89 暑い夏1
ミラベルが自室に引き上げ私もゆったりした薄手の夜着に着換えベットに入った。勿論窓をキッチリ閉めて…………いや、眠れるわけ無い。
あっつい!
私はミラベルに気づかれないようにそっと窓を開けた。外は真っ暗だが警備用なのか遠くチラホラ灯りが見える。暗い部屋からは点在する家の灯りもぼんやり見えて、そよ風に巻き上げられるのか土の匂いがする。
いいよねぇ、開放感あるなぁ。
アデミンストは疲れるよ、やっぱり辺境に引っ込もうかな。髪も気にしなくていい感じだし誰も面と向かって辺境伯令嬢に文句なんて言わないだろうし。
こうなれば権力駆使してわがまま放題やるか……出来ないけどねぇ。
私はふと今から厩に行ってみようかと思った。幸いここは一階で外に出るのは容易い。ドアから出るにはミラベルの部屋を通らなければならないのでそっちは無理だろう。
念の為ベールをつけ、椅子を窓に寄せるとヨッコラショと登り外へ足を出して飛び降りた。
スカートの裾がちょっと捲れたが誰も見ていない、大丈夫です。
そろりと歩き出すと足元はザクザクと乾いた土の音がするが誰も気づかないようだ。
小走りで行くと厩の外にやっぱりいた!
「マチルダ、私よ、わかる?」
ベールを捲ってマチルダにそっと近づき前とは顔が違うけど必死に私をアピールする。前は何とか触れる所まで漕ぎ着けたのだ、今回も挑戦するのみ。
私の必死な気持ちが届いたのか、それともエマと同じ人物だと分かったのかマチルダはアッサリと触れる事を許してくれた。
「にゃ〜ん、カワイイ!スベスベだぁ〜癒やされるよぉ」
私はマチルダの首を撫でなでしながら色々な話をした。
「ここは気楽で良いねぇ、お前もアデミンストより広い所のほうが気持ちいいよねぇ。貴族はウザいし借金はあるしここなら髪が白いとか呪いとか誰も言わなくない?」
散々愚痴ってしまい、少し反省してマチルダに謝ると部屋のある建物に戻った。
「あ……」
やばいよ、登れないかも。一階っていっても窓までは結構高さがある。私の胸の高さの窓から入るには結構なジャンプ力がいる。
よじ登るにはスカートの長さが邪魔だ、足が上がらない……
「仕方なし……」
私は一応辺りを見回すとスカートの裾を膝上までたくしあげキュッと結ぶと窓に手をかけ思いっきりジャンプして窓枠に足をかけ何とか部屋に入った。
ギリギリセーフ。転げ落ちる事も無く無事に着地しホッとしてベットに入った。
次の日、ミラベルが約束通り厩に行ってもいいと言ったのでご機嫌でマチルダに会いに行った。
厩にはダリューンがいてマチルダの世話を見ていた。
「おはようございます。ダリューン様」
私が挨拶するとダリューンはグッと顔に力を入れた。
「お、おはようございます。フェアリーネ様……」
何だかぎこち無くそう返事してきた。
何だよ?
