ちだった、そういうシチュエーションを作ったる。ズバリそれや」
ゾーゴの言葉を無視して、シャルロットは満足そうに頷く。
そして言う。
「そこの角を曲がったところにシャングリラって言う料理屋がある」
「シャルー、そこっておいしいのー?」
「ちょっとイネコは黙っとき。坊ちゃん、セカンドとのデートは、シャングリラがおすすめやで」
ゾーゴが言う。
「シャングリラとは、どんな料理屋だ?」
「ふふふ。高すぎず、安すぎず。美味すぎず、不味すぎず」
「え?つまり普通の料理屋なのか?」
「せや。いきなり気取って高いところ連れて行っても金を見せつけとるみたいでアカン。相手の無駄に高いプライドを傷付けるだけや」
「無駄に高いプライド!?」
「そしてなにより、シャングリラの裏には…ラブホがあるんや」
ゾーゴの喉がゴクリと鳴る。
「ラブホ…というと?」
「そう。知っての通り、コウノトリを召喚させる儀式ができる場所や」
イネコが食いつく。
「コウノトリ召喚!?すごい。いまから皆で行こうよー!」
「あんたは行かんでええ。イネコはちょっと黙っとき」
イネコがシュンとする。
シャルロットが言う。
「さあ、ここやで!ここで札束を使っておかたいメスをひっぱたく!そして、既成事実をつくるんや。これでセカンドは晴れて愛人にメタモルフォーゼや」
ゾーゴがため息をつく。
「あのなぁ…相談相手を間違えた」
「ええっ!?何かアカンかった?」
イネコが言う。
「ゾーゴ様、シャングリラにいきたい!」
「うん?よし、今から3人で行くか。奢ってやるぞ」
「おっ!ええやん、楽しそうやん。ゴチになりまーす」
「ねえ、その後で、三人でラブホに行こうよー」
「誰が行くかっ!シャルロット、イネコに性教育を頼む」
「オッケー。ええかイネコ、オシベとメシベが…」
そして3人は楽しそうに冒険者ギルドを出る。
デート当日。
ゾーゴは落ち着いている。
自分はただのパトロンであり、優秀な研究者に援助を行っているだけ。
そう考える事にした。
研究室の前に、リズが立っている。
落ち着いた深緑のワンピース。髪は丁寧に整えられている。ヒールの低い靴。事務的で丁寧な訪問着。
対するゾーゴは普段通りの、高級だが使い込んだ私服。
ゾーゴが言う。
「リズ、忙しいところを済まない。今日は研究内容について詳しく教えてほしい」
「かしこまりました」
「今日はおいしいものを食べて、英気を養ってくれ」
「ありがとうございます」
そして、ふたりは無言のままシャングリラに向かう。
シャングリラは少しだけ高い程度の、庶民向けのレストランである。店内は丁寧の飾られているが、すこし古びている。
高すぎず安すぎないその雰囲気に、明らかにリズの緊張がとけた。
席につき、コースを注文する。
リズが言う。
「いい店ですね」
「うん」
「よく来るんですか?」
「2回目だ。先日来て、いい店だと思って」
「ふふふ」
リズが笑う。
「実は今日は、すごく高い店に連れて行って頂いたらどうしようかって思っていたんです。私、そんな高い店になんて行ったことないし、作法とかもわからないし、恥をかいちゃうかもって。だから、今はすごくホッとしています」
その笑顔にゾーゴは赤くなる。
「喜んでもらえて何よりだ」
「あ、そうそう。仕事のご報告をしなきゃですね。ふふふ、つい、はしゃいじゃいました」
料理が運ばれてくる。美味すぎず不味すぎない料理。
それを食べながら仕事の話をする。
「ええと、私の研究はスライムの核にMPを出し入れする、というものです。ゾーゴ様はスライムのスポーンの仕方はご存知ですか?」
「いや、知らないな」
「仮説ではありますが…落ちている石に長期間MPが触れ続けると、稀に石の性質が変わるんです。MPを溜め込むようになるんですね。そして、そこに雨水なりがかかるとMPを吐き出して粘体を維持し、スライムに変化するのです」
リズは続ける。
「私は、そのMPを貯める力と吐き出す力を自由にコントロールする研究をしています。もし実現すればエネルギー革命が起きるのですが…なかなか難しいです。少ししか貯められないし、吐き出す速度に追いつかないしで、あまりに効率が悪くて…」
ゾーゴは手応えを感じる。
理力の剣。物語の中の伝説の剣。
使用者のMPを光の刃に変換し無敵の力を得る剣。
スライムの核でそれを作れるのではないか?
「ところでゾーゴ様、今度のオークションで理力の剣が出品されると聞いたのですが。何かご存じですか?」
「ああ、噂話だろうな。物語の中の剣だ。存在するわけがない。誰かの思いつきに尾ひれがついたんだろう」
「そうですか…じつは私は、理力の剣は実在してもおかしくない。そう思っています」
「え?」
ゾーゴのフォークから肉料理が落ちた。
「スライムの核の存在です。もし強化されたスライムの核があり、それに指向性を持たせることができれば…理力の剣が実現します。先日ゾーゴ様が持ってきた、強化された核。実は、あれに希望を見いだしています。あれは、一体どこから手に入れたのですか?」
「あれは…」
シャルロットとイネコの顔が頭に浮かんだ。
無能として遊ぶために拾った冒険者。
いつの間にか友人のようになり、自分を大切にしてくれているふたり。
そんか彼女たちがスライムの核を生み出せると知り、周囲からちやほやされる想像をする。
そして自分は無能のまま。
自分のお腹に黒く不快な物質が生まれるのを感じる。
大嫌いないつもの自分。
表情を変えず、ゾーゴは言う。
「知り合いから買い取っただけなんだ。ただの珍しい宝石だと。今後は手に入りにくくなるらしいから、なかなか渡せなくなるだろう」
「そうですか…残念です」
「すまないな」
ざまあみろ。
ゾーゴは心のなかで言う。




