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カイトの危機

※ 残酷な描写、身体欠損の表現があります。苦手な方はご注意下さい。


 年の瀬も押し迫る、光の月第四週。すっかりと葉を落としたフィオラの大樹は今、無数の細かな魔法灯の灯り(イルミネーション)に彩られていた。大樹を取り囲む広場の建物や木々にも、色とりどりの魔法灯が煌めいて、宝箱をひっくり返したようだ。

 今週は、オレンシア帝国の建国記念日と年末年始を祝う催しが、広場をまた賑やかにしていた。

 カイトとリンも、しっかりと防寒対策をして街に繰り出している。


「素敵……。春の花の盛りも本当に綺麗だと思ったけど、このイルミネーションもまた違った高揚感を感じますね。」


 カイトと腕を組みながら歩いていたリンが、立ち止まって広場を見渡しながら話しかける。


「そうだね。……こんな光景を二人で見られて、僕は本当に幸せ者だ。……春に来た時には、こんな風に君と過ごすようになるなんて、想像もできなかった。」


 カイトが、感慨深げに呟く。春の時と同様、広場を中心に沢山の露店が並んでいて、魅力的な香りや様々な商品が購買意欲を掻き立てる。「何かつまみながら、いろいろ見て回ろう」と、カイトが促して、歩き始めたその時――――カイトの腕の携帯伝話(デバイス)に着信が入った。内容を把握したカイトの表情が、一気に険しいものに変化する。


「……すまない。緊急招集のようだ。……こんな時に。……君を家まで送り届けたいが、その時間も無さそうだ。」


「……私のことは、お気になさらず。魔獣ですか?」


「どうもそのようだ。……申し訳ないが、行ってくるよ。君もすぐに家に帰って、待っていてくれ。後で、僕もそちらへ向かうから。」


「分かりました。……お気をつけて。」


 カイトは、名残惜しそうにリンを一度抱き締めた後、青白い燐光を放って目の前から掻き消えた。魔法師団本部のポータルに転移していったようだ。

 リンは、何となく嫌な予感がして、カイトからもらったペンダントをギュッと握りしめた。


*****


「――――ドラゴンの群れ!?」


 魔法師団本部の会議室には、団長と自分のほか、部隊長クラスの精鋭が集結していた。団長が手短に説明した状況は、その場の全員を凍りつかせた。曰く、東の山脈を棲家とするドラゴン五体が、突然帝都近郊の街に襲来したという。街は既に火の海で、多くの犠牲者が出ているそうだ。今は街の上空を飛び回っており、いつこちらに向かってきてもおかしくないのだとか。街に配備された騎士団員や魔法師団員が対応しているが、本部からも応援を出してほしいとのことだった。


「ドラゴンは、主に空からのブレス攻撃を仕掛けてきて、街を焼いている。たまに降りてきて、鉤爪で建物を破壊したり、人を傷つけているそうだ。」


 団長が、険しい顔つきで説明を続ける。


「空中戦になるため、飛行魔法に習熟した者たちを招集した。少数精鋭で、圧倒的火力で捩じ伏せるしかない。街の入り口の転移ポータルがまだ生きているようだ。準備が出来次第、本部のポータルに集まってくれ。私が指揮を執る。」


*****


「…………なんて迫力だ……。」


 ポータルで数名ずつ転移した先には、燃え盛る街の上空を飛び交う五つの黒い巨体が待ち構えていた。

 この場のほとんどの団員が、経験したことのない強敵と対峙している。それでも、訓練であったように、数人で一組の部隊に分かれ、一体ずつ相手取るためにすぐさま動き出した。ドラゴンたちが纏まらないよう、敵を引きつけながら四方八方に散っていく。団員たちは、ブレスを避けたり防御したりしながら、連携して次々にドラゴンの巨体へと高火力の魔法を放っていった。

 徐々に、ドラゴンたちの動きが鈍くなっていく。カイトが放った一撃が、相手取っていた一体にとどめを刺した。黒く硬い鱗で覆われた巨体が、制御を失って地上へと落ちていく。カイト達の部隊が、他の部隊を手伝いに行こうかと動き始めたその時、


「――グワアオオオオオーーー」


 近くで団長達の部隊が戦っていた一際大きな一体が、咆哮を上げてその場にいる者たちを硬直させた。


「――――くっ、」


 幸い、身につけていた魔道具により硬直を回避したカイトは、すぐさまドラゴンの横っ腹に氷の刃を叩き込んだ。続け様に、同じ魔法で両翼を穿つ。翼の制御を失ったドラゴンは、ふらつきながらも滑空し、団長めがけてその大きな(あぎと)を開いた。


「団長!!」


 すかさずカイトは団長の周囲に防御魔法を展開し、ドラゴンの牙をすんでのところで弾き返す。反動で大きくのけ反ったドラゴンの首元を狙って、限界まで研ぎ澄ませた氷槍を突き立てた。


「――――ギィヤァアアアアッ――――」


 断末魔の悲鳴を上げて、禍々しい災厄の巨体は地に落ちていった。硬直から回復した団員たちが、安堵の表情を浮かべる。他の部隊が相手にしていた敵も、あらかた討ち取ったようだ。皆、その顔に疲労を滲ませてはいるが、幸い大怪我を負った者はいなさそうだ。カイトは、常にない高威力魔法の連続使用により、自身の魔力が大きく消耗しているのを感じていた。

 念の為ドラゴンが落下した先を確かめようと、カイトが地上へ目を向けたその時、力無く横たわるドラゴンの頭の先に、石畳の上で震える小さな影を認めた。どうやら、逃げ遅れた少年が、飼い猫を抱えて腰を抜かしているようだった。


(いけない……!)


 すぐさま彼らのもとに降り立ち、この場から立ち去ろうと抱き抱える。その瞬間、少年の腕の中にいた猫がするりと抜け出して、ドラゴンの頭の方へと向かっていってしまった。


「リリー!」


 少年が、必死にカイトの腕を振り解こうともがく。


「大丈夫だから!……リリーと君は、必ず助ける。……だから、僕に任せて。」


 カイトはなんとか少年を宥めると、風魔法を駆使して猫をこちらへと引き寄せた。


(……もう、あとは飛行魔法を使ってここからなんとか立ち去る程度しか魔力が残っていない……)


「君は、リリーをしっかり抱き締めていて。」


 カイトが少年を連れて退避しようと飛行魔法を発動しかけたその時。絶命していたはずのドラゴンの首が一瞬持ち上げられ、カイトめがけて噛み付いてきた。


「――――ぐっ、ああ……っ」


 防御魔法を展開する余裕もなく、末期のひと噛みをまともに食らったカイトの利き腕は、肩から先がドラゴンに持っていかれてしまっていた。断端から一気に鮮血が迸る。


「お、おにいさん!」


「見るな!目を閉じて、しっかり掴まっていろ!」


 それでも、なんとか左腕で少年と猫を抱えて飛び立ち、安全な場所まで退避させられたと思ったところで、カイトの意識は途絶えた――――。




 





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