22話
長期休暇に入り、マリアはひと月ほど実家に戻っていたが実家にいても暇なため残りは寮に戻り悠々自適な生活を送っていた。
マリアの実家は商家でそれなりに大きく裕福だ。
領地は無いが、商売の才で何代か前の当主が子爵の爵位を貰い受けたらしい。
爵位を有してはいるがマリア自身も家族も爵位を持っている事すら、忘れるレベルでマナーは一通り学んだが使う事も無く、ほぼ貴族らしい生活とは無縁に育ってきた。
因みに、アルフレッドの家も同じ様な状況で一応同じ子爵位を有している。
そんな家族はほぼ家には居ない。
父も母も兄も年がら年中、商談のために出かけていて、幾つもある支店を転々と移動している。
よって、実家に居ても家の管理をしている使用人が数人居るくらいで、マリアの方がどこか人様の家に感じるくらいだ。
何度か帰って来た家族と顔を合わせはしたが、ゆっくり話す時間は無かった。
連絡はどうにかつくが、商売の事で無いと優先順位が低いのか、後回しにされる事が多いので最近は連絡も必要最低限だ。
“帰ります”、“寮へ戻ります”それくらいの連絡だ。
嫁に行った姉が時々様子を見にきてくれては居たが、実家に滞在していても面白く無い事に早々にマリアは気づき、1ヶ月だけどうにか我慢して、寮へと戻ってきた。
また、このタイミングで戻って来たのには理由もある。
先月あった法陣局の試験の結果が、もうそろそろ発表されるためである。
結果が分かれば、テクラから手紙が届くだろう。
手紙のやり取りは学生番号で管理されるため、学生寮のレターボックスにしか届かず、実家にいては大切なテクラからの手紙は届かない。
いつでも手紙が受け取れるように寮に帰って来たと言うわけだ。
寮へ帰って来て1番最初にレターボックスを確認すると、一通テクラからの手紙が届いていた。試験が終わった事を報告する内容に、会いたいと言う気持ちも添えられていた。
そして、『やれる事はやりきり悔いは無い』と書ききられており、そんな所がとてもカッコよく感じる。
テクラへの気持ちはほぼ固まっていった。
マリアはその手紙の返事に、実家へ帰っていた事や定期試験の結果、この1ヶ月程の動向などを綴った。
久々に書く手紙に、マリアは緊張して少しだけ手が震えた。
そして、トラブルに巻き込まれた事も書き添えた。
顔を合わせた時にネガティブな噂があったマリアへの印象と会う前の印象に極力振り幅が大きくならない様にするためのワンクッションだ。
詳細は書いていないが、後輩に喧嘩を売られてトラブルになったとだけ書いておいた。
そして、その手紙への返事は割と早く届いた。
手紙の中でテクラはトラブルについて心配してくれては居たが、詳細などは聞かれず、マリアは少しホッとした。
テクラは法陣局の試験がダメだった時のため、寮に残って他の勉強もしているらしい。
どこまでも努力の人なのかもしれない。
休暇も残りが少なくなってきた頃、寮や校内に生徒たちが少しずつ戻ってきて賑やかになってきた。
そんな頃、マリアの元に待ちに待っていた手紙がテクラから届いた。
マリアは自室の机の上で手紙の封を開いた。
初めて返事が届いた時以上に、マリアの心臓はうるさく緊張していた。
しかし、いつも通り手紙から微かに香る甘い香りに少しだけ心が落ち着く。
この香りは初めての、手紙の時と同じ香り。
そして、最後にゼフィサスに抱きしめられた時と同じ香りだ。
マリアは一瞬、ゼフィサスの事を思い浮かべたが直ぐに目の前にある手紙へ意識を切り替え、すぐに手紙に目を通し始める。
いつも通り綺麗で丁寧な字で書かれている。
『リアへ
試験の結果が届いたよ。
リアはどんな気持ちで今手紙を読んでいてくれるだろうか?
緊張している?
俺は手紙を書いている今も、ドキドキしているよ。
それが何でかわかる?
リアに直接会えると思ったら、君が落胆しないかな・・・とか、失望されないかな・・・とか、色々考えて、手紙を書いている今から緊張しているよ。
試験の時よりも怖いかも。
そう言うわけで、リア直接おめでとうと可愛い声で伝えてほしい。
無事に合格しました。
都合がいい日時を教えてください。
テクラ』
本当に緊張しているのか、いつも手紙ではわたしと書かれているのに、一人称が俺になっている。
その緊張が手紙越しにもマリアへと伝わってくる。
それと同時に、合格した喜びが溢れ出してきた。
椅子の上で手紙を抱きしめると、くしゃくしゃになってしまい慌てて机の上へと置いた。
そして、冷静になると見間違えではなかったかと少し不安に思い、マリアはもう一度手紙を読み直した。
(合格・・・)
再度読み終えるとマリアはじっとして居られず、立ち上がり部屋の中でスキップしながら誰に向けるでもなく、おめでとう!おめでとう!と叫び回った。
隣の部屋の人が、まだ帰って来ていたいのは幸いであった。
そして、その高ぶる気持ちを直ぐに伝えたくて、レターセットを取り出してマリアは返信を直ぐに書き始めた。




