99 奪還作戦1
アデミンストに到着した。
誰にも見れられ無いようにディミトロフの本館に入る。
まだマティウス達と会うまでには時間があるが、準備も整ってはいない。
クラウスに契約魔術の詳細を調べてもらいどうにか抜け道がないか探っている最中だし、私の衣装もまだ出来ていない。
ユージーンとミラベルはともかく、クラウスに聞いても私の強みは美しさだけだと言われショックを受けるも、他は浮かばず残念な美少女として一体何が出来るのか思案中だ。
「ホントに私ってこんな時に役に立つ特技がないのね」
私の愚痴にユージーンが笑う。
「こんな時って言うけど、恋人を奪還するなんて滅多に起こる事じゃないからね。普通の人は持ってないと思うよ」
それも一理あるが、今は必要なのだ。
「そうですよ、こんな時こそ美しさは強力な武器ですわ、フェアリーネ様」
ミラベルは励ましてくれるが身内意識が強い二人の言う事はあてにはならないかもしれない。けど、クラウスも使える物は使えと言っていたので私はこの体を武器に頑張るしかないようだ。見た目が命。色仕掛くらいしか思い浮かばない貧困な思考回路が嘆かわしい。
とにかくどうにか婚約破棄に持ち込めばいいだろうか?
衣装も整い、いよいよ当日。
朝からミラベルが腕によりをかけ私を磨き上げると渾身の力で着飾ざった。
薄く化粧を施し最後に目の覚めるような真っ赤な口紅をひいた。
「完璧ですわ!怖いくらいお美しいです」
ミラベルが私の仕上がりにブルっと身震いしながら褒め称える。ちょっと大袈裟な表現だと思うが今日はそれくらい言ってもらわないと心が折れそうだ。
準備が整いユージーンとクラウスも仕上がり具合を確認しに来た。
「最初はその色のドレスをお前が指定した時は耳を疑ったが、どうやら間違いではなかったようだな」
ユージーンは目を見張りため息をつく。
「我が姪ながらここまで来ると悪魔的だな。今日はアチラの婚約者もくるのであろう?気の毒としか言いようが無いな」
ここにも悪魔の感覚があるのね。っていうか、私は呪いとか言われているのに悪魔的とか言われて大丈夫なの?人として背負うもの重すぎない?
表現の仕方はともかく、仕上がりは良いというところが大事だ。何せ唯一の武器だし。
「では行こうか、フェアリーネ。覚悟はいいかい?」
「えぇ、お兄様。参りましょう」
会議の場は、前回行った医術部門のアーヴィングの部屋が用意されていた。マティウスは医術部の者だし立会人も医術部の者が多いからかな?
とにかく学院の中を通らなければ行けないのは嫌がらせでは無いと思いたい。
学院の大階段をクラウスとユージーンに両方から支えられ何とか登りきり息を整える。まだ、体調は万全では無い。ここから広い学院内を歩き、また階段もある。
最後まで立ってられるかな?
「大丈夫かい?フェアリーネ」
ユージーンがエスコートしてくれ心配そうに声をかけてくる。私はコックリ頷き腕に掴まると歩き出した。
廊下を静かに歩いているとバサリと音がしてすれ違う男性学院生らしき者の手から本が落ちる。男は落ちた本を気にも止めず私に目が釘付けになっていた。本は大事にしようね。
その後も急に飛び退く人も現れ、周りをざわつかせながら私は進んだ。
「白い髪ってまだそんなに定着してないのね。結構目立ってたと思っていたけど」
クラウスとミラベルが目を合わしやれやれという感じで首を振る。
確かにまだ一回しかここをベールなしでは来ていないから仕方ないか。
長い道のりを経てやっと医術部の部屋にたどり着いた。部屋の前にいた案内係の者が扉を開けながら到着を告げる。
いよいよ本番!足が震える。
「デ、ディミトロフ辺境伯ご兄妹がいらっしゃいました」
お前が噛むなよ、コッチが緊張してんだよ!
