21話
「マリちゃ〜ん。試験どうだった?」
長期休暇前の試験が全て終わり、廊下を歩いていたマリアにローラは後ろから抱きついてきた。
バックハグをされ喜びそうなシチュエーションではあるが、相手は同性のローラのためそこまで嬉しくはない。
どちらかと言うと身長もお互いに同じような身長のため、軽く首を絞められた状態になり首が締まり苦痛である。
背中に当たる柔らかな胸は切実に羨ましいが。
「いつも通り、不可はないと思う」
「追試は嫌だよね」
「追試とか無関係な人間がよく言うよ」
ローラの成績は良い。追試も受けたことが無いはずのため、マリアの視線はどこか冷たい。
「ローラ、そろそろ酸欠になる・・・」
「あ、ごめんね」
苦しそうに訴えればローラは腕を離して、マリアの横に並んで歩き始めた。
「試験の打ち上げにこれからどこかいく?」
「そうだね・・・甘い物食べたいなぁ」
シルヴィアとのトラブルからわりとすぐに試験だったため、試験勉強が忙しく、ゆっくりと落ち着いてカフェに行く時間などマリアには無かった。
疲れた頭で甘いお菓子を想像すると、身体が糖分を欲しているのか無性に食べたくなってくる。
シルヴィアはあの日付けで、退学処分となった。
接近禁止が言われていたマリアとゼフィサスに接近した挙句、校内で禁止の攻撃魔法を感情的に発動したためだ。
誰も怪我はしなかったが、シルヴィアの思い込みの激しさと、自制の効かない激情は本人に魔法を使う資格なしと判断され、魔力の封印も施された。
そして、今後も私怨でマリアやシルヴィア今回関わった教員などを害する可能性もあるとして、特定の人物の事を考えた時発動する発語禁止と、対象の相手に近づいた場合に発動する緊縛魔法の魔法陣が身体に刻まれた。
これは、対象の親族も含まれている。
ほぼ犯罪者と同等の対応であった。
最初にシルヴィアに危害を加えられた後の対応は、学園側がシルヴィア自身の態度を1ヶ月ほど見て処罰を決める予定でいたそうだ。
しかし、その間再び接触して来た事、危害を加えられそうになったことを学校側から再度、謝罪された。
シルヴィアが学園からいなくなった事で、マリアの噂は驚くほど直ぐに消えた。
代わりにシルヴィアの話題で持ちきりだ。
ゼフィサスを好きな相手からは時々睨まれる事はあるが、お互いに顔を合わす事も無くなったため、悪口などは無い。
マリアにとっては平和な日常に戻った。
「なら、フルーツパーラーなんてどう?暑いし、涼しげなお菓子もあるし、さっぱり系」
「そうしよう!」
「なら、俺も行く」
「「アルフ(くん)!?」」
「フルーツパーラーだろ?俺も一緒に行く」
アルフレッドは急に現れたかと思えば欠伸しなから、背伸びをした。
試験を解き終わってから寝ていたのだろう、少しだけ髪に寝癖のような跡がついている。
アルフレッドの中では許可を取る必要もなく、行く事は決定らしい。
「甘い物好きだったっけ?」
「果物の氷菓子は好き」
「そういえば祭りの露店で必ず食べてたね」
幼い頃はアルフレッドの家族とマリアの家族は一緒に祭りへ行く事も時々あった。
その時に必ずアルフレッドが露店で買っていたのが氷菓子だ。
そして、食べ過ぎて次の日には必ずお腹を下すのだ。
「お腹痛くなるまで食べないでよ?」
「いつの話だよ・・・」
「じゃ、3人で行こうか!」
制服のまま3人はバスに乗り、目的のフルーツパーラーへと向かった。
今日はアルフレッドも一緒なのと、ローラの制服のスカートはそこまで短くないので、以前カフェに行った時の様な不埒な視線がローラに向いてくる事はほぼない。
そのためマリアは、今日は安心して座席に座ることができる。
代わりに、アルフレッドが横に立って鋭い目をしていた。
それを見ていると、思わず笑みがこぼれる。
「何、見てんだ」
「いや、私も前に同じ事したなぁって・・・それを先輩に見られてて・・・」
思い出して口から出た先輩と言う言葉に、マリアはハッとする。
そんなに日にちは経っていないのに、自然とでたその言葉が懐かしく、その後の言葉が続かない。
