98 マティウスの行方2
私の憔悴ぶりにユージーンが心配してずっと側にいてくれる。ベットに横たわったまま口も聞かず食事も受け付けず。私はみるみる痩せてインファントに監禁されていた時のように眠ってばかりいた。
見が覚めるとマティウスがいない事が突き付けられるようで苦しかった。
「眠っている方が楽なんて……お父様の言う通りだったのかもね」
私の言葉を聞いてミラベルはわっと泣き出した。
「そんな事二度と仰らないで下さい。せっかくここまでお元気になられたって言うのに。なぜマティウス様はこんな仕打ちを!」
ミラベルは泣き止むことが出来ず、部屋を出て行った。
ユージーンがベッドの横に来ると私を悲しそうに見ている。
「フェアリーネ、ミラベルを泣かすのではないよ。彼女はお前をずっと支えてくれているではないか」
「申し訳ございません。そんなつもりでは無かったのですが……」
私の手をユージーンがそっと握る。
本来ならこの手はマティウスであるはずだった。私が元気になるまで側にずっと居てくれるはずだった。
そう思うとまたも涙が溢れる。
「また泣いて、駄目だなフェアリーネは。そんな事ではマティウス様に会わす顔がないぞ」
ユージーンは首をかしげて微笑む。
「どうしてそんな事を……マティウスとは二度と会えないわ。だって他の方と婚約したのですよ」
「誰が婚約したら会ってはいけないと?」
ユージーンは少し可笑しそうに口の端をあげる。
「私の可愛い妹はこんなに聞き分けが良かったのかい?」
「お兄様、何を仰ってるの?」
私がよく理解出来なくて困惑していると、ユージーンはさらに続けた。
「お前がこんなに聞き分けが良かったなら私はもっと楽が出来たのだけれどね。
外には出るなと言うのに学院に行き、森へ行って平民と仲良くなったり、危険な目に会っては助け出されたり。心配してばかりだったのに」
「お兄様……森のって、知ってらしたの?」
「イブリン様に聞いていたよ。父上には内緒だとね。驚いたよ、色々な事を引き起こすお前がどんどん元気になって。
お前はいつだって自分の事は自分で決めたのだろう?なぜ今回だけ誰かの言いなりなのだい?」
「だって、婚約したって」
私の言葉にユージーンはちょっと大袈裟に怒った顔をした。
「マティウス様は案外信用ないのだな。いい加減な奴だったか」
「お兄様、マティウスはいい加減じゃないわ。むしろ融通が利かないというか、生真面目なところもあって」
「そんな彼が何も言わずお前を捨てて伯爵令嬢に乗り換えたと?」
私は開いた口がふさがらなかった。
そうだった、そうだ。
何だこれ?私は悲劇のヒロインか?いや違うって、そんな良い物じゃない。
今はただのフェアリーネだ。
満足に魔術も使えない貴族だけどか弱く出来てない。
ちょっと忘れてた。
ビックリしすぎたのかも。
だって急に婚約って酷い。
「お兄様、マティウスが私に黙って誰かと婚約なんて酷いと思うの!」
「そうだね」
ユージーンはいよいよ面白そうにクククッと笑う。
「ちょっとくらい文句を言っても良いわよね?」
「もちろん、その権利はあるよ。うちの大事な妹をもて遊ぶなんて許せないからね」
どうなるかなんて分からない。
でも駄目なら駄目でやってから諦めよう。このまま泣き寝入りとか、馬鹿馬鹿しい。
「ミラベル!こっちに来て!」
私が大きな声で呼ぶとミラベルは慌ててやって来た。
「そんな大声で、はしたないですよ!フェアリーネ様!」
「ごめん、ミラベル手伝って。マティウスに会うわ、もう一度だけでも。ちゃんと伝える。よく考えたら私ちゃんと言ってなかったわ」
私の変わり様にミラベルは呆気に取られていたが涙を拭くと拳を握った。
「わたくしもマティウス様に一言いえ、一発入れてやりたいですわ」
オゥッ!ミラベル過激だね。
「その為にはちょっと作戦を練らないとね。何か案はある?」
私とミラベルが話し合おうとするとユージーンが手をあげた。
「いま、騎士団長と話し合いの場を設ける予定があるんだ」
「話し合いって?」
ユージーンが言うには、マティウスは旧辺境伯邸を半壊にしたそうだ。勿論、私を助ける為だからユージーン的には賠償請求など起こすつもりは無かったが、今回私とマティウスの事があったので嫌がらせで請求されるかも知れないということで、正式な場でハッキリとさせたいそうだ。
その場にはマティウス、ベネディクト騎士団長、そして婚約したエルナンデス伯爵当主とその令嬢、こちら側は私とユージーン。見届人に医術部門からアーヴィングとカイリン先生そして何故か魔術部門のトップ、イライジャ・ドレイパーが参加する事となっているそうだ。
なぜ魔術部門?ま、今はいいか。
「婚約者を呼んでフェアリーネ様に見せつける魂胆ですわね。酷いですわ!」
ミラベルの言う通り、私とマティウスを完全に別れさせる為の作戦だろ。
何しろ貴族達のなかでは既に有名らしい。
目立つ者同士だから仕方なし。
目立つ者同士ねぇ……
「お兄様、ディミトロフ家の家名が地に落ちる事をしてもいい?」
「突然だね」
ユージーンは少し驚き、ニヤッと笑う。
「今度は私もフェアリーネの活躍が見れるのならいいよ。どうせ父上の事が噂されてとっくに地に落ちてる、楽しみだね。今度は何をやるんだい?」
期待に目を輝かせているユージーンには悪いがまだやり方は考えて無いのだが、やる事は決まってる。
「ねぇ、二人とも私の武器って何かしら?」
「武器でございますか?そうですね、美しさでしょうか?」
「ホントだね、他には……」
ふたりして黙り込む。
え?私って見た目だけの女なの?
ちょっとショック。
とにかく時間が必要だ。
クラウスを使って、私がショックのあまり衰弱が激しく少し時間が欲しい事、賠償請求となると私とユージーンでは心許無いのでクラウスが交渉に当たることをベネディクト側に伝えてもらい療養の時間を稼いだ。
本当に衰弱はしていたが今は目的が出来メキメキ回復中だ!とにかく私は見た目が命だそうだから磨きをかけなければならない。
食事を取り、運動、美容に力をそそぎ決戦の日に備える。
待ってろよマティウス!ただじゃ済まさないぞ!
まだ胸は痛いけど、やってやる。これで最後かもしれないけど、最後だからこそちゃんと伝えて、それで……そこからは……その時考える。
「フェアリーネ、面白い事がわかったぞ」
明日はアデミンストに立つという日にクラウス伯父が情報を手に入れて来た。
「マティウスはベネディクトと契約魔術を結んでいたらしい」
「契約魔術っていつ?なにを?」
クラウスは悪い顔をニヤつかせ、
「お前を助ける情報を教える代わりに、エルナンデス伯ご令嬢と婚約するって条件だ」
それでか……
「わかった。良かったわ、これで作戦は決まった。伯父様ありがとうございます。交渉で得たお金は伯父様が有効に使って下さい。取れなければただ働きだけど」
「かまわんよ。こんな見物、なかなか見れる物ではないからな」
味方のうちは頼りになるよ、クラウス伯父は。




