26話
「あ、そうだ。ゼファーはこの後少し時間あります?」
「うん?」
「その・・・少し付き合って欲しいところがあるの」
本当は合格祝いに渡したかった物。
まだ寮の門限までは時間がある。
この際だから、本人に選んで貰うのも良いのでは無いかとマリアは考え、ゼフィサスを誘いカフェを出て2人はローラの勧めてくれたお店へと向かった。
しかも、なぜかがっしりと手はゼフィサスに絡め取られて、しっかりと握られている。
ゼフィサスとお付き合いが始まったわけで、手を繋ぐのも何ら問題はないが・・・。
『恋愛?めんどくさいし興味ない』
とか言っていそうなイメージのゼフィサスとのギャップの激しさにマリアはタジタジである。
しかも、手の握り具合はそれなりに強く触れ合う腕と腕から伝わってくる体温も服越しなのに熱い。
「ゼファーは慣れてそうだね」
「?」
「こう言うの」
そっと握っている手を上げる。
マリアはちょっとだけ、ゼフィサスの過去を知りたいと思った。
「・・・ちゃんとお付き合いするのは初めて。変な奴に言い寄られるのは慣れてるけど・・・」
「変な奴・・・?」
「こないだの金髪みたいなの」
「あぁ・・・」
ゼフィサスの言葉でシルヴィアみたいな人物が何人か居たのだと思うと、想像できてしまう。
下手したら女性不振になる可能性もあったかもしれないわけで、苦労したのだろう。
「あんな、激情型は初めてだったけど。思い込み激しいのはよくいる」
するとピタリとゼフィサスは止まった。
「?」
「思い出したら気分が悪くなった。慰めて?」
すると、ゼフィサスは手を離し両手を広げてくる。
マリアは意味が分からず、目を瞬かせているとゼフィサスは「ギュッとして」と口に出してきた。
そりゃ、お付き合いも始まりイチャイチャしたいのはわかるが、往来の場である。
マリアは当たりをキョロキョロと見回す。
「誰も見てない、早く」
両手を広げたまま不動のゼフィサス。
このままここに止め置くわけにも行かずマリアは渋々ゼフィサスのギュッとしがみつくと、ゼフィサスの腕に閉じ込められる。
「・・・2ヶ月ぶりのハグ・・・。あの時もこれで合格してやるって、やる気になった」
頭上から聞こえてくる声に、マリアはギョッとした。
あの時の言葉が試験の事だったのだと改めて知り、ゼフィサスの計算高さが垣間見える。
「もし、あと時私が承諾してたら?」
「勿論、受かる自信はあったよ。でも、リアがテクラと文通続けてたら浮気を疑って、それどころじゃ無かったかも」
「テクラと浮気って・・・」
「俺じゃ無いと思っている相手と文通続けてたら、そりゃ疑うよね。だから、テクラにしろゼフィサスにしろ一度はリアから振られる運命だったんだよ、俺は。でも、これから幸せになるからいいの」
そのままゼフィサスの腕に力がこもる。
「苦しい、先輩苦しい!」
そのままいつまででもハグを続けそうなゼフィサスの腕の中からどうにかマリアは抜け出し、マリアは一人で歩き出す。
しかし、直ぐに手は捕まり、また絡め取られる。
目的の店に着くまでに、マリアの体力はだいぶ削られた。
(え?お付き合いするのって、こんなに大変なの?)
店に着きの店中を眺めながら、マリア自身も初めてのおつき合いに戸惑っていた。
また、付き合いが始まって1時間程度である。
「リアはどんなのがいいと思う?」
「うーん?手にしっくりくるのがいいんじゃ無いですか?」
マリアはあまりペンにこだわりが無かったので、どれが良いのかと言われてもよくわからない。
店員に相談しながら、マリアの購入できる範囲のもので、ゼフィサスの髪の色であるブルーブラックのペンを選び購入した。
そして、もう1本。
同じ物で深紫色のペンをゼフィサスは気に入ったのか購入した。
余程気に入ったのかもしれないが、2本も同じペンを持っていて使うのだろうか?
使ってもらえないならプレゼントした意味が無いのでは無いかとマリアは思ったが、心が狭いと思われたくないのでそれは口を噤んだ。
「リア、ありがとう」
「本当はちゃんとおめでとうって伝える時に渡せたらよかったんだけど」
「一緒に選ぶのも楽しかった」
帰りもきちんと手はゼフィサスが捕獲済みだ。
流石に学園が近づけば制服を着た生徒と、ちらほらすれ違うようになってきた。
手を繋ぐ2人を訝しげに見てくる者、妬む様な視線を向けてくる者など視線をあちらこちらで感じるようになり、マリアは手を離したくなってきた。
「嫌」
考えている事がわかるのか、マリアが無意識に手を引いたのかはわからないが、ゼフィサスはマリアが何も言わなくても手を離したいという願望を拒否してきた。
まぁ、いつかはまわりも知る事だ。
それが早まるだけだろう。
「今度は大丈夫」
文通をしていたと言う事実は大きく、それだけで安心感がある。
魔力の相性を見て始める文通は、国も認めるパートナーを探すための手段だ。
それを否定すると言うことは、国の政策にも否定する事となる。
罰せられる事は無いが、否定した事が知れれば就職活動に影響する可能性もあるし、貴族であれば実家に影響する。
良い判断とは言えない。
どれだけ、ゼフィサスの事を好きでもトラブルを起こせば社会的に殺される。
その可能性を考えれば普通の人は手出ししてこないだろう。
それなりに注目を集めつつ、2人は寮へと戻ってきた。
「リア、これ」
そっとラッピングされた箱を差し出してきた。
「さっき買った俺と一緒のペン。お付き合い記念に」
どうやら気に入ったから2本目を買ったわけでは無かったらしい。
まさか、それをプレゼントされるとは思わず、その勘違いがまたマリアには恥ずかしかった。
「ありがとうございます。大切にします!」
しかし、羞恥心以上に喜びが勝っているため、それを受け取り満面の笑みでお礼を述べた。
すると、ゼフィサスも柔らかい表情でマリアの頭を撫でてきた。
それだけで、様子を盗み見ていた女生徒は卒倒ものの威力があっただろう。
その後、2人は一度その場で別れた後、食堂で合流して食事を仲睦ましげに食べる様子は電光石火のごとく生徒達の間で周知される事となって行く。
それと同時に、2人が文通をしていた事、付き合い始めた事も追加情報として少し遅れて流れ始めるのだが、そちらのスピードも伝わっていくのは早かった。
噂話の周るスピードの速さに、マリアが驚愕したのは次の日の朝であった。




