93 探索の許可
次の日、正式に医術部門に呼ばれたという事で今日は正装でお出かけだ。
マティウスが当たり前の様に迎えに来て一緒に向かう。医術部門は学院と同じ建物の上階にあり、つまり学院の中を通らなくてはいけない。
「別々に行った方が目立たない気がするのは私だけ?」
ミラベルがなんとも言えない顔で考えている。
「ご一緒の方が何かあった時に安心です。結局同じ所へ行くのですし」
行くしかないか、はぁ……
「着いたぞ」
朝から機嫌の悪いマティウスが私をエスコートして馬車から出される。無表情だけど怖い。ミラベルは気づかないみたいだけど。
「どうしたの?」
「アーヴィング部長は私とは意見の相違が多々ある」
やっぱ嫌いなんだ。
学院の正面の階段のど真ん中を私の手を引き上がって行く。
何故真ん中?!端っこに行きたい。このざわつきが聞こえないの!?手が震えるよ。
「マティウス、あの……」
「大丈夫だ、問題ない」
マティウスがエスコートしてくれているが、着慣れない裾の長いドレスが気になる。ここで踏んで転ぶわけにはいかない。
必死に顔には出さないようにしつつ何とか階段を登り切った。マティウスはそのまま私の手を自分の腕につかまらせる。
周りからは「氷壁の?え?!」「髪が白い……」「あれはどこのご令嬢だ?」「いやぁ、マティウス様が……」と、口々に皆がさえずる声や悲鳴が聞こえるがマティウスには届いてないようだ。
私が何度か彼の顔を見上げて様子をうかがったが優しく微笑むだけだった。
キラキラが眩しぃぃ。
緊張で震えていた私の手も段々と落ち着いた頃、医術部門の扉の前に着いた。
「テンプルウッド様とディミトロフ様がいらっしゃいました」
なかに通されると大きな執務机の前に応接スペースがあり、その前に辛子色の髪の40代位の整った顔の眼鏡ダンディがいた。渋いねぇ、イイ男って感じ。
「ようこそディミトロフ様、アーヴィングと呼んで下さい」
「フェアリーネでお願いいたします。はじめまして、アーヴィング様」
マティウスとは視線だけを交わし座るよう促される。アーヴィングは私の前に座るとじっくりと眺めてくる。
そんなに不躾に見る?大人だよね?
「いや、失礼。聞いていたよりずっと美しいので驚いたよ。マティウスが傍を離れんのも納得だな」
マティウスが不機嫌さを出さない様に顔を作っているが、アーヴィングには分かっているようだ。この人も髪の色は気にならないみたい。
「本日は食中毒の件ですよね、話をお願いします」
「あぁ、そうだな。君達がグズモットの胃の内容物を検査した結果の事だが。アレは本当にあると思うか?」
アーヴィングはマティウスに暗にベリハベルの事を確認する。当然、盗聴防止は使っているが用心を重ねたようだ。
「少なくともグズモットの腹には存在しましたからね。この領地の何処かにはあるということです」
マティウスの答えを聞いてアーヴィングは私を見た。
「何でしょう?」
なにか言いたげな視線を受け尋ねたものの、いい予感はしない。
「あの森は貴方の御父上の管理区域だ。よって許可の無い者は入れない」
「わたくしにそれを取れと?」
アーヴィングは難しい顔のまま何か考えているようだったがマティウスに視線をやる。
「それしかないようだ。残念だが」
「そちらで許可を取る約束では?」
マティウスはイラッとしてアーヴィングを見ている。そんなやり取りがあったのならそりゃ朝から機嫌が悪いはずだ。マティウスとしては私を巻き込みたく無かったのだろう。
お父様は身内で調べると言っていたそうだからアーヴィングにすれば私の主導で調べると言って許可を取れという事だろう。
どちらの主張も通るやり方ではあるが私が森に同行するのをマティウスは嫌がるだろう。過保護だし。
