10話
人も疎になってきた寮の食堂でマリアは一人で夕食を食べようとしていた。
いつもであればローラと一緒にもう少し早い、人がごった返す時間に食事をするが、今日はしかたなく1人で食事をする理由があった。
今日は特別授業で外部から講師を呼んで享受する魔法薬学の授業があった。
前半は講師の仕事内容を聞き、簡単な魔法薬学の講義を受け、後半は実習で栄養ドリンクの精製だ。薬草を抽出した緑色の水に、自分の魔力を混ぜて自分専用の栄養ドリンクを作る。
上手く精製できれば透明な液体となるのだが、マリアはそれがうまくできなかった。
出来上がりが悪かった者は、居残りとなり出来たものはその場で帰宅許可となっていた。
マリアは下校時間ギリギリまでかかり、出涸らしのハーブティーの様な栄養ドリンクが完成し、なんとかギリギリ合格となった。
ちなみに、2人程は不可になっており、マリアももう少し色が濃ければ不可だっただろう。
魔力もだいぶ消費して、自室に戻るとベッドに倒れこみそのまま少し寝てしまっていた。
起きて時計を見て慌てて食堂へやってきたのだ。
起きるのがもう30分遅かったら夕食を食べ逃していただろう。
寮にはエントランスや食堂、談話室など共同エリアの中央棟、その東西にそれぞれ男子寮と女子寮が建っている。
男子、女子寮共に異性の立ち入りは許可されておらず、魔力にて入室管理が徹底されている。
トレイに乗ったシチューはいつも通りの鶏の胸肉で、いつも少しパサパサしていて味気ない。味は美味しいのだが、このパサパサだけがどうしても残念だ。
「・・・1人?」
スプーンで掬い上げ口にシチューを運びこもうとした時、ナンパの様な声かけをして、向かい側に座ろうとしている人物がいた。
相手が机の上に置いたトレイに目を向けると、紫色に塗られた爪が目に入る。
何となく、それで誰だか予想は付いたが、一応顔も見てきちんと確認する。
「はい、一人です。先輩も?」
口に運ぶ予定だったシチューは皿の中へと戻され、スプーンはそのまま皿の上へと置いた。
向かい側に座るゼフィサスはいつも通り無表情だが、麗しい。
「あっちに連れがいる」
前回会った時に黒かった爪は、妖艶な紫へと塗りなおされている。
その爪の指す先には3人ほど上級性が椅子に座っていた。
ゼフィサスの友人達は、ゼフィサス同様見た目はそれなりに派手には見えるが、騒がし感じではなく、どちらかと言うと落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
ゼフィサスからして賑やかなグループに属しているのは考えにくいので、同じ様な雰囲気のメンバーが揃っているのかもしれない。
(ならなんで?)
友人達と来たのなら、わざわざ離れて食べる必要も無い。
挨拶だけなら席には座らないだろう。
マリアの目の前に座る人物はマリアの考えている事を尻目に、自然にシチューを口に運ぶ。
「この時間に来るの・・・珍しい?」
「あー、はい・・・実は・・・」
マリアは自分が魔法薬学の授業で栄養ドリンクの精製が上手にできなかったことを話す。
自分の至らない部分を明かしているわけで、マリアは羞恥心で心がすり減る。
「ギリギリの合格でした(恥ずかし・・・)」
「魔力の注入量を一定にできないんだろ?だから、ダマになる」
「それはそうですが・・・」
言われなくても、マリア自身が一番よくわかっている。
ただ、それが上手く調整できないのだ。
「今度、見せて」
「はぁ?」
「魔力を出してるとこ」
「はい」
ゼフィサスはパンをつかむとそのまま口に持っていき、噛みちぎる。
小さく引きちぎって食べそうなところを想像していたマリアは、荒々しく食べるさまに見惚れてしまい、思わず無意識に同意してしまった。
「明日は放課後、空いてる?」
「はい」
「E棟の第三実験室。あそこなら使ってないか・・・そこに来て」
「で・・・も」
ご迷惑じゃ・・・と抵抗を見せかけると、ゼフィサスの紫の瞳がマリアを射抜く。
有無を言わせぬ目力にマリアはあっさりと降参する。
「お、お願いします」
マリアは急な予定追加に喜びよりも、戸惑いの方が優っていた。
ちょびちょびと口にしていたシチューは、ほぼ冷めていて猫舌の人間にはちょうど良い温度かもしれないが、マリアには少し温すぎた。
鶏肉は余計に硬くなっていて、美味しくない。
「こないだの休み、バスで何してた?キョロキョロしなが、鬼の様な形相したり、急に笑ったり・・・」
「え゛?」
今度はサーっと身体中から血の気が引いていく。
まさか、マリアが同じバスに乗っている事に、気づいているとは思ってなかった。
もし、マリアに気づいても、表情は見られないようになるべくゼフィサスが乗車してから後ろは見ないように気を付けていたのだ。
「百面相してて、面白すぎ」
ゼフィサスは口を抑え、プッと吹き出した。
思い出しているのだろう。
「あれは・・・その・・・友人が短いスカートを履いていたので、不埒な目線を向けてる人に見るなと念を送っていました・・・」
「念・・・って」
「一応、効果はあるんですよ?」
「まぁ、あれだけの形相で睨まれたらな・・・」
ゼフィサスまた思い出したのか笑いだす。
よほどお気に召したのだろう。
饒舌である。
「見られないように結構気を付けていたのに・・・」
「ガラスの反射からばっちり」
反射まで気にしていなかった。
そこまでして見ている人物が居るとは思っていなかった。
今度は外に居る人まで気をつけるべきだろうか・・・。
ローラへの不埒な視線を牽制するのを辞めるという選択はマリアの中では無い。
ローラには好きな格好をして楽しんでもらい、不快な思いをしてほしくない。
ただ、それだけ・・・友情のためだ。