そっと温かい手が両側から伸びてくる。
アルフレッドが頭を撫で、ローラが手を握ってくれた。
そんな2人の優しさが本当に嬉しい。
2人とも、シルヴィアとの事件以降マリアの事を気にしてくれていた。
何を聞かずとも察してくれているのだろう。
その後も、ローラが色々と話をふってくれて、気づけばバスを降りあっという間に3人はフルーツパーラーへと到着していた。
ローラはタルトとジュレのスイーツセット、アルフレッドはハーフサイズの氷菓子が二種類選べるセット、マリアはパルフェを選び注文した。
「テクラさんとのお手紙のやり取りは順調?」
「うん。ただ、今は法陣局の試験があるから試験が終わるまでは、お手紙はお休みしてる。やっぱり、専門知識の記述試験が難しいみたい」
テクラは試験に集中するため残りの試験までの期間、手紙のやり取りを休ませてほしいと手紙にかかれていた。
どうしても受かって、マリアに会いたいと熱烈に書かれればマリアも嬉しくて我慢できる。
だから最後にその手紙に返事を書いて以降、テクラからの返信はない。
「ま、凡人だと受からない職種だもんね」
「リアの文通相手って法陣希望なのか?」
「そうみたい」
「ふーん・・・、頭良いんだな」
まさか、アルフレッドから褒めるような言葉がでてマリアは驚いた。
「何、その顔?」
「アルフでも凄いとか思うんだね」
「そりゃぁ、思うことくらいある」
ムスッとした表情でアルフレッドはマリアを見てきた。
「あ、アルフくんの来たよ〜」
運ばれてきた商品を見て、アルフレッドは目をキラキラして嬉しそうな表情を浮かべ、スプーンを握る。
その様子を見ていると子供のようで可愛い。
その後、マリアとローラの商品も届き、甘いものを前にして3人は試験後の幸せな解放感を満喫した。
店を出て、帰りのバスに乗るまでにローラが少しだけ見たい店があるとの事で寄り道をした。
可愛い雑貨の店で、男性は入りにくいとの事でマリアもアルフレッドと共に店の外で待つ事にした。
「少しマシな顔つきになってきたな」
「はぁ?どう言うことよ」
「数週間ほど前は、死にそうな顔してたからな」
「・・・心配してくれてたんだね。ありがとう」
「・・・・・・」
照れているのだろう、アルフレッドは顔を見られないようにマリアから顔をそらした。
「お前のこと、大切だから・・・」
「え?」
「俺じゃだめか?リアの隣にいるのは・・・。好きだ」
まさか、アルフレッドからそんな言葉を聞くとは思わず、マリアは突然の告白に驚いた。
アルフレッドは顔を晒したままのため、表情はわからない。
「いつから?」
「ガキの頃から」
アルフレッドはいつもぶっきらぼうで、異性として見るよりも兄弟の感覚で側に居た。
優しい所もあるが、喧嘩口調で話すことが多いため、マリアの中ではハッキリと答えが出ている。
「アルフ、ありがとう。でも、ごめんなさい・・・。アルフの事は弟としてしか見れないわ」
「弟!?」
マリアの返事にすごいスピードでマリアの方へ振り向く。
グワンと音がしそうなほど速かった。
「うん」
「俺が兄貴だろ!」
「え?弟だよ」
「どこが!?」
「そう言う所」
アルフレッドは心当たりがあるのだろう、不服そうではあるがその事に対して言い返してくることは無かった。
「くそっ・・・緊張して損した。リア、ミーサンが遅いから見てこいよ」
「行ったほうがいいなら・・・」
「行ってこい」
アルフレッドに言われた通り、マリアはローラを呼びに店内へと入っていった。
後ろを振り返る事はしなかった。
アルフレッドは1人になりたかったのだろう。
それくらい、マリアにでもわかる。
マリアは店内でローラを探すふりをして、数分だけ時間を潰す事にした。
戻るのが短くてもきっとダメだ。
そして、マリアとローラが戻った時、「おせーよ」と不機嫌そうに声をかけてきてくれるだろう。
そんな事が簡単に想像できるくらいには身近な存在であったのだと、改めてマリアは感じた。