私は八脚馬に触ってもいいか尋ね名前も聞いてマチルダに近寄った。
「マチルダ、カワイイねぇ。おおぅっ、スベスベだよぉ」
昨夜ぶりに再び触った。ミラベルは嫌われたようで近寄れず私が独り占めだ。
「こんなにマチルダが慣れるなんて珍しいですな」
ダリューンはやっと普通に話だし感心したようにこちらを見ている。
マチルダは好き嫌いが激しいので他の知らない人に世話されるのが嫌らしくここではダリューンが世話しているようだ。
本当はアリステアも出来るが一応初見の体なので離れているらしい。
私はマチルダを満足いくまで撫でまわした後、朝食を済ますと村の中を見て回った。
前に来た時とは雰囲気は少し変わっているが食料はまだまだ不足してそうでクラウスに頼んでおいた物を分けてしのいでいる。
運び込まれた物だけでは追いつかないので小さく畑も続け、今は騎士達もいるので食用の魔物も時折狩っているようだ。
ちょっとはマシかな。あ……
小さな畑に水を撒いている幼女がいた。前に話したことがあるルーだったので、近寄ると声をかけた。
「偉いわね、お手伝いしてるの?」
ルーは驚いて飛び上がるとそのまま固まってしまい何も話さなかった。
しまった、私はいま貴族だったんだ。
「あぁ、ごめんね。大丈夫だよ、もう向こうに行くから、頑張ってね」
そう言って離れたが、歩きながらちょっとがっかりしてしまう。
「やっぱりすぐには無理よね。仲良くなるには美味しいご飯かな」
「仲良くなる為にご飯ですか?ここは開拓の時とは違って料理をする者がいるのですよね?」
「でも貴族と平民という立場が邪魔してこのままじゃ仲良くなれないでしょう?仲良く楽しく仕事したほうがいいじゃない。仕事なんて本来辛いことの方が多いわ。でも食事が美味しければそれが楽しみになるでしょ」
「そうですか?まぁ、私はフェアリーネ様の作る物が食べられるなら何でも良いですけどね」
ミラベルは私が料理するのは慣れたもんだ。早速、なんの材料があるか聞いてパイアの唐揚げとポテトサラダを作ることにした。
定番で簡単。私は厨房がある小屋の外に座って芋の皮向きをしていた。フンフンと鼻歌を歌いながら次々むいていく。
「何を……している?」
通りがかったマティウスが私の手元をジッと見て固まってる。
「芋の皮むき」
「なぜ君が?」
「私には他に出来る事が無いし。美味しいものが食べたい」
横からリックスが顔をだす。
「フェアリーネ様の料理は美味しいですからね」
いい顔で頷いている。その横からテリウスが来て材料を見て驚いていた。
「フェアリーネ様はポテトサラダを知っているのですか?」
ふぁ!忘れてた!ポテトサラダは作った事あったんだ!かぁー!唐揚げもあるよ!何故!なぜ私は肉じゃがにしなかったのか!
せめてパイアのカツにしておけば良かった。自分の好きな物ばかり作るからこんな事に!炒め物ならばこんなにピンチに陥らなかったのに!
「あら?テリウス様もご存知ですか?美味しいですよね。お手隙ならマヨネーズを作ってもらえない?」
こうなりゃ巻き込むまでだ。結局並んで食事の用意をし皆に振る舞った。
騎士達の中にはクラウスが連れてきた開拓の時に一緒だった人も居て「おぉ、またフェアリーネ様の飯だ!」と喜んでくれた。その調子で頑張ってね。
私はルーにも食事を作った事をアピールしおくことも忘れなかった。胃袋を掴むのは大事だよね。
昼からもあちこちに顔を出し、建築中の建物の中に入りちょっと釘を打ってみたり村長さんと仲良くなる為にオヤツを配ったりして過した。
その夜も私はミラベルが部屋に引っ込むとマチルダに会いに行く為に窓を開け椅子に登り窓枠に腰掛けると外へ足を出した。念の為ベールを被る。
飛び降りようと乗り出した時に横からマティウスがひょっこり現れて脇の下に手を入れるとそっと下に降ろしてくれた。
「な、な、なん……」
「頼むから勝手に抜け出すな」
「ど、ど、どうし……」
「昨夜も抜け出したでのあろう」
「み、み、見て……」
「あんな格好を見せられては助けることも出来んから止めてくれとダリューンに言われた一体何をしたんだ」
ダリューンに見られていたのか……恥ずかしさで死ねる、再び……
私は下を向いたままガックリと肩を落とした。本当なら穴を掘って入りたいところだがマティウスは私の手を引いてマチルダの所へ連れて行ってくれた。
「マチルダぁ〜見られたぁ」
死ぬほど恥ずかしかった思いのたけをマチルダに聞いてもらった。
「何をしたのだ?かなり動揺していたぞ」
「聞かないでよ。誰もいないと思っての所業なのよ」
「君の部屋の周りに誰もいないわけないであろ。必ず警備がついてる、昨夜はたまたまダリューンだけであったが本来なら数人、交代で見ている」
「ダリューン様だけで良かったです。女ったらしなら私の足くらいすぐに忘れてくれますよね」
「あ!足?!」
「だって、ほら今だって裸足で……」
「止めろ!何考えてる?!」
本当に足駄目なのね、ちょっとスカートを上げただけなのに。ダリューンはもっと凄いものを見た事になってるのか。もうお嫁に行けないかも……行かないけど。




