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副団長のプロポーズ


「素敵な部屋だね。君らしい気がする。」


 魔道具で姿を隠し、空を飛びながらリンの家へと送って行ったカイトは、「良かったら上がってください」とのリンの申し出に、喜んで頷いた。魔法師のローブは脱いで、ソファに腰掛け、リンを膝の上に横向きに抱き抱えている。


「あの……、本当に、この体勢じゃなきゃダメですか……?」


 戸惑うリンに、カイトは一層腕の力を強めて、リンの首筋に顔を埋めた。


「……しばらく、このままでいさせて。君の身体…、冷え切ってる。本当に……無事で良かった。」


 首筋にカイトの吐息が当たってくすぐったいが、服越しに彼の温もりが伝わってきて、リンの身体の緊張が徐々に解けていくのを感じた。


「……カイ……さん、……いえ、アーガイル様、とお呼びした方が?」


 リンが躊躇いがちに声をかけると、弾かれたようにカイトが顔を上げた。雨に濡れた子犬のように悲しそうな表情で、リンを見つめる。


「……本当に、黙っていてすまなかった。……図々しい願いだとは分かっているが……これまでのように、カイ、あるいはカイトと呼んでくれないか。」


「……では、カイトさん……と。何か、ご事情があったんですよね……、秘密にしておきたい……」


「……そうなんだ。」


 カイトは、自身の容姿や地位により、望まぬ羨望や嫉妬を集めてしまい、様々なトラブルに見舞われてきたこれまでの経験をかいつまんで話してくれた。そして、それらを回避するため、極力人との深い関わりを避けていたことや、私生活では素性を隠そうとしていたことを説明した。


「……だけど、君と出逢ってしまった。」


 リンに強く惹かれて、手放したくないと思ってしまった。恋人同士になれてからも、自分のせいでリンの身に危険が及ばないか心配で、本来の姿で一緒にいるところを誰かに見られないようにしなければと思った。


「……それで、『私に近づくな』とおっしゃったのですね。」


「あの時は、本当に悪かった。副団長の姿でいる時は、不用意に近づいてくる人間を排除しようと、間合いに入ると悪寒が走る魔道具を身につけていて。表彰式の後、うっかりその効力を作動させてしまったんだ。……まさか、君に話しかけられるとは思わなかったから……。」


「……もう。一言お礼を言おうと思っただけなのに、あんな目に遭うなんて、ひどいです。」


 リンは、わざとらしく頬を膨らませて、上目遣いでカイトを睨みつけた。……かと思うと、次の瞬間には、クスクスと笑い出した。


「……あー、可笑しい。あの時のあなたの絶望的な顔ったら。……本当は、私も薄々そうじゃないかなと思ってはいたんです。でも、あなたが話してくれるまで、待っていようかと。……やっと、話してくれましたね。」


「リン……。君という人は……」


「私は……大丈夫です。あなたが今日みたいに全力で守ってくれるって、信じてるから。やっと、お互いに愛し合っているって思える人と出逢えたんです。堂々と胸を張ってあなたの隣にいたい。」


 リンが、精一杯の愛の言葉を伝えると、カイトは感極まったのか、その美しい菫青石の瞳から、宝石の欠片のような雫がこぼれ落ちた。


「リン……僕と、結婚してくれないか。…………僕と一緒にいると、災難に見舞われるかもしれない。……それでも、僕はどうしても、君を諦めることができない。これから先も、ずっと……僕の隣にいてほしいんだ。」


「……っ。……嬉しいです。…………私も、そうしたい。」


 カイトの突然のプロポーズに、リンが頬を赤らめて頷く。カイトがリンの顎にそっと手を添えて、リンを上向かせた。お互いの顔がゆっくりと近づき、唇が静かに重なった。



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