12話
「マリ!!」
昼食を食べ終わり、ローラや他数名の同級生と談笑中にアルフレッドの声が中庭に響き渡る。楽しくお喋りしていたメンバーは驚き笑うのを止め、マリアに向かってくるアルフレッドに注視した。
アルフレッドの可愛らしい顔は残念なほど歪んでおり、怒りを孕んでいるのは理解できたが、マリアにはアルフレッドを怒らせた理由に心当たりがなかった。
「なに?アルフ」
マリアはアルフレッドの剣幕に怯むようすもなく、飄々とした態度を崩さない。
普通の女の子であれば恐怖で、マリアのような態度はとれないであろう。
「昨日の晩飯、男と飯食ってたらしいな?」
昨日、男・・・とくれば、マリアに思いつくのはゼフィサスただ1人である。
だが、アルフレッドはどこから話を聞いたのか。
食堂に人が居なかったわけでは無いから、噂が巡り巡ってアルフレッドに届く事もあるだろうが、情報通のローラよりも先にアルフレッドが知っていることの方が驚きである。
「知り合いの先輩がたまたま向かい側に座った・・・だけだけど?」
嘘はついていない。
待ち合わせをしていたわけでは無いし、たまたまゼフィサスがあの席に座っただけなのだ。
「たまたま?たまたま居合わせただけで、楽しそうに話すのか!?」
「まぁ、面白い話ならね?」
確かに会話は弾んだ。
ゼフィサスがいつも以上に饒舌で、楽しく喋っていたのは事実だ。
「誰から聞いたの?アルフ、あそこには居なかったでしょ?」
「友達が教えてくれた」
「あら、噂好きの物好きな人とご友人なのね」
その友人はアルフレッドがこうなるのがわかっていて話したのかはわからないが、この怒号を聞かされる身にもなってほしい。
「じゃなくて!文通相手も居るのに・・・」
「・・・アルフくんはなんで怒っているの?」
ローラの可愛らしい声でその場に一瞬静寂が生まれる。
「・・・なんで?」
ローラの口元は笑っているが、目は全く笑っていない。
(お喋りの邪魔をされて怒ってる・・・)
ローラとの付き合いは入学してからのため、まだそこまで長くは無いがローラが怒っている事は周りも察するくらいにはわかりやすい。
怒った犬のようにキャンキャン吠えていたアルフレッドも黙り込んだため、とでもわかりやすい。
「俺はマリの事が心配で・・・」
ローラの圧に押され、アルフレッドはしどろもどろで、尻尾と耳を垂らした犬のようにしょげてみえる。
「マリちゃんのことが心配なら、そんな怒らなくても良いんじゃない?マリちゃん、別に悪いことはしてないよね?」
「はい。し、していません」
「なら、どうするの?」
「どうする・・・とは?」
「悪い事をしたら?」
「はい」
ローラに説得されたアルフレッドはマリアの方へと向き、小声で謝罪を述べる。
「マリ、ごめん」
「なさい」
「ごめんなさい」
「・・・あ、うん・・・大丈夫」
ローラを怒らせるべきでは無いとアルフレッドのお陰で深く学んだ日となった。
「良い子、良い子、アルフくん」
ヨシヨシとローラは母親の様にアルフレッドの柔らかな赤茶髪を撫でると、ローラに対してアルフレッドはありがとうと言う言葉を伝えた。
それを見て、なんだかマリアはキュンとしてしまう。
(何・・・この2人・・・可愛すぎる。尊い)
ローラとアルフレッドのやり取りは、前半が少し狂気じみていたが、後半はあまりにも可愛く、見ていて癒される者もいた。
そのため、2人を見守る会が発足されようとしている事はまだ誰も知らない・・・。
「で・・・マリちゃん。先輩ってどなた?」
マリアが2人の関係に癒されている最中、ローラの黒い笑顔がマリアに向けられてきた。
ローラは話を終わらしてくれるほど優しくは無かった。
その答えを1番聞きたかったであろう、アルフレッドもシュンとしていた頭をしっかりと上げて、マリアの回答を待つ。
「ゼフィルス先輩です・・・。この間バスで見かけた・・・」
「はぁ!?なんでお前みたいなのが!!?」
「アルフくん。カッとならずに、ちゃんとお友達から話を聞いてくれていれば、誰かもすぐわかったんじゃ無い?」
また、口を出してきたアルフレッドに正論を淡々と伝えるローラの姿は可憐なのに勇ましい。
「すみません」
「・・・この間カフェに行った時にはもうお知り合いだったの?」
「あ、はい。少し喋ったことがある程度ですが・・・」
ローラの問いかけに、何故かアルフレッド同様にマリアも敬語になってしまう。
恐るべきローラ様。
「いつ知り合ったの?」
「図書委員の当番の時に、図書室で・・・」
「・・・もう!マリちゃん、なんでそんな楽しそうなこと秘密にしてたの!?酷いよぉ〜」
ローラは唇をとんがらせて可愛らしい表情を作り、いじけた事をアピールしてくる。
「先輩とは本当に少しお話するくらいで・・・」
「好きなの!?」
突飛な質問に笑い飛ばす。
アルフレッドからは息を呑む音が大きく聞こえる。
「無い、無い!確かに目の保養はさせてもらってるけど・・・。私、今魔力の相性の良いお相手と文通しています!」
眉目秀麗、頭脳明晰なゼフィサスは、優しく頼りになる先輩ではあるがマリアからすれば難攻不落の要塞のような存在である。
最近は話す機会も多く、親近感はあるが、やはりマリアの中では相性が確約されている手紙の君・・・テクラに対す気持ちの方が恋に近いと思う。
今は現を抜かすわけにはいかない。
昨日、部屋に帰ってからも、決意したばかりだ。
「な~んだぁ。でも、もし何かあれば教えてね」
「はいはい・・・」
その後、バスの中でゼフィサスと一緒に居たシルヴィアとの事を話したり、今日放課後に会う約束をしている事など休み時間のほとんどの時間を使い、マリアは声が枯れかけるほど色々と話を聞かれた。
女の子たちはゼフィサスの話を聞きながら、目を煌めかせていたがアルフレッドだけは興味が無さそうに、しかしその場から立ち去る事も無く最後まで話を聞き続けていた。




