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19話

足の不便さもほぼ慣れて日常生活には困らなくなってきた。

噂は少しずつ広がりつつも、訂正内容も友人や知り合いのお陰で広がっている。

悪意を感じる視線を向けられる事もあるが実害は今のところはなかった。

ゼフィサスの事で一部の女性徒達からは陰口を叩かれているが、聞かない・・・聞こえない様にしている。

それと、シルヴィアからの謝罪は今のところない。

一応は学園には来ているようだが、教員からは接近を禁止していて全ての調査が終わり次第報告すると言われて、そのままだ。


そして、マリアは只今ピンチの真っただ中だ。

ゼフィサスと最後のお別れをして2週間、マリアはゼフィサスと顔を合わさないように注意していた。


ゼフィサスがマリアを探しているらしいと言う話は方方から聞こえてきた。

ゼフィサスの姿を見つけたら逃げて隠れる。

待ち伏せされていたら、ローラを呼び出して喋りかけてこれないような雰囲気を出して、ローラと話しながら通り過ぎる。

3年で校舎にいる事が少なかったため、どうにかこうにか今までゼフィサスからの接触を避けてこれたが、この日ばかりはどうしようもなかった。


図書室の当番である。


放課後になり図書室に行き、カウンターに座ってしばらくするとゼフィサスが入室してきた。

今のところ喋りかけてくる事は無いが、同じ空間に無表情のままマリアをジッと見つめていた。

そちらに目を向ければ、目が合いそうな程ずっとだ。

しかも、機嫌は頗る悪そうに見える。


今日は逃げられそうに無いと、諦めにも似た気持ちで図書委員の仕事をこなしていた。

諦めが早いとは思うが、今日はローラも用事でもう学園内には居ない。

一緒に当番の子は1学年下の子であまり顔を合わした事も無く、最初に嫌な顔をされたので噂を鵜呑みにしているタイプであろう。

頼る事もできない。


なら潔くゼフィサスに捕まった方が、気力も体力も使わずに済む。

ただ、無駄な事はせずに低燃費でありたいだけだ。


マリアは淡々と作業をこなしていった。


図書室を閉める30分前。

ゼフィサスが席を離れたかと思うと、無表情のままマリアが居るカウンターを目指して歩いてくる。

気づかないふりをして、読みかけている本に目を向けているが文字をどんなに追ったところで、内容は全く頭に入ってこず理解できない。

同じ場所ばかりを読んでいる。


「リア・・・」


いつぶりになるだろうか、耳に心地の良い低音の声がマリアの愛称を呼ぶ。

呼ばれれば、無視するわけにはいかないので顔を上げる。


「こんにちは、先輩。貸出ですか?返却ですか?」


マリアはにこやかに事務的な文言を返す。


「終わったら、話したい・・・」


表情は真剣だが、いつもよりも自信が無さそうに見えた。


「どんなご用件ですか?」

「リアに伝えたい事がある」


真っ直ぐに見つめてくる紫の瞳は吸い込まれてしまいそうな程美しく、魅力的だ。


「今ではいけませんか?」

「できれば2人で」

「・・・わかりました」

「ありがとう」


マリアが了承すれば、ゼフィサスはどこか嬉しそうな表情を見せた。

ただ、他の人が見てもいつも通り無表情に見えるだろう。

微かな変化だ。


「取り敢えず、シルヴィアだったか?彼女は俺と君には学校側から接近禁止になっている・・・」


ゼフィサスは唐突にシルヴィアの事を話し始めた。

正直、マリアにとってはあまり聞きたく無い名前だ。

ゼフィサスも同じなのか、シルヴィアの名前を出した瞬間に眉間に皺が寄った。

しかも、そのまま嫌そうな顔は継続だ。


「あ、はい?」

「俺への付き纏いと、君への暴言と暴行未遂で」


なぜ、この話をこの場でするのか。

後からではダメなのかともマリアは思ったが、とりあえず話は最後まで聞くことにした。


「接近すれば感知の魔法で教師がすぐにきてくれる」

「わかりました」

「噂をそのまま鵜呑みにしている者も多いみたいだ」


態々この場所で話すのかそのゼフィサスの言葉でマリアは理解した。

聞き耳を立てているだろうこの空間に居る人物達に釘を刺しているのだ。

図書委員の後輩をチラリと見れば、気まずそうに仕事をしているフリをしていた。