私は心の中で叫ぶと一歩踏み出した。
部屋に入ると一斉に中の人達がこちらを見て固まった。
私は今日、白と称されるプラチナブロンドの輝く髪を複雑に編み込まれハーフアップにし、そこへ黒のレースタップリのリボンを付け白色を強調。さらにドレスもレースをふんだんに使った黒一式で揃え全身黒い衣装だ。切れ長の瞳に、病的に白い肌もしっとりと整えられている。
そう、完璧なゴスロリ!鞭を持ったらさらに完璧。無いけど。
ここでの常識として普段の公式の場に黒はありえない。やはり葬儀の場や配偶者や親族のいずれかが亡くなって数ヶ月着るものだ。
取りようによってはマティウスを失った喪失感を表していると思われたかもしれない。それにしては派手だろうけど、見た目のインパクトは絶大だろう。唯一の武器を効果的に使用しました。
ふんわりしたフリルたっぷりのスカートを揺らしながらゆっくりと席に着く。誰も何も話さず私を目で追っていた。
私は緊張もありニコリともせず円卓に座る皆を見渡す。
久しぶりのマティウスは少し顔色が悪い。一瞬頬をピクッとさせ私から目をそらした。
その隣にピンクのヒラヒラした衣装がよくに似合う可愛らしい少女が座っていた。マティウスの婚約者だろう。
うわっ、完全に守りたいタイプの夢見ごこちなお姫様って感じ。私は恋人を奪いに来た悪者だね。何せ呪われた悪魔的容姿の存在だから。
円卓には他にエルナンデス伯爵、ベネディクト、カイリン、アーヴィング、それから魔術部のイライジャ・ドレイパーがいた。
イライジャは初対面だ。柔らかい青緑の髪を長く伸ばした40代前後の男だ。
この場の仕切りはアーヴィングなのか彼はコホンと咳をし、軽く挨拶を交わすと、
「では気を取り直して話をはじめようか、皆様」
その瞬間ベネディクトが動き出す。
「あぁ、では賠償の事だが。フェアリーネ様をお救いする為の行為であるのだから請求するというのは如何な物かと思われるが?」
私達はテンプルウッド家に対し屋敷の修繕費用の賠償を求めた。マティウスが怒りをぶつけた屋敷は半壊し今は誰も住める状態ではない。
高額の修繕費用をベネディクトは私がマティウスに対する慰謝料的なものを含めていると思っているようだが。
「確かにフェアリーネがそのおかげで助かったとはいえ、アレではもう使い物にならない。半壊とはいえ放棄するしかないほどの損傷だ。多少の賠償はやむを得ないのでは?」
クラウスはきっちり仕事を始めた。そちらは勝手にやってくれれば良い。
私はマティウスから目を離さずジッと見つめる。マティウスも何も言わず私を見ていた。見つめ合うふたりをどうにかしようと思ったのかエルナンデス伯爵が口を開く。
「今回の事でフェアリーネ様は大変な目に会われたそうですね」
エルナンデス伯爵の言葉を聞きながらも私は視線をマティウスからそらさない。
「えぇ、大変でしたわ。でもマティウスが来てくれると信じておりましたから」
私の言葉にマティウスは無反応だ。エルナンデス伯爵が話を続ける。
「マティウス様は大変優秀ですからね。うちとしても今回の婚約は喜ばしい事だと皆でいっているのですよ」
マティウスは自分の娘の婚約者だと強調したいようだ。肝心の娘は私を凝視したまま動かない。大丈夫?別に噛まないよ、直接は。
「それは良かったですわね。エルナンデス様」
私はしつこいエルナンデスに目を向けた。私と目があったエルナンデスは急にグッと黙りお茶を口に運ぶ。
「ところで、聞きましたわ。契約魔術の事」
私はマティウスに視線を戻すとそう切り出した。マティウスは一瞬驚き口を開きかけたがそれを遮るようにベネディクトが口をはさむ。
「あぁ、それは私が言い出したのですよ、フェアリーネ様。マティウスもいい加減、正式な婚約者が必要な年ですのでな。これ以上の勝手な行動を慎んでテンプルウッド家を継ぐための責任が伴った振る舞いをとね」
なるほど、私が相手じゃ後継ぎのお相手として不足だということね。はい、わかりました。
確かにそうでしょうよ。悪魔的な呪いを持って……いや違った、悪魔的な容姿で、呪いを持った、だ。ちょっと違いで大違い。危ない、危ない。
「そうですか。テンプルウッド家では自分の事も自分で決められない方が跡継ぎなのですか?」
私が首を傾げてマティウスに問う。マティウスは重い口を開く。
「自分で決めた事だ」
その言葉にベネディクトは満足気に頷く。
くそ親父め。
「そう?ならもうここに居る必要はないですわね」
私は隣のユージーンにそう言って退場するように席を立とうとした。
だがまだ体は万全では無くひとりでは優雅に立ち上がれない。オマケにここまでの階段の連続でクタクタだ。手を添え体を引き上げてもらわないと立てない。
ユージーンが椅子を後ろに引いてくれたので私は手を差し出した、マティウスに向けて。
「マティウス、お願い」
私は薄っすらと微笑みマティウスにエスコートを頼む。それを見たエルナンデス伯爵がギョッとした。
「婚約者が目の前にいるというのにそれは」
私を咎めるように言う。
「あら?婚約者っておっしゃいますけど、契約魔術には、エルナンデス伯爵令嬢と婚約してそれを発表するなら私が居るであろう場所を教えるというものでしたわ」
「そうでしょう。ですから私の娘がその婚約者です」
エルナンデス伯爵はコックリ頷き答える。
「わかっていらして何より。契約は既に履行済みで終了。その後の結婚は明記されていませんわ」




