27話
「マリちゃん!どう言う事!?」
「おい!マリ!お前の事がすげぇ噂になってるぞ!?」
「んあ?」
昨晩、マリアは脳内が活性化されていたため、なかなか寝付く事ができなかった。
ゼフィサスとお付き合いが始まったわけではあるが、現実なのか夢の中なのか、ふわふわした様な状態だった。
(だって!ゼファーが!!)
付き合い始めて浮かれるバカップルのようなゼフィサスの変わりようはマリアにも衝撃的で、そして・・・
(そんなところも好き!)
そんな事を考え続けていたら、いつの間にか太陽が頭を出し始めたわけだ。
一晩開けて少しは頭もハッキリするかと期待したが、寝不足で頭の動きは悪く、今丁度眠気と格闘中であった。
登校中もボーッとして廊下を歩いていたら、ローラとアルフレッドが声をかけてきて、間抜けな声で反応してしまい少しだけ恥ずかしい。
「お、おはよう!」
「マリちゃん?」
「なぁーに?ローラ?」
「どう言う事!?あの先輩とお付き合い初めたんでしょ?」
「あ、うん。でも、なんで知ってるの?今日、報告しようとしていたのに・・・」
マリアはローラにはすぐに報告しようと思っていたのだ。
それがなぜもうローラが知っているのだろうかと疑問に思った。
「もう、学園中その話題で持ちきりだ」
「その話題?」
「お前らが付き合い始めた・・・、文通していたって」
「なんで!?」
昨日からまだ1日も経っていない。
「昨日、晩飯一緒に食ってたんだろ?その時の、様子見ていた奴が発信元だろうけど・・・」
「でも、なんで文通相手の事まで・・・」
『今度は大丈夫』
昨日のゼフィサスの言葉が蘇る。
もしかしたら、ゼフィサスは前もってなんらかの予防線を張っていたのかもしれない。
(ゼファーなら無いとは言いきれない気がする・・・)
「ええ!?なら本当にテクラさんってゼフィルス先輩!?」
ローラの声は想像以上に大きく、辺りに反響する。
「あ、うん」
「やっぱりねぇ~。直ぐバレる嘘つかないよね!先輩が、唯一法陣局受かったって聞いた時にもしや・・・って思ったもん」
「ローラ気づいてたの!?」
「なんとなく?」
「おい、どう言う事だよ!」
大人しく話を聞いていたアルフレッドが、我慢できなくなったのか口を挟んできた。
「ウチの学校からも1人だけ受かったって話が流れたよね?」
「あぁ」
「でも、その前にマリちゃんにはテクラさんから手紙でうかったよ♡って、連絡がきたんだよ」
「ハートはついてなかったよ?」
思わずマリアはローラにツッコミを入れる。
「書かれてなくても、気持ちは込もっていたはずだよ」
マリアは手を握られて、顔をぐいっと近づけきたローラの目は恋する乙女のようにキラキラと輝いている。
「あ・・・うん」
「マリちゃんは嘘をつかれたと思っていたみたいだけど、もしかしたらテクラさんがゼフィルス先輩なのかも!と私は思ってたの・・・。だって、その方がロマンティックじゃない?」
「何で教えてくれなかったの!?」
「その話題出したら、マリちゃんが話題変えてたからだよ!私はそっちの選択肢に気づかないマリちゃんが悪いと思います!」
「ご、ごめん」
心当たりがありすぎて、マリアは素直に謝った。
「でも、よかったね〜」
ローラはマリアを抱きしめてヨシヨシとしてきた。
母のような包容力でマリアを包み込むが、同じ年である。
「ありがとうローラ!」
「・・・俺も悪かったな、先走って噂伝えたりして」
ローラの話を聞いて、少し責任を感じたのかアルフレッドも申し訳なさそうな顔つきで謝ってきた。
「気にしなくていいよ。誰から聞いてもきっと疑ったと思う」
思い込みと言うものはなかなか訂正しにくい。
アルフレッド以外から聞いたところで、マリアの思い込みは変わらなかっただろう。
その後も昨日の話を根掘り葉掘りローラに聞かれて、話しているとあっという間に予鈴がなり慌ててそれぞれの講義室へと走って向かった。
ローラとアルフレッドから話を聞いたおかげで、マリアは眠気でぼんやりしていた頭がすっきりと晴れた。
そのまま、陰口など言われないか、悪意を向けられないかと気を張って1日を過ごしてみたが、その心配は杞憂に終わった。