効果があったみたいだ。


「教えていただいてありがとうございます」

「リア、また後で」


先程までの渋そうな表情はどこへ行ったのか、無表情に戻り少しだけ柔らかい雰囲気でゼフィサスは座っていた席へと戻っていった。


シルヴィアの事で不安が残っていたのも確かのため、マリアにとってゼフィサスからの情報はとてもありがたいものであった。

気を張る生活が少しだけ緩めてもいいかもしれない。

ただ、嫉妬に関してはシルヴィアだけでは無いだろうから、気を抜きすぎるのも良くはないだろう。



図書室が閉まるまで残り25分。


これが最後のゼフィサスとの直接のやり取りになるだろう。

来て欲しくない時間かもしれない。

マリアにとっては一度離れると気持ちを固めたのに、それが脆く崩れようとしている。

どんな話をされるのかはマリアにはわからないが、謝罪なのではないかと予想がする。


以前の曖昧な別れではなく、はっきりとしたお別れができるだろうか。


来て欲しくない時間と言うものは、あっという間に来てしまうもので、時計は図書室を閉める時間となった。





「お待たせしました。鍵だけ、返してきます」

「着いていく」


片付けが終わり、マリアは図書室を閉めると鍵を職員室へと持っていく。

その後ろを少し離れてゼフィサスが歩いていた。


適度な距離をあけて歩いているため、会話などは無く無言だ。

すれ違う人から見て、2人が知り合いには見えないだろう。

そんな距離感。


職員室まで半分くらいの距離に来た時に、廊下の壁を背にこちらをジッと見ている人影が見えた。

夕刻ではあるが、まだまだ明るくて直ぐにそれが誰かマリアは気付いた。


目は以前、対峙したとき同様に強烈な怒りを含んでいる。

その睨み付けてくる視線に、マリアは足が竦みじんわりと嫌な汗が出てくる。

シルヴィアに対して、思っていた以上に恐怖を感じていたようだ。


後ろにいた、ゼフィサスもそれに気付き早足にマリアに近づくと、マリアを庇う様に立ち止まった。


「俺も居るし、教員も直ぐに来る」


丁度、図書室と職員室の中間地点。


感知魔法は近づいてくる者の感知精度は高いが、近づいてしまった時の精度は少し落ちる。

シルヴィアが近づけば直ぐに対応してくれる教員も、シルヴィアへ近づいていった場合は少し反応が遅れると言うわけだ。

それを考慮し教員が来る時間も考えて、シルヴィアは待ち構えていたのだろう。


図書館内に、誰かシルヴィアの友人でもいて情報を渡した人物が居るのだろうと予想はついた。


「私は近づいたらいけないのに、何でアンタはゼフ先輩と一緒にいるのよ!離れなさい!!」


下校時間も近く人の姿は無い廊下に、金切り声が響き渡る。


「ゼフ先輩!先輩には私の方が似合うわ!!今までだって見た目も魔法も勉強も努力してきたの!だから、私が・・・」


声は聞こえきても、前に立ったゼフィサスのお陰でシルヴィアの姿はマリアからは全く見えない。

それだけでも怖さは幾分がマシだ。


「近づくな」


ゼフィサスの声が響く。

シルヴィアのように怒鳴っているわけでも、大きな声でも無いのに静かに低い声には迫力があった。

その声を聞いてシルヴィアが、校内で使う事が禁止されている攻撃魔法の呪文を唱えはじめた。

すると、ゼフィサスの纏う空気が一気に変わった。

ピリピリと肌に感じる殺気。

しかし、ゼフィサスの大きい背中に安堵感もあった。


攻撃が放たれた瞬間、閃光が走るが、すぐにゼフィサスの防御に相殺された。


「なんで!?何で!?何で!?」


シルヴィアの叫び声が廊下をこだまする。

シルヴィアは次の攻撃魔法の呪文を唱える事は無く、すぐに駆け付けて来た教員達により取り押さえられた。

10人近い大人たちに囲まれて、けたたましく叫び声だけを上げる。


「離して!離せ!離せよ!先輩が好きなの!助けて、先輩!!」


直ぐにその声が消えた。

ゼフィルスの後ろから微かに見えたシルヴィアは髪を振り乱し、鬼のような形相だ。

以前の凛とした美しさは感じられず、醜くい。


そのままシルヴィアは引きずられるようにどこかに連れて行かれた。


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