85 農村改革1
アリステアを使ってスラットリーへ連絡をつけよう。下手な人間を使えばお父様に嗅ぎつけられる可能性がある。ここでは誰も信用出来ない為、マティウス側の人間を使う方が安心だ。どうせスラットリーの事や農村関係はマティウス抜きには進められないから情報ダダ漏れでも構わない。ミラベルにも一応報告しておくが、接触は私だけの方が良いだろう。学院以外の場所を見繕わなきゃ。
数日してエイダンがダリューンと連絡がついたと知らせてきたので人目につかない温室で会うことにした。ここならマティウスの護衛のダリューンが出入りしても違和感が無い。
「ダリューン様お久しぶりです」
「フェアリーネ様、お元気そうで……安心しました」
ダリューンが何か含みのある言い方をしてくる。
「なんですか?何かご心配おかけしました?」
「いえ、実はここ数日マティウス様が調子を崩しておりまして、カイリン先生にご相談した所フェアリーネ様に魔力発動を施したとお聞きしまして」
「ふぁっ!カイリン先生が言ったのですか?」
誰にも言うなって感じを出しといて自分はダリューンに話してんじゃないよ!
「大丈夫です、誰にも言いません。ただ主の状態は護衛として把握しておきたいもので、お許しを」
「……いえ、それならば仕方ないかもしれません。マティウスは具合が悪いのですか?」
私に魔力発動をして何か具合が悪くなったのなら流石に申し訳ない。カイリンは何も言ってなかったけれど。
「いえいえ、カイリン先生に言わせれば氷壁の伯爵もただの男だったと」
「氷壁の伯爵?」
「マティウス様の二つ名ですよ。世のご令嬢への対応の冷たさとご自身の氷の魔術から言われておるのです」
あぁ、冷たい対応ね、分かるわ。いつも眉間にシワとか無表情とか平民時代アリアがよく怖がってた。
「余計な事を言うな、ダリューン」
いきなりマティウスがひょっこり現れた。目が合ってしまいちょっとそらしてしまう。いや、ベールしてんだけどね。
「あまり……近づくな」
「分かってます。なぜ来たのですか?ダリューン様だけで良かったのに」
私だって近くに寄りたくない。なんかザワザワするし、マティウスが緊張してるのかな?って、ひゃ、やっぱりちょっと伝わるかも、離れよっと。
私とマティウスはお互いの距離感を探りつつ話を進める。
「一体何をダリューンに頼むのか気になっただけだ。エイダンにも二人だけで会わすなと念を押されたし」
「あぁ、平民の愛人がいる女たらしだと言ってた件ね」
「違いますよ、フェアリーネ様。あれはマティウス様に頼まれて世話しているだけです。ちょっと事情があって面倒を見ているのです。まだ未成年の少女なのでほっとくわけにもいかず」
事情がある少女?エマの事かな、ちゃんと面倒をみてくれてるんだ、良かった。約束守ってくれたんだ。
「でも大丈夫です。マティウス様は何もしていませんから、まだ」
ダリューンが真剣な顔で報告してくる。
なにそれ、要員に手元に置いてるの?成人するまで待ってるって事?サイテー。
「誤解を与えるような言い方をするな。私はアレに何もするつもりはこれまでもこれからも無い!」
なんか複雑な心境です。私の気持ちが伝わったのかマティウスは「違う!」と言ったきり一歩後ろに下がった。
怪しい……氷壁の伯爵もただの男ね、了解でーす。
「そんな事どうでもいいわ。ダリューン様にお願いしたい事があって」
「どうでもいいのですか?……何でしょう?」
ダリューンが少しつまらなそうに肩をすくめ話を聞いてきた。
「リックスというフリーの騎士を探してほしいの。最近アデミンストで見かけたってミラベルが言ってて。ちょっと農村関係で頼みたい事があるから騎士繋がりとかで探せない?」
