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二人の秘密


「……ありがとう。……やっぱり君には、見えてるんですね。」


 そう言いながら、彼は徐に、かけていた眼鏡をそっと外した。刹那、今度はリンが息を呑む番だった。下ろされた前髪の隙間からでも分かる、多色にゆらめく菫青石の輝きが、遮る物なくリンを射抜き、捉えて離さない。眼鏡の奥の柔和な瞳は打って変わって、今はただ容赦なくその怜悧な美貌を曝け出している。視線の先に居る者に、畏怖の念さえ感じさせるほどだった。


「――――っ、え、ええ!?!?そ、そんなに綺麗だったんですか??……ど、どういうこと……?」


「…………。実はこれ、認識阻害効果のある眼鏡なんだ。自作の魔道具なんだけど。……これをかけていると、普通は相手に僕の顔つきとか印象が、ぼんやりとしか認識されないはずなんですけどね。ましてや瞳の色なんて、絶対に知り得ないはずなんだが……。」


 その美しい瞳に訝しげな色を湛えて、リンを見据える。


「君に初めてここで出会った時から、君とはずっと目が合ってる。だから、もしかしたら見えているのかなとは思っていたけど……」


「そ、そんなすごい魔道具だったんですか!?その眼鏡……」


「その『すごい魔道具』を無効化……とは言えないまでも、ほとんど貫通できちゃう君の能力って何なのかな?……もしかして、常時何かの魔法を発動させてるの?」


 カイが、凄みのある薄い笑みを浮かべ、探るような目つきで至近距離に詰め寄る。リンはなんだか魔警団に尋問されているような気分になってきた。


「そ、そう言われましても……。最初から自然と見えていたので、魔道具だなんて全く気づいていなかったというか……。……あ、でももしかしたら……」


 しどろもどろで必死に考えていたリンだが、何か心当たりに気づいたようで、無意識にカイからもらったペンダントを弄んでいた指先を止めた。


「……職業病、かも……?」


「……………職業病?」


「はい、私達魔法医は、普段患者さんを診る時、まずは状態を把握するために、全身を隈なくスキャンするんです。適切な治療を行うために、必要なことなんですけど……時々、身につけている魔道具で防御されてしまうことがあって……。大抵は、外すことができるんですけど、たまにどうしても外せないものがあると、治療が進められなくて。それで、どうにかできないかと試行錯誤しているうちに、魔道具を看破できるようになってたみたいで……。仕事中は常時発動させているようなものなので、もしかしたら、プライベートでも無意識のうちにうっすら使っちゃってたのかも……」


「……なるほど。『魔法医の眼』という訳ですか……。もしかして、他にもいろんなことが視えちゃってたりするんですか?」


「いえ、それは流石にないですよ!そうなってたら自分でも魔法使ってるって気づきますから!」


「…………ほんとに?……僕の考えてることが分かっちゃってたりしない?…………それか、服が透けてたりとか?」


「――――、ちょっ、」


 いつの間にか眼鏡をかけ直していたカイは、両手で服をかき抱き、悪戯混じりの笑みを浮かべていた。先程の鬼気迫る美貌は鳴りを潜め、親しみやすさが感じられる、いつもの彼の表情だ。

 またしても揶揄われていることに気づき、リンは髪の毛を逆立てた。


「――もう!ないですってば!……あんまり揶揄うと、そっぽ向いちゃうんですからね、猫は。」


「……ふふ、そうでした。……君の可愛らしい反応が見たくて、つい。……ごめんね?」


(――い、いま、また可愛いって言った!?待ってよ、カイさん、手練れすぎでしょ……こういう時なんて返せばいいの?)


「と、とにかく!これ、良かったらつけてみてください。……私も何か、魔法が付与できたら良かったんですけど……」


「その気持ちだけで、とても心強いお守りになるよ。………………はい。どうかな?」


 先日の春祭りの時は、耳にピアスが揺れているのを見たが、今夜は特に何もつけていなかったようで、耳にかかる髪をかき上げながら、早速つけたアイオライトを見せてくれた。


「…………思った通り。よくお似合いです。」


「ありがとう。……今夜、僕の素顔を見たことは、二人だけの秘密にしておいてくれるかな?……あまり、目立つのは嫌いなんだ……。」


「秘密……ですか。別に、話すような相手もいませんけど……。」


「実は、昔ちょっとこの顔のせいで嫌な目に遭ったことがあってね……それ以来、私生活ではなるべく素顔を晒さないことにしているんだ。」


「……そうなんですね。分かりました。」


 確かに、これほどの美貌であれば、老若男女、あらゆる人の興味関心を引いてしまうことは想像に難くない。自衛のための手段ということか。これ以上この話題を深掘りするのは無粋というものだろう。


 リンが素直に応じたところで、追加で頼んでおいた春キャベツとアサリのパスタが到着した。ニンニクの香りを纏った湯気が二人の間に立ち上る。再び、カイが小皿に取り分けながら、思い出したように話を戻した。


「そう言えば、先程言っていた魔道具を看破できる魔法っていうのは、魔法医みんなが使えるものなんですか?」


「……いえ、それが……どうも私だけみたいなんです。……適切な治療が選択できず、患者さんの苦痛が長引くのが悔しくて、自分でどうにかできないか試していたら、なんとなくできるようになってしまって……。」


「なんとなく……って、いやいや。……魔道具に付与された魔法式を雰囲気で無効化したってことか……?熟練の魔工技師ならともかく……。――そう言えば、魔工技師を呼んできたりとかはしなかったの?宮殿内に常に何人かはいるはずだけど……」


「そうですね、普通はそうなんですけど、それだとやっぱり時間のロスが少なからずあるので。自分でもどうにかできないか、似たような魔道具を買ってきて、家で練習してみたんです。」


「君は――――、どれだけ研究熱心なんだ……。……頑張り屋さんなのは良いけど、あんまり無茶しないように。これからは、僕を頼ってください。」


「――!……良いんですか?……そう言えばこの間、魔工学がご専門だっておっしゃってましたもんね。カイさんは、魔工技師さんなんですか?」


 カイからのありがたい提案を受けて、リンは先程から気になっていた質問を、率直にぶつけてみた。


「いや……、そう……だね、そのようなものかな。」


 なんとなく言葉を濁されたような気もするが、一応肯定してくれたものとして、リンはさらに話を振ってみることにした。


「あの、前から少し考えていたことがあって、それが可能かどうかを、教えていただけないでしょうか……」


「勿論。僕に分かることであれば。」

 




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