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副団長の態度


 そこから先は、あまり覚えていない。後日、院内の会議室で表彰式があるだとか、同時に副団長にも感謝状を贈呈するだとか、そんな話が聞こえた気がしたが、リンの頭の中は、先程耳にした名前のことで思考の迷宮に陥っていた。

 院長室を辞してからも、その名前が頭を離れない。


(――カイト・アーガイル……カイト……カイ。)


 確か名字は、アガットと言っていなかったか。


(――似すぎている。……本当に、別人なの……?それとも、もしかして、カイさんは……)


*****


「でもさぁ、もし同一人物だったとして、リンに素性を隠しておきたい理由が何かあるってことだよね。」


仕事終わり、更衣室で同僚のイオナと一緒になったリンは、彼女を夕食に誘ってみることにした。ここしばらくの怒涛の出来事をかいつまんで話したリンは、イオナの意見を真剣に聞いていた。


「それってもしかしたら……リンを守ろうとしてくれてるのかもしれないよ。」


「……守る?」


「良い方に取れば、ね。……もし、リンの相手が、カレンの言ってた『ものすっごい美形の副団長サマ』だったってことが、みんなにバレたらどうなると思う?」


「……それはきっと、大変なことに……」


「でしょ?……だから、そうならないように、ひっそりとリンのことを愛そうとしてるのかも。」


「そう……、なのかな……。でも、もし……悪い方だったら?」


「そりゃ、もう、世間知らずのリンを、ちょっとつまみ食いして、飽きたらポイよ。」


 イオナのあけすけな言葉に、リンはゾッとした。また、これまでの元彼達のように、すぐに捨てられてしまうのだろうか。しかし、そこで、あの夜のカイの言葉が脳裏に浮かんだ。

――ちゃんと、時機が来たら話しますから、もう少し待ってください。……でも、貴女に対する僕の態度に、嘘はないから、そこだけは信じてほしい――


「……私は、カイさんの態度を、信じることにする。……まだ、同じ人かどうかは分からないけど。素性が分からなくても……大切にされてるっていう気はするから。」


 少なくとも彼の態度からは、誠実さが滲み出ていた。元彼達からは感じたことのない、温かな優しさを感じる。


(副団長様に会ってみたら、何か分かるかな……)


 カイに、直接尋ねる勇気は出ない。

 リンは、表彰式までの一週間を、悶々とした気持ちで過ごすことになった。


*****


 賢帝記念病院では、毎月最初の週に全職員を集めた朝礼を行っている。施設の近況報告や、新しく入ったスタッフの紹介など、伝達事項が周知された後、病院長のありがたいお言葉で締め括られるのが常だ。

 本日は、そこに、新しい医療機器の開発者である魔法師団副団長への感謝状贈呈と、リンへの表彰式が追加されている。広々とした会議室の壇上には既に、病院長とその秘書が登壇していた。拡声の魔道具の前に立ち、病院長自ら口上を述べ始める。


「あー、さて。今日は特別なゲストをお招きした。諸君らも知っての通り、先月導入したスキャン医療機器、『Magical Revealing Imaging』、略してMRIの開発者である、魔法師団副団長、カイト・アーガイル殿だ。この医療機器(MRI)の有用性については言わずもがなだと思う。彼の多大なる功績に対し、当院から感謝状を贈呈したいと思う。アーガイル殿、どうぞこちらへ。」


 病院長が向き直った先――会議室の入り口から、複雑な金糸の刺繍が施された漆黒のローブを纏った、長身痩躯の男性が静かに姿を現した。ローブのフードを目深に被り、口元は、ローブと同じ漆黒のフェイスベールで隠されている。僅かに目元が見えるか見えないかといった出立ちで、素顔は判然としない。一歩ずつ歩を進めるたびに、ローブの胸元に煌めく留め具の金の鎖が揺れた。ただ真っ直ぐに歩いて来るだけなのに、ただならぬ緊張感を纏った彼は、周囲に冷涼な空気を撒き散らし、会議室を静寂に沈めた。


「さて、今日は彼の他にもう一人、この壇上に呼ぶ者がおる。」


 漆黒の副団長が登壇し、職員の方へと向き直った後、病院長は話を続けた。


「院内のスタッフで、彼に開発を提案し、改良を手伝った協力者がおるようじゃ。その者を、共同開発者として表彰したいと思う。――リン・ブロッサム君、君もこちらへ。」


 一斉に、周囲の視線がリンへと集中する。いたたまれなさを感じながら、リンは副団長の隣へと進んだ。

 病院長が、感謝状の文言を読み上げ、副団長に手渡す。次いで、リンにも、表彰状が手渡された。会場を大きな拍手が包む。すると病院長が、副団長に一言挨拶を求めた。会場は水を打ったように静まり返り、皆が彼の言葉を待つ。


「本日は、お招きいただきありがとうございます。少しでも日頃お世話になっている病院の皆様のお役に立てたなら光栄です。こちらにおられるブロッサム嬢とは、共通の友人を介してやり取りをしていたため、この場が初対面ではありますが、彼女の明晰なアドバイスのお陰で、完成まで漕ぎ着けることができました。この場をお借りして、お礼を申し上げます。今後、機器を使用してみての改良点や要望があれば、彼女を介して私に申し出てください。皆様の診療がより良いものとなりますことを、お祈り申し上げております。」


 フェイスベール越しに紡がれた彼の言葉は、冷徹な響きを持ってはいたが、どこか温かみのある内容で、伝え聞いていた「氷の副団長」とは少し違う印象であった。


(――声は、似てる……気がする。)


 あまり抑揚がなく、硬い口調のため、カイの柔らかな声音とはかけ離れている気もするが、あの夜バルコニーから聞こえてきた通話中の声と、かなり近いような……


 カイが話し終えたことで、朝礼はお開きとなった。壇上から降りて会議室からさっさと出ていくカイの後ろ姿を、しばらく呆然と眺めていたが、ふとあることを確かめたくなったリンは、漆黒のローブの後を追いかけた。廊下の先に彼の姿を認めて、必死に走り寄る。


「あの!……アーガイル様!……いろいろと、ありがとうございました……!私……、ま……だ…………」


 リンが、こちらを振り向いて足を止めた副団長の間合いに、一歩入ったところで。


――――ガクガクガクッ。ゾゾゾゾゾ…………


 その場に立っていられないような、言い知れぬ悪寒が身体中を駆け巡り、両腕で身体をかき抱いてその場にへたり込んでしまった。

 副団長は、一瞬たじろいだ後、すぐさまリンに駆け寄り、助け起こしてくれた。


「……すまない。……私の近くには……なるべく近づかないでくれ。……君を、傷つけたくない。」


 漆黒の副団長は、苦しげな声でそう言い残して、慌ただしく踵を返し、風のようにその場を去っていった。

 リンを助け起こす時に一瞬垣間見えた、フードの下の彼の瞳は、多色に煌めく美しいアイオライトだった――――。







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