招かれざる闖入者
――――私の近くには……近づかないでくれ。……君を、傷つけたくない――――
表彰式で、副団長と邂逅して以降、カイとはまだ会えていない。仕事が忙しいらしく、なかなか予定を合わせられないと、謝りのメッセージが入っていた。
あれからしばらく、何をするにもカイと副団長のことを考えてしまい、向かいに座るイオナの話も上の空だ。二人で昼食を食べに食堂に来ていたが、先程から、リンの皿からは食事が減る様子がない。
「リーン。大丈夫?何か話したいことあったら、いつでも聞くよ?」
「うん……ありがとう。まだ、ちょっと……自分でもよく分からなくて。」
カイト・アーガイルに近づいた瞬間、この世の終わりかのような悪寒に見舞われ、頽れたリンだったが、それを目の当たりにした彼の方が、よほどショックを受けたような目をしていた。そしてあの、苦しげにつぶやいた言葉……。リンを拒絶するようでいて、気遣ってくれているような……。
イオナからの声かけに、我に返ったリンは、少しでも食事を口にしようとスプーンを動かしかけたその時――――
「よっ。相変わらず辛気臭い顔してんね。……それ、食べないんだったらもらってい?」
空いていた隣の席に、突然座りながら軽薄な口調で話しかけてきたのは、リンの元彼である、ポール・ケリーであった。
「ちょっ……、あんた!どの面下げて……!あっち行きなさいよ!」
イオナがすかさず、追い払う仕草をする。リンは、突然の闖入者に言葉もなく、ただ目の前の男を訝しげに見つめていた。
「……何の、御用ですか。」
やっとのことで絞り出した言葉に、ポールは心外だ、という顔つきでふんぞり返った。
「……ほら、この前のさ。キミ……表彰とかされてただろ。あれって、最初に発案したの、オレじゃなかったっけかなー、っと思ってさぁ。」
「はあ!?!?……アンタなに寝ぼけたことを……」
向かいに座るイオナが、身を乗り出してポールを罵った。リンも、一体何のことを言われているか分からず、二の句を継げない。
「いやー、オレも昨日なんとなーく思い出したんだけど、デートの時キミがやたらと仕事の話をするからさー。オレも『勝手にスキャンしてくれる魔道具があったら良いのになぁ』みたいなことを言ったような気がするんだよねぇ。」
リンは、必死に記憶を辿ってみたが、そんな会話をしたかどうかははっきり思い出せなかった。そもそも、自動スキャンモードを発案したのはリンではないのだが。
「あの……私には心当たりはありませんので、そう言われましても……。何がおっしゃりたいんですか?」
「そんな他人行儀な……。リンとオレの仲じゃん?ちょーっと副団長サマに、オレからも助言をもらったって伝えてもらうだけで良いんだよねぇ。ホラ、『共同開発者』ってヤツ。オレも加えてくんねぇかなぁ。オレもさ、表彰とか昇進とか、憧れちゃうんだよねー。」
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて、テーブルに頬杖をつき、足を組んでこちらを向く元彼の言葉に、リンもイオナも呆れてものが言えなかった。こいつはこんなことを言う奴だっただろうか。少なくとも、自分と付き合っていた時は、もう少しマシだったような気がするが。
「……お断りします。あれは、私とカイさ……いえ、副団長様が何度も試行錯誤を重ねて作り上げたものですので。あなたが入る余地などありません。」
「……へー。そっか。…………副団長様との愛の結晶ってコト?」
ポールの声が、一気に冷めたトーンになる。こちらを嘲笑うかのように、言葉を繋いだ。
「なーんか最近、前より色っぽくなったんじゃねーかなー、と思ってたんだよねぇ。あ、そういうこと?副団長様とデキてんだ?」
「――おい!テメェ良い加減に……」
「イオナ!」
殴りかかろうとしたイオナを制し、リンは冷静に言葉を返した。
「私と副団長様は、そういう関係ではありません。変な勘繰りはやめてください。何を言われようと、あなたを共同開発者に推薦するなんてことはありませんから。もうお引き取りを。」
「――チッ」
リンの頑なな姿勢とイオナの加勢に分が悪いと感じたのか、それ以上食い下がることなくポールは撤退していった。
「……アイツ、いっこ上とは思えない幼稚さだな。」
「……あんなことを言ってくるなんて思わなかった。新しい彼女と上手くいってないのかしら。」
「どうでもいい。あんなヤツのこと、サッサと忘れよ。午後の診療が始まっちゃうよ。」
「そうね。」
この時は、リンもイオナも、元彼の戯言など大した事ではないと高を括っていた――――。




