表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

ちぐはぐな彼女

「カイト君、何か良いことでもありましたか?」


 オレンシア帝国帝都フィオラ。その名前の由来となったフィオラの花は、今まさに盛りの季節となり、帝都中を淡いピンクに彩っている。宮殿敷地内にある帝国魔法師団の団長執務室からは、眼下に広がる薄桃色の雲海が街を覆う様が見てとれた。

 朝の定例報告のために団長室を訪れたカイトは、持参した書類に団長が目を通す間、しばし窓の外の景色に見惚れていた。


(昨日のあの子みたいな色だな……)


 フィオラの花の色から、昨晩出会った彼女の髪の色を思い出し、知らず口元が綻んでいたようだ。書類を読み終え顔を上げると、窓の外を見ながら常にない柔和な表情を見せる部下がいたものだから、普段は厳格な印象の強い団長も、ついからかいたくもなるというものだろう。


「い、いえ、失礼しました。大したことではありませんので、お構いなく。……捨て猫を拾ったようなものですので。」


「捨て猫を……?」


 およそこの男の口からは出てきそうもない単語に、滅多なことでは古拙の微笑みを崩さない団長も、今は訝しげな表情を浮かべていた。


 カイト・アーガイル、30歳。魔法の名門アーガイル家の出身で、国立魔法学院魔工学科を主席で卒業後、帝国魔法師団に入団。異例の速さで出世し、現在は副師団長を務めている。常夜の黒髪に菫青石の瞳、端正な相貌には常に怜悧な表情を纏わせ、半径1メートル以内に立ち入った人間は謎の悪寒に襲われるという、まことしやかな噂まである。


(触れたら切れるような空気を纏った彼に、捨て猫を拾うような人間味が……?)


 聞き間違いか…とも思ったが、そう言えば彼の実家で猫を飼っているという話を小耳に挟んだような遠い記憶が脳裏を過り、そういうこともあるか、と半ば無理矢理納得しかけた団長の表情を読み、彼の優秀な右腕である副団長は咄嗟に否定の言葉を繋いだ。


「あ、いや……捨て猫というのはものの例えでして……まあそれに近いような拾い物をしたというか……と、とにかく!団長の貴重なお時間をいただくような話ではありませんので!では、確認もお済みのようですし、私はこれで失礼します。」


 あの彼が、焦りを浮かべて必死に誤魔化そうとしている……?しかも、気のせいでなければほんのり頬を染めてもいるような……?

 泣く子も黙る帝国魔法師団団長――アイザック・ネビスは、益々困惑の色を濃くした瞳で目の前の部下がそそくさと退散していく様を見つめていた。


*****


(本当に、うちのリィンみたいな目をしてたんだよな……。なんか、名前まで似てるし。)


 本日の勤務を終えて、自室に戻ってきたカイトは、今朝の団長との会話と、小料理屋での出来事を思い出していた。だいぶ酒に酔ってとろんとはしていたが、光を受けて多彩に煌めく少し吊り気味のヘイゼルの瞳が、上目遣いにウルウルとこちらを見つめる様子に、なんだか他人事ではないような気がして、ついお節介を焼いてしまったのだ。

 

 自分でも、らしくないことをしたとは思っている。何せ、ここ5-6年ほどは、仕事でも私生活でも、女性というものを徹底的に避けていたからだ。

 元々は特に男女分け隔てなく接していたのだが、ある事件をきっかけに、他人――特に女性――と一定の距離を置くことを心に誓っていた。

 

 そのために、普段仕事の時は冷徹な仮面を被り、半径1メートル以内に立ち入られた場合はその人物に言い知れぬ悪寒が走るような魔道具を身に付けている。魔法師団本部から外に出る時は、金糸で装飾が施された漆黒のローブのフードを目深に被り、口元を布で覆う徹底ぶりだ。

 昨晩のように街に出たりする際は、トレードマークであるローブは脱いで、認識阻害機能のある眼鏡をかけるようにしている。


(自分から言い出したものの、こんなヤツが練習台で本当に良かったのか……?でも、あんな目に見つめられたらなぁ…………って、……あれ?そう言えば彼女、俺と目が合ってた……のか……?)


 誰にも認識されないというのは困るので、ある程度の強度しか出ないようにはしているものの、あの眼鏡をかけていて誰かと目が合ったことは未だかつて一度もない。


(眼鏡の不具合……でもなさそうだな。)


 手元にある眼鏡の状態をチェックしてみるが、特にこれといった異常はなさそうだった。


(となると、彼女自身の能力……魔法か。)


 思えば、実に興味深い印象の女性だった。髪の色や顔の造りなど、見た目はかなり愛嬌があって、ちょっと言うと「軽そう」な感じなのに、話してみると知的で勉強熱心で、賢さを隠しきれない――そう、なんだか「ちぐはぐ」な印象だった。


(あの時は話の流れ上、遮ってしまったが、もう少し彼女の研究内容を聞いてみたかった気もするな……)


 自身とて魔工学に造詣の深い、ちょっと変わった魔法師だ。彼女の話す内容に、何か刺激を受けて自身の分野に活用できるかもしれない――そんな期待も湧いてくる。


 カイトは、腕に巻いてある携帯デバイス――これも自信が開発し世に流通させた魔道具だが――に魔力を流し、早速昨晩交換した連絡先にメッセージを送信した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