私はわかりやすく内容を仄めかし断れないように持っていく。マティウス達は一瞬ピクッとした気がした。
「リックスですか?それだけでは探せるかわかりませんな。何か特徴は?」
私はアリステアの外見上の特徴を伝えとっても優秀だと付け加えた。
「ほう、優秀ですか」
ダリューンがちょっと刺激されたようにニヤつく。
「えぇ、詳しくは言えないけど、二度も私を助けてくれたの。向こうの事情で本格的に雇えなくて残念だったけど。いいかしらマティウス?」
「……構わん、ダリューン」
マティウスはダリューンに顎でクイッと指示すると早速向かわせた。
ダリューンが出て行き二人きりになってしまいちょっと気まずい。
「それで、体の調子はどうだ?」
マティウスが離れたところから尋ねてくる。
「今のところ全然平気。魔力も別に感じないけど」
私は魔力発動以来、特段の変化もない事を報告する。魔力発動をしても直ぐには魔力が扱えるわけでは無いと聞いていたので期待は薄いかと思っていたが未だ変化は無い。
「まぁ、個人差があるからな。長ければ数ヶ月はかかる。焦らんことだな」
そう言ってマティウスは温室の奥へと歩いていった。何となく距離を保ちつつついていく。
やっぱりここは落ち着くわ。私が深く呼吸していると、マティウスはちょっと柔かい顔をしてこちらを見た。
「落ち着いたか?」
やさしく聞いてきたが私はちょっと近づき過ぎたと思い立ち止まる。
「えぇ、そうね」
顔をそむけ、場がもたないので薬草に手を伸ばした。それは少し匂いの強い解毒に使われる薬草で、あまり素手で触らないほうがいいがスベスベして触り心地がいいのだ。
「あまり触るな」
勿論それをわかっているマティウスが少し顔をしかめ注意してくる。
「はい、わかってる」
そう言いながらなおも触る。
「いったい何をさせるつもりだ?そのリックスとやらに」
マティウスは私の手をジッと見ながら尋ねてくる。
「スラットリーへの連絡に使いたいの。もう大体わかってると思うけど、お父様に知られたくないの、私が農村に助力する事」
「反対されるからか?」
「そうね、何もするなと言われてるから見つからないようにしないと。スラットリーは多分秘密にしてくれるはずだけど、マティウスも内緒でお願いね」
私は次に隣の薬草を触りながら頼む。これも手触りが良い。
「それは構わないがどうやって農村を変えようというんだ?」
「もちろん、仕事を与えるのよ」
「何をさせる気だ?」
「農村ですもの、農業よ」
「そこは人手も多くないぞ」
知ってる。
「そうなの?だったらあまり人手がかからない作業が必要ね」
「何か策があるのか?」
マティウスが慎重に聞いてくる。
「まぁ、あるけど……マティウスも協力してくれない?」
「何をだ?」
「そこに薬草の栽培をさせるのよ。これからも薬草は沢山必要でしょ?まだまだ食中毒の被害は出るだろうし、今後も使える薬草なら無駄にはならないし」
マティウスは私がそう言うとツカツカと近づき私の手を取り薬草から手を離させる。
「何が言いたい?何を知ってる?」
そう言った瞬間全身をゾワッと何かが走った。
「ふわっ!離して!」
私は手を振り払いマティウスから急いで離れた。マティウスも驚いてそれ以上は近づかず、何か言いたげだったが「手を洗っておけ」と言い捨てて去って行った。
何だあれ?不信感かな?気持ち悪い感じ。一応言われた通り手を洗っておこう……言われなくても洗うけどね。
マティウスには農村に水耕栽培システムを作ってもらうつもりだ。アレなら採算が取れるはず。いまどこまで研究が進んでいるのか知らないけどテンプルウッドの別館ではそろそろ手狭だと思うしアデミンストの近くではきっと秘密裏に進められる場所が見つからないだろう。




