20話
シルヴィアが連れて行かれ、残った教員にマリアとゼフィサスは事情を聞かれて説明した。
学園が側の不備と言うことで、教員達からは対応が遅れた事を謝罪された。
図書室の鍵もそのまま返しておくと言われて、そのまま帰宅しても良いことになった。
図書室を出た時と同じように一定の距離を取り、無言でマリアとゼフィサスは歩いていた。
寮には向かわず、ゆっくり離せそうな中庭のベンチへと向かっている。
先程の騒動でマリアは気が削がれては居たが、ゼフィサスから頼まれ仕方なくマリアが折れた。
ベンチに隣り合って座ると、ゼフィサスはいのいちばんに先程の事を謝ってきた。
何度も巻き込んですまない、と。
しかし、シルヴィアの行動を予想することなどできなかっただろう。
シルヴィアの頭の良さと、友人の存在。
深く関わらなければ知る由もない。
シルヴィアが自分に自信を持っている言動はそこら中にあったので、頭の良さくらいは気づけたかもしれない。
ただ、それが分かっていたところで、できる対応と言うのは限られている。
「先輩も被害者です。こちらこそ、守ってもらってありがとうございました」
「・・・・・・」
前に立ちはだかってくれた事に対しては感謝しかない。
巻き込んだのだから、その義務だと言われても納得はするが、無責任にマリアを置いて逃げる選択肢もあったはずだ。
色々とある選択肢の中で、ゼフィサスは『守る』を選んだ。
それだけで、マリアには絶対に大丈夫と言う安心感を与えてくれた。
しかも、反撃と言う愚かな選択をしなかった事がゼフィサス自身を勇猛にみせた。
反撃していればゼフィサス自身にも罰則があったかもしれない。
しかも、3年のこのタイミング・・・就職自体にも影響が出たかもしれないのだ。
チラリと隣に座るゼフィサスを見れば、それに気付いたのかゼフィサスもマリアへと視線を向けてきた。
「リア・・・、最近俺のこと避けてるよね?」
図書館で喋りかけて来た時と同じように不安そうな表情だ。
「・・・・・・」
リアも肯定する事が心苦しく、無言だ。
それだけでもゼフィサスなら肯定である事を理解するだろう。
予想通りゼフィサスも答えないマリアを見て、悲しそうに視線を地面に落とす。
「俺はリアが好き」
その言葉は地面へと向かっていて、リアの方へは向いていない。
その言葉に驚きとともに、それを寂しいとマリアは思った。
「リアは俺が無表情でも、俺の気持ちを感じとってくれる。気付いた時は、嬉しかった・・・。あとは、字も可愛いなとか、表情が豊かで見ていて楽しいと思った。だから、少しずつ距離を詰めていったけど・・・それで変なトラブルに巻き込んで怖い思いさせた。もし、あれがなかったら・・・」
ゼフィサスはシルヴィアのせいでマリアがゼフィサスを避けていると思っているのだろう。
あれは、きっかけではあるが、原因ではない。
マリアもそれを伝えるためにゆっくりと気持ちを話していく
「今回の事で先輩を嫌いになったとかでは無いです。先輩と話すのは楽しいし、安心します。でも、先輩が素敵すぎて、隣にいると気後れしちゃって・・・。分不相応かな、って思っています」
「そんな事・・・」
「思われています。先輩の気持ちは嬉しいです。ただ、平凡で先輩の横にいる自信がない私では、先輩の気持ちにお応えする事はできません」
マリアはゼフィサスの横顔をジッと見つめていた。
「自信がないから?」
「はい。それと・・・私には文通相手がいて、その人の事が・・・」
気になっている人だ。
嘘ではない。
嘘ではないが・・・その事を話さなければならないのも、心苦しい。
「どんな人?」
「誠実そうです。それにその人もとても優秀な人みたいです。まだ、お会いした事はありませんが」
「俺とは何が違う?」
「魔力の相性が保証してくれています。もし、その人に私が不釣り合いだと言われても、きちんと胸を張って言い返せます」
「・・・わかった」
ゼフィサスはゆっくり立ち上がった。
納得してくれたのか、少しマリアはホッとした。
そして、これが本当に最後になるだろう。
寂しい気持ちも溢れ出してくる。
「リア、そんな顔しないで。期待しちゃう」
右手を差し出して来たゼフィサスの表情は少しばかり暗い。
その差し出された手にそっと手を置き、マリアもベンチから立ち上がった。
すると、強引に手を引っ張られ抱きしめられた。
「先輩!?」
「ごめん、少しだけ。これで後は頑張れるから」
ゼフィサスからはあまり似合わない甘い花のような微かな香りがした。
(この香り・・・、知ってる?)
記憶の中を探ると、テクラの手紙についていた香りにたどり着いた。
初めて送られてきた大切な手紙にとても似ている気がした。
なんだか、それが嬉しくてゼフィサスのシャツをぎゅっと握りしめた。
(勘違いしちゃダメ・・・)
そのまま抱きしめられた状態がしばらく続くがそれは永遠ではない。
ゼフィサスの腕から解放されれば、マリアの中に名残惜しさが顔を覗かせ、マリアはその気持ちを奥へと押し込める。
「ありがとう。寮まで送る」
薄暗くなって来ている。
シルヴィアの事もあったので気まずさもあるが、マリアは素直に頷いた。
2人ともお互いの時間を噛み締めて味わうようにゆっくりと無言で歩いた。
しかし、その時間は有限だ。
歩みは遅くいつもの倍以上の時間をかけて寮までたどり着いた。
人目は気になるがエントランスで向かいあい、最後に言葉を交わす。
「リアは自分で思っている以上に素敵で魅力的だから」
「ありがとうございます。先輩に言われたら自信つきますね」
「こちらこそ、ありがとう」
ゼフィサスがそっと手を差し出してくる。
マリアはその手をそっと握る。
お互いに握手を交わし、手が離れればお互いに寮の入り口へと無言のまま2人は別れた。




