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小料理屋での出逢い

書きたいシーンをまたまた夢に見たので、なんとか物語にしてみました。ご都合主義のため細かいところには目をつぶって、シチュエーションをお楽しみくださいませ。

「聞いてくれますぅ?もう三回目なんですよぉ、こんなこと言われるのぉ…」


 帝都の繁華街から少し外れた路地にある、知る人ぞ知る隠れ家的小料理屋。そのカウンターに座って先程からくだを巻くピンクブロンドの美女がいた。それなりに酒量を摂取しているようで、だいぶ目が据わっている。それでも元々がかなり愛嬌のある顔つきで、こんな状態でも人を惹きつける見た目をしている。ふと、光の加減で複雑な緑に輝く大きなヘイゼルの瞳の片方から、宝石のような雫がこぼれ落ちた。


「わわっ、大丈夫ですか?…僕で良かったら話を聞きますので…」


 間に椅子を一つ挟んで彼女の隣に座っていた眼鏡の青年が、慌てた様子でポケットから取り出したハンカチを彼女に差し出した。艶のある黒髪の隙間から、眼鏡の奥に覗く優しげな瞳が心配そうに揺れている。


「ありがとうございます…」


 受け取ったハンカチで目元を押さえながら、ピンクブロンドの女――リン・ブロッサムは、やや辿々しい口調で事の顛末を話し始めた。


*****


 リン・ブロッサムは、オレンシア帝国の宮殿敷地内にある賢帝記念病院で働き始めて3年目の魔法医である。こう見えて帝都フィオラにある国立魔法学院医学科を主席卒業した才媛だ。研究熱心な彼女は教授の覚えもめでたく、学院長直々の推薦をもらって狭き門である現在の施設に入職した。本来ならば近寄りがたい経歴の持ち主なのだが、先述したように特異な容貌をも持ち合わせているため、時々勘違いした挑戦者がアプローチしてきてしまうようである。本人は恋愛に疎く、自身の美貌と才能に無自覚であることも災いし、本日ついに人生三度目の悲劇に見舞われたのであった。


「ごめん、他に好きな子ができちゃってさ。キミは…その…すごく綺麗だし、賢いし、しっかり者だから、……オレがいなくても大丈夫だろ?」


 朝からバタバタと急患が舞い込み、昼過ぎにやっと一息つけると思ったところで、腕に巻いた魔道具にメッセージが入った。半年ほど前に向こうから交際を申し込まれて付き合い始めたものの、忙しさにかまけて会う頻度も徐々に減っていき、最近は連絡もほとんど取り合っていなかった恋人(一応?)からの着信だった。開いてみると、休憩時間に少し会えないかという内容だった。昼食を手に取り指定された中庭に行ってみると、相手は既にベンチに座っていて、話しかけるとどうも別れ話のようだった。そして、先程の台詞である。


「なんでだとおもいますかぁ……うう……」


 正直、これで三度目だ。学院時代から勉強にかまけて人並みの恋愛というものに疎遠だったリンだが、それなりに憧れというものもあり、彼女の中身を知らずに見た目だけで「なんかチョロそう」と思って近づいてきた輩の誘いにまんまと乗ってしまい、付き合い始めてはみるものの、「思ってたのと違う」みたいな勝手な事を言われてフラれるという悲劇を毎回繰り返していた。


「みんな、最後はだいたいおなじこというんですよぉ……」


 今度という今度はリンもかなり落ち込んだので、美味しいものでも食べて気を紛らわそうと、友人に頼んでお勧めの店を教えてもらったのである。生憎友人は今日は都合が悪いとのことで、恐る恐る一人で店に入ったのだが、ひっそりとした外観とは裏腹に、店内は明るく和やかな空気が流れており、鼻腔をくすぐる料理の香りと店主夫妻の優しい雰囲気も相まって、馴染みの店であるかのようにカウンターに着席していた。黒板のメニューを見ながらいくつかの料理と酒を注文し、その美味しさに驚きながらも次々と口に運んでいく内に、知らぬ間に深酒をしていたようだった。


「こっちはただ楽しく話そうと思ってるだけなのに、なんだか皆だんだん口数が少なくなっちゃって……よそよそしくなっていっちゃうんです……」


 いつの間にか客も帰っていき、気づくとカウンターにはリンともう一人の青年だけになっていた。店主夫妻も仕事が一段落ついたのか、カウンター越しにリンに話しかけてきた。その流れで、本日の来店理由を供述することになったのである。


「リンちゃんみたいな可愛い子を振るなんてねぇ……信じられないなぁ。」


 そう言いながら店主が訝しげに顎ひげをかいている。奥さんの方も深く頷いて同意していた。青年が、黒縁眼鏡のフレームに長くて綺麗な中指を添えてズレを直した。先程ハンカチを渡された時にもチラリと見えたが、中指に嵌めた指輪の、青年の瞳に似たアイオライトが、店の明かりを受けて煌めく。


「……ちなみに、貴女はお相手とどんな話をされていたんですか?具体例を聞いてみたいのですが。」


 リンが暫くの間、ぼうっと彼の綺麗な瞳と指輪に見惚れていると、ふいに質問を投げかけられた。


「えっと……、大抵は研究とか仕事の話題ですねぇ。私、一応魔法医なんですけどぉ、付き合ってきた人も大体同じ肩書きだったので、お互いが意見交換し合えば高め合えるかなぁと思って……魔獣の毒成分をいかに素早く取り除くかとか、損傷部位の再生不全を無くすにはとか、昔からの課題ですけど、もっと緻密な魔法のコントロールを可能にすれば……」


「――ぅんん!」


 リンが段々と暴走しそうになってきたところで、青年がひとつ咳払いをして歯止めをかけた。


「なるほど、なんとなく分かりました。」


「ええ!?ほんとですか?――――じゃあ、原因を教えてもらっても……?」


 こぼれ落ちそうな瞳を見開き、かぶりつかんばかりの勢いで青年へと期待に満ちた眼差しを向けたリンに対し、リンよりいくらか歳上の余裕が垣間見える黒髪の青年は、眼鏡の奥の目を細め、少し苦笑しながら言った。


「――そうだなあ……分かると言えば分かるけど……それを言ってしまうと貴女の良さも潰してしまうような気がするし……」


 青年がやや言葉を濁すと、リンは負けじと食い下がった。両手を胸の前で組み、頬を上気させ、青年の顔を潤んだ瞳で見つめ返す。


「お願いします!このままじゃ、この先も一生上手くいかない気がするんです……。何卒ご指導ご鞭撻のほどを……」


「いや、僕もそれほど経験がある訳では……。まいったな……。教えるのは簡単だけど……それだと根本的な解決にならないような気もするし……。――じゃあ、こうしませんか。僕とまたこうして食事を摂りながら会話したり、どこかに出かけたりして、そういう事の練習をしてみるというのは……?」


「れんしゅう、ですか?」


「そう、練習。見たところ研究熱心な貴女にはもってこいなんじゃないかな。」


「そんなの、あなたにとってご迷惑なんじゃ……」


「なんか、話を聞いてたら放っとけなくなっちゃって。乗りかかった船というか……ちょっと、実家の猫に似てるんだよね、きみ。」


「……ねこ。」


 カイ、と名乗ったその青年は、腕の魔道具で連絡先を交換した後、「もう遅いから」とリンを家まで送り届けてくれた。「よく眠れると良いね」と頭をそっとポンポンしてから、リンが家の中に入るのを見届けた後、青白い燐光を放ち夜の闇に姿を消した――。



 

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