9話
バスが停留所に停車して、乗り込んでくる人々の中にゼフィサスの姿があった。
ラフな紫紺色のシャツに黒のパンツ。
ゼフィサスの気だるげなイメージにピッタリである。
しかし、バスを使うイメージが無かったので、庶民的な部分に親近感を抱いてしまう。
ゼフィサスの前にはすらりとした高身長の金髪美人が時々後ろを振り返りながら、嬉しそうに何かを喋りかけていた。
ゼフィサスは一言、二言返事をしているようではあったが、いつも通り無表情だ。
しかし、無感情では無くイライラしているように見てとれた。
金髪美女に手を引かれて、後ろの2人用の座席に腰を下ろした。
「あの先輩、結構学園内でも目立つし有名だよね」
「そうだね」
ローラにはゼフィサスと面識がある事はまだ話していない。
特にどういった関係かと聞かれても、知り合いです・・・としか答え用がないので伝えていないだけである。
休日のこんな場所で見かけることになるとは、世の中狭いなどとマリアは考えていた。
「あの女の子、1年の子で最近あの先輩とよく一緒にいるらしいよ」
「へぇ〜」
(まぁ、先輩だし彼女いても不思議じゃないよなぁ・・・)
マリアは女性の方をまじまじと見てみると、どこか見覚えのある女性であった。
記憶を手繰り寄せ、どこで見た事があるのか思い出そうとする。
「どうしたの?」
「あの子見た事あるなぁ・・・て」
後輩とそこまで面識があるマリアでは無い。
自分の狭い社会の中を検索すると、心当たりのある人物が1人だけ浮かんだ。
「あの子たぶん、図書委員の後輩だよ」
「そうなの?」
「うん、確かシルヴィア・・・だったかな?」
シルヴィア・ナミジナ。
図書委員のはじめての集まりの時に一度だけ顔を合わせて挨拶をしたことがあった。
美人で目を引く容姿は華やかで眩しく、印象的であった。
(図書室で知り合ったんだろうなぁ・・・)
マリアもゼフィサスの面識は図書室がきっかけだ。
あの2人もきっとそうなのだろうと考えながら2人から視線を外し、近場にいるローラをチラチラと盗み見る奴らへと視線を戻す。
マリアもローラもバスに登場した先輩に目を向けていたため、ローラの大腿部へ不埒な視線は再び戻りつつあった。
それから降りるまでマリアは威嚇を続けた。
効果がそれなりにあったのか、ローラへ視線を向ける不埒者はバスの中ではほぼ駆逐できた。
下車してしばらく歩くと、マリアとローラはお目当てのカフェテリアへとたどり着いた。
列がそれなりにできており、1番後ろへと2人は並ぶ。
その間も行き交う人の視線からローラを守るために歩道側にはマリアが立った。
気分はローラの彼氏である。
「あと、少しだね。楽しみ」
「休日はそれなりにお客さん多いね~」
それから暫くして、窓際の見晴らしのいい2人掛けの席へと通された。
店内には女性客が多く、男性は居ても店員かカップルで来ているかで、ここでマリアはやっと気を抜くことができる。
「はぁ〜、お腹減った!」
「マリちゃん、あれが新作のモンブランみたい。楽しみだなぁ」
ローラは他の席に運ばれていくケーキを眺めながら、目をキラキラさせている。
メニュー表と睨めっこした後、新作のモンブランと飲み物をそれぞれ注文し、気楽におしゃべりを楽しむ。
「さっきの先輩と後輩ちゃん、後輩ちゃんの方が好き好きオーラ出てたね」
確かに、金髪美女の後輩シルヴィアは楽しそうにキャッキャウフフしていたが、ゼフィサスがそうだったかと聞かれてもハッキリとはわからない。
一瞬だけ感じたのは、イライラしていそうな雰囲気だ。
だが、恋人といて楽しくないわけがない。
マリアが見間違えたのだろうと、あの時のゼフィサスの表情を脳裏から追いやる。
「美男美女だから、何処でも目立ちそう」
マリアはそう口にしたもののゼフィサスはあまり注目を浴びたいタイプでは無いだろう。
(ストレスが溜まらなければいいけど・・・)
少しだけ心配に思うが、なぜ関係ないマリアが心配しているのか・・・。
頭の中が混乱してきたところで、注文した飲み物とモンブランが運ばれてきた。
「うわ〜。おいしそう!いただきまーす」
さっそくモンブランにフォークを差し込み、モンブランを掬い上げるとそれを口に運ぶ。
「ん~~あまい~。おいしい~~。幸せ!!」
マリアはフォークを置くと目を閉じ、両手を両頬に当てて幸せをかみしめる。
「・・・そう言えば、ローラは最近好きな人とか居ないの?」
「うーん、特にいないよ」
「・・・モテるのに、もったいなーい」
「ふふっ、マリちゃんもモテてるよ?」
「もてないよ。嘘つかないでよ~」
ローラはニコニコと笑いながら氷の入った飲み物をストローでかき回す。
カランカランと氷の音がなんとも涼しげだ。
「うそじゃないよぉ。それより、文通相手とどうなの?」
マリアは最近来た手紙の内容と自分の書いた内容を思い出す。
「少しずつ色々と書いたり、聞いてみたり。法陣局への就職希望みたい」
「えぇ!!?マリちゃん!お相手が就活成功して、お付き合いも始まったらマリちゃん優良物件確保じゃん。凄い!本陣局決まったら、同僚紹介してもらってねぇ!!」
「優良物件って・・・。でも、見た目が好みじゃなかったら・・・て、考えると会うのが少し怖いかも。でも、会いたい・・・」
「全部最高を求めたらダメだよ」
「でも、本でキスができない容姿だと恋愛は無理だって見たけど・・・」
キスという言葉が恥ずかしくて少し声が小さくなる。
顔に熱が集まり幾分か赤い。
「確かに、生理的に無理なら難しいだろうね」
ローラはズズーっと飲み物をストローから吸いあげる。
「魔力の相性が良いのは判明してるから安心感はあるけど、手紙の内容も好感が高くて良さげな人ではあるけど、最終的に会った時のことを考えると少し不安。でも、会いたい・・・」
「まぁ、お互い区切りがついたら顔は合わなきゃだろうねぇ。名前も知らないままバイバイは流石に無いだろうし」
文通は楽しいがその先の事を考えると少しだけ気が重くなる。
気持ちが微妙な狭間に右往左往している最中だ。
そんな気持ちを目の前にあるモンブランの甘さでかき消す。
「あ、マリちゃん・・・あの向かい側の本屋さん。さっきの先輩と後輩ちゃん」
ローラが指差した方を見ればゼフィサスとシルヴィアがちょうど本屋から出てくるタイミングであった。
(先輩、本当に本好きなんだな・・・。あ・・・でも・・・)
ゼフィサスの歩くペースは一緒に歩いた時よりも早いような気がした。
スピードを落とす事なく、シルヴィアも嬉しそうに話しかけながら、足はゼフィサスよりも早く動いている。
足は大丈夫だろうか?ヒールを履いている様に見えるため、ゼフィサスのあのペースだとキツそうだ。
その2人はいつの間に視界から居なくなったが、マリアはそのまま暫くは外を眺めていた。




