11話
「先輩はデート楽しそうでしたね~!彼女美人ちゃんだし」
いつも以上に楽しそうで意地悪い表情のゼフィサスに、マリアは笑いすぎだと、嫌味の一つや二つをぶつけたくなった。
ゼフィサスがマリアの恥ずかしい表情を盗み見たのなら、マリアはゼフィサスのデート現場を目撃しているのだ。
それで反撃してみる。
「はぁ?彼女?居ないけど・・・」
ゼフィサスは彼女の存在をはっきりを否定した。
本当に心当たりの無さそうなゼフィサスに、あまり考えたく無い答えをマリアは脳内で導き出してしまった。
「ぇ・・・まさか・・・お、大人の・・・お付き合い・・・だけ?・・・破廉恥!」
キスの単語だけで顔を赤くするマリアは顔面を真っ赤に染めて、クズを見るような目をゼフィサスに向ける。
「変な想像するな。心当たりがない」
心底冷たい視線を向けられる。
心外だと言う、思いが込められているのかその視線自体がとても痛い。
「でも、あの日図書委員のシルヴィアちゃんと一緒でしたよね?」
「シルヴィア?」
「金髪で・・・」
「・・・あぁ」
そこまで説明してやっと思いだしたのか、すっきりとした表情をゼフィサスは浮かべだ。
「あの女、俺が行くところに何故か居て・・・しかも、やたらと触ってくる。香水もきつい」
ゼフィサスは大きくため息をつき、パンの最後の一切れを口の中に放り込む。
「図書室で何度か喋りかけてこられて、うざいし。名前も知らない」
「困って・・・るんですか?」
「迷惑」
ゼフィサスはシチューも飲み干して完食。
喋りながら器用である。
口の端に着いたシチューを親指で拭き取り、それを舐め上げた。
その子供っぽい動作でもゼフィサスがしたらなぜか絵になる。
最後に布巾で手を拭き終える。
「ちょっとシチュー貸して」
聞き手に回り、食べる事を忘れていたマリアの皿の上にはまだ半分以上シチューが残っている。
(まだ食べるの?てか、残したわけじゃ・・・)
「温めて直す」
人の食べさしまで、ゼフィサスは求めているのかと思ったがそうではなかった。
マリアは『疑ってごめんなさい』と心の中で謝罪する。
マリアはシチューの乗った皿をゼフィサスに差し出すと、ゼフィサスは簡単な火魔法の呪文でシチューをほんのりと温めなおしてくれた。
皿を返してもらい、口をつけるとシチューだけが熱くなっている事にマリアは感心した。
マリアだと容器まで熱して、こんな最適な温度にはならないだろう。
「凄い・・・シチューだけが最適な温度・・・」
空間の把握と物質の素材に質量と様々な事を考えて温めたのだろう。
優秀だとは聞いていたが、ゼフィサスの魔法を目の当たりにしてその凄さがはっきりと理解できた。
驚いてばかりはいられない、美味しい状態に戻してもらったシチューをマリアは一生懸命口に入れる。
「焦りすぎ」
先程は冷め切ってしまったシチューを、美味しいうちに食べ切るのが今の目標だ。
半分程は食べ終わっていたので、量もそこまで多くはない。
マリアがシチューを食べる様子を、頬杖をついたままゼフィサスが眺めていた。
無表情ではあるが、目元が少しだけ優しい。
マリアはいつもより食べる姿に気を付けながら、シチューを口に運ぶ。
「ゼフ、俺たちそろそろ戻るけど?」
マリアがもう少しで食べ終わりそうな頃、ゼフィサスの友人達だと先ほど教えられた3人組が声をかけて来た。
「あー、・・・」
ちらりとゼフィサスの視線がマリアに向いてパチリと目があった。3人からの視線も一斉に集まる。
「こ、こんにちわ〜」
「「「ちわっ」」」
先輩が4人もいれば、その空間の居心地は良いものでは無い。
マリアの中では完全に異世界だ。
「先輩、お疲れ様でした!」
そのままゼフィサスに撤収してもらおうと、マリアが手を振るとゼフィサスの表情が少し曇った。
「俺、女子寮の入り口まで送ってくから先行って」
「うぃ。てか、ゼフちゃんこの子は?」
オレンジ頭の友人A。
「マリア・ピヨタン、一個下」
「マリアちゃんね。俺はユージンよろしく」
友人Aはユージンだった。
「で、こっちの黒緑の頭がアンディでこっちの金髪がジョージ。てか、ゼフちゃんが楽しそうに話してんの珍しいね。俺たち思わず二度見、三度見・・・それ以上しちゃった。また、詳しく教えてね、じゃぁね。マリアちゃんもまたね~」
ユージンだけが1人で喋り倒し、あとの2人はほぼ声を発することはなかった。
4人でいる時の会話の中心人物がユージンだと言うことは教えてもらわなくともわかる。
1人くらいは喋る人間がいなければ、集団行動はもたないだろう。
そのまま3人がその場から立ち去ると、異世界から現世へと戻ってきたようにほっとした。
「先輩、私の名前知っていたんですね(教えたっけ?)」
「知ってる」
マリアが食べ終わると、ゼフィサスは手早く2人分のトレイを手にして立ち上がった。
「先輩?」
そのまま、ゼフィサスは2人分の食器を返却しに行ってしまい、慌ててマリアはその後を追いかける。
「先輩自分の分くらい、ちゃんと自分で持っていきます」
「俺のついで」
トレイがマリアの手に戻って来ることは無く、そのまま返却された。
「ありがとうございます」
「送ってく」
そのまま、ゼフィサスはマリアを女子寮の入り口まで送っていくために、マリアの横を無言で歩く。
イケメンに優しくされて、嬉しくないわけが無い。
ただ、距離が近づきすぎても良いことがない気もする。
ゼフィサスと一緒に居れば注目を集めて、様々な視線も感じる。
ましてや、マリアには今文通相手もいる。
夢にまで見た、憧れの文通。
まだ名前も顔も知らない、手紙のやり取りを数回しかしたこと無い相手であるが、これからゆっくりと気持ちを育みたい。
そこに、突然接点の出てきたイケメンの先輩。
しかも、知れば知るほど魅力的な部分が見えてきて、近づけば危険な香りが漂っている。
「じゃぁ、おやすみ。また明日」
「おやすみなさい」
(そうだった・・・明日も、約束してたの忘れた!)
マリアの危険予知は発動した。
危険な香りの方へ、少しずつ手繰り寄せられていくようなそんな感覚だ。
だが、マリア自身はまだまだテクラへの気持ちの方が大きい。
(テクラから早く、返事こーい!)
ゼフィサスに落ちる前に、テクラに気持ちを最上階まで引っ張り上げてほしいマリアであった。