文通をしていたと言う話がよほど効果的だったようだ。
そうして平和な日が何日も続けば、マリアは肩に入っていた力が少しずつ抜けていった。
「もう少し、何かあると思っていたけど」
「がっかり?」
「ホッとしてます」
放課後、実習から戻ってきたゼフィサスと待ち合わせて、お互いまったりとした時間を過ごすのが最近の日課だ。
マリアが進級すれば、ゼフィサスは卒業してこの学園には居なくなる。
法陣局の勤務地は王都のため距離も離れる。
あと、半年ほどの学園生活、時間をすり合わせ2人なりに有意義に過ごしている。
「文通効果絶大」
今日は中庭のベンチに隣り合って座り、カフェで買ってきた飲み物を飲みながら会話中だ。
「でも、誰が文通していたって噂流したの?ゼファーでしょ?」
「ユージ達に頼んで、何人かに話してもらっただけだよ」
ゼフィサスはコーヒーを飲みながら、片手をマリアの腰に回しピッタリと身体を擦り寄せてきた。
いつもの事ではあるが、距離が近くてマリアの心臓は爆発するのでは無いかと思うくらい早い。
「何人か・・・。ねぇ、飲みにくい」
「嫌」
聞き手の可動域が制限されているため持っている飲み物が飲みづらくて仕方ない。
しかも、中身は猫舌も気にせず飲める温度まで冷めきってしまっている。
「俺が飲ませてあげようか?」
「飲めないわけじゃないので結構です」
ゼフィサスはスキンシップを取りたがるし、マリアを甘やかしたがるし、意地の悪い事もしてくる。
嫌では無いが、どこまで許容すれば良いのかわからないのでそこら辺の塩梅は模索中である。
「そう言えばゼファーは何で文通しようと思ったの?」
不意に今まで聞いていなかった事を思いマリアはゼフィサスへと問いかける。
手紙には初めて出したと書いてあったので、2年間は興味が無かったはずだ。
それがどうして急に意識か変わったのか。
一般的には1年、2年で掲示してもらい、返信が無さすぎて諦めると言う話が多いらしいが、ゼフィサスは完全初心者だったので再挑戦でもない。
「たまたま、文通の掲示板の前を通った時に今日もダメだった、て嘆いてる子を見て俺もしてみようかなって・・・」
「それだけ!?」
「それだけ」
何か深い理由があるのでは無いかと期待していたマリアにとっては、期待外れの理由ではあったが、ゼフィサスの気を文通に向けてくれたその女性には感謝するべきだろう。
マリアは憧れの文通相手と出会え、かけがえの無い相手が今隣に居るのだから・・・。
「でも、私みたいな子が他にも居るんだねぇ~」
「マリアもよく行ってたの?」
「うん。それで、毎回あそこで嘆いてた」
1年間、掲示板にはそれなりの頻度で通い続け、いつか現れるかもしれない相手に想いを馳せながら、毎回大袈裟に嘆いていた。
「案外、リアだったりして」
「そんなのわからないよ」
女生徒だけでもかなりの人数が学園に在籍している。
マリアだとする可能性は低いだろう。
「俺はそうだと思う」
今では確認しようの無い事実を、確証があるわけでも無いのにゼフィサスはどこか自信ありげに言いきる。
「まぁ、もしそうだと運命的だよね。女の子、そう言うの好きそう」
「リアは?」
「ん?」
「もし、あの子がリアだったら?」
「そりゃぁ・・・運命感じる、かな?」
言葉に出すと、少し恥ずかしくマリアはうつむき耳が赤くなっていく。
その耳にゼフィサスがチュッとキスをして両手で抱きしめてきた。
「なら、もうその子はリア。決まり」
「強引ですね」
「嫌?」
「嫌・・・じゃ無い」
そのまま次は目元にキスを落としてくる。
それが少しこそばゆい。
辺りに人気は無くなり、だいぶ薄暗くなってきている。
抱きしめられたまま、暫くすれば下校のチャイムが鳴り響く。
最後に唇に軽くキスをされ、ゼフィサスはベンチから立ち上がった。
「帰ろうか」
「お腹へりました」
手を差し出されれば、マリアはその手を掴む。
そのまま、寮まではいつも通り手を繋いだままだ。
もう、それをジロジロと見てくる人物は学園内にはいなかった。