「わかりました」
「フェアリーネ、君が捜索に関わる必要は無い」
マティウスはやはり反対のようだが、アーヴィングの言い方をみれば選択肢はもう無いようだ。
「領主命令で許可を取ってくれるはずでは?」
「そうではあったが、こちらにも事情があってな。この話は領主には通ってない」
「何故です?」
マティウスが食い下がるがアーヴィングはとにかく私に頼むしか無いの一点張りだった。
「マティウスもういいわ、わたくしは大丈夫だから。とにかく早く許可が欲しいのでしょ?」
そう言うとマティウスは眉間にシワを寄せる。
「他にもやり方はある。いざとなれば秘密裏に……」
「駄目よ、問題になるわ。アーヴィング様が暴露しないとも限らないし」
私の言葉にアーヴィングは眉をクイッとあげた。
「信用出来ませんか?」
「少なくともマティウスは信用していないようですから。わたくしはマティウスを信用します。
貴方は目的の為に手段を選ばないというところでしょ?下手すればマティウスの事を盾に許可を取るか、結果だけ受け取ってマティウスを差し出すかぐらいはやりそうです」
私達ふたりはお互いを気にし過ぎる。呼び出しに応じた時点で既に詰んでいたのだ。
下手すればベリハベルの事を探す方法を探る時点で現れた私を取り込む事を計算していたのかも。
マティウスは嵌められたのかもしれない。
だがここまでマティウスが私を庇う事は計算外だった……そう思いたい。
「とにかく、話はわかりました。やります、父が許してくれるかはわかりませんが」
「溺愛されているのは有名ですよ。無理もないと思うが」
うっせーよ!腹黒ジジイ!
黙り込んだマティウスが後で怖いが帰るとしよう。
立ち上がった私をアーヴィングから隠すようにマティウスが間に立ってドアへ向かう。後ろにいる彼から怒りが伝わってくる。ひょえ~。
「ではフェアリーネ様、また」
マティウスはアーヴィングに何も言わなかったがお互いに言いたい事は通じているようだ。
医術部門からの帰りの馬車の中は地獄だった。
ミラベルがいる手前詳しくは話せず怒りを溜め込むマティウスからは魔力が漏れてるのかというほど冷気で体は冷え切った。
馬車がディミトロフの別館に到着後ミラベルに続き降りようとしたら引き戻されドアを閉められた。
お説教タイムですか?死ぬかも!
マティウスは私を逃げられないように壁ドンならぬ馬車ドンで追い込むと美麗な顔をグイっと近づける。
私が眩しさと怖さに顔をそらすとキュッと顎を持たれもどされる。
「何故勝手に承諾したんだ?」
「貴方の許可はいらないわ。私の事は私が決める」
精一杯の抵抗を試みる。こんなに怖い尋問がかつてあったろうか。
「南方の森は炎龍も出るのだぞ」
近距離攻撃が効きすぎて陥落寸前の私は最後の抵抗を振り絞る。
「早く見つける事が一番の優先事項なのでは?」
「君に何か合っては元も子もないのでは?」
「それは、そう、かも……」
深くため息をつくマティウスを和ませようとした。
「でもほら、何かあってもまた誰かに生まれ変われるかも。今度は髪もちゃんとした……」
「君は私に何度もあの喪失感を味わえと言うのか!!」
マティウスが私の顔の横についた手で馬車の壁をドンと叩く。
「わっ!ごごごごめんなさ……」
そのままキツく抱きしめられ息が出来ない。
「苦しいです……息が……」
「私の苦しみを少しでも味わえ」
さらにキュッと締められグェっとなった瞬間にふわっと優しく抱きしめられた。
「もう、止めてくれ……」
小さく囁くように呟く声が胸をしめつける。
「今度はちゃんと知らせるから」
「そこでは無い!」
そう言ってまたグッと締められた。失敗、失敗。




