84 魔力発動2
マティウスは午後からもカイリンと仕事があるし、私も仕分けがあるので魔力発動は明日に決まった。エイダンが複雑そうな顔で私とマティウスを交互に見て小さくため息をつき研究室に帰って行った。
「そんなに魔力発動って大変なの?確かにちょっと恥ずかしい感じだけど」
私が余りにもオススメで無い感じのエイダンを気にしてマティウスに聞く。
「魔力の感じ方というのは人それぞれだからな。その人となりが出やすい物と言われている。
ずっと一緒にいる家族などは魔力を使った時に僅かに残る魔力痕が誰の物か判別出来る事もある。それは至極個人的な感覚だから男女間では感じ取れなかった相手の魔力を感じ取れるようになるのは関係が深まった事を意味する事もある」
「ふぇっ!そ、そ、そんな事に関係してくるの?」
つまり一時的とはいえ私とマティウスがラブラブカップルと同じ状態になるという事なの!?
マティウスは殊更無表情に固めた顔で続けた。
「あくまで治療の一環であるし一度の魔力発動をしたところでそこまで深く関わる訳じゃ無い。離れていればどうということは無い」
「ソウデスカ……」
ちょっと不安なまま午後の仕事に取りかかった。
私は結局ミラベルにさえ魔力発動の件は言わないまま翌日カイリンの研究室に向かった。そこではマティウスが床の上に何やら布を広げ早速その上に立つように言って来た。それは複雑な魔法陣が描かれた物で、複雑なその美しさに見惚れていた。
「これなんですか?キレイ……」
私がしゃがみ込みジックリと眺めようとするとマティウスは手を引き直ぐに立たせた。
「早くしろ。それは後で見ればいい」
なに?めっちゃピリピリしてる。
その様子を見ていたカイリンがニヤニヤしながらからかうように話す。
「フッ、そうイライラするな。失敗すればもう一度せねばならんぞ。そうなれば更に……」
「分かっています。黙っていて下さい」
マティウスは無表情ながらムッとしている感じがする。
機嫌ワル!
カイリンが見守る中、私はマティウスと向い合せに立ち両手を胸の前にお互いに掌を相手に向け、合わせて組む。
待って……これかなり恥ずかしい。見つめ合うラブラブカップルのようで、ベールが無かったらこの距離無理でした。向こうからは見えて無いけど私には近距離イケメン攻撃が炸裂してます。
「では始める。力を抜いて、私が魔力で君を包み込むからそれに逆らわず身を委ねるように」
めっちゃ冷静に言い放っているけどよくよく考えたらちょっとエロいセリフじゃない?身を委ねるとか……
「わ、わかった」
私も出来るだけ感情を殺して答え、深呼吸する。ふわっと暖かい魔力が両手から伝わったかと思ったら直ぐにそこから私の全身をもわんと包み込んだ。
「気分は?悪くないか?」
マティウスが少し心配そうに見ている。
「大丈夫」
私は少し心配そうな顔がおかしくてベールの下で密かにフッと笑いながら答えた。
「気楽なもんだな……」
マティウスがそれに気がついたのかムッとして呟いた。
え!?もうちょっと伝わってるの?うひゃ〜。
「では今から魔力を流すから、体の中心部分に集中してそこから血液を全身に行き渡らせるように魔力を動かすから意識していけ」
そう言ったかと思うとブワッと熱と共に何かが全身を撫でるように走り足元の魔法陣が一気に光り、風も無いのにスカートがゆるくはためきゾワッとする。
ナニコレ気持ち悪いかも。
「集中しろ。目を閉じて体の中心に意識を向けろ」
「わ、わかった」
マティウスの言葉に従って私は臍の辺りに意識を向ける。
ここっていわゆる丹田ってやつ?ここではそんなこと関係無いだろうけど。
そんな事を考えていたら急にそこに小さく温かい塊が出来てきてそれが段々大きくなって来た。私は言われた通りそれを血液を巡らせるように全身に巡らすようイメージした。
ゆっくりと全身をそれが巡って行く事に何だか楽しくなってきて、私は笑うのを段々我慢できなくなりプルプル体が震えてきたのを必死で抑える。
カイリンが私が震えるのを見て心配したのか声をかけてきた。
「どうした、大丈夫か?」
口を開いたら爆笑して叱られそうなので黙って首を横に振った。
「……笑っているだけです」
代わりにマティウスがかなりイヤそうに答えた。
それを聞いたカイリンは呆れたように「それは……まぁ……」と言ったきり黙った。
その間も私は魔力を全身に巡らせ続けた。楽しい気持ちは消えないものの何とか落ち着いてきて今度はちょっと幸福感に包まれ始めた。
全身に魔力が行き渡ったと思ったら急にクラっとしてマティウスに抱きとめられた。マティウスは私を抱きかかえ長椅子にそっと寝かすと黙って足早に部屋を出て行った。
「えっと……終わったのですか?」
「あぁ、少し休んでていいぞ」
カイリンはもう興味が失せたように執務にかかっていいてこちらも見ずに答えた。
なんか面白かったかも。今は少し気怠くて眠気がある。私は目を閉じるとウトウトとしながらマティウスの魔力が体を巡っていくのを楽しんでいた。
なんか気持ちいいなぁ……これって、マティウスにも伝わって……るの!?待って待ってこれって私の気持ちなの?マティウスの気持ちなの?気持ちいいとか……とか……
嵐のような羞恥が去っていくにはかなりの時間を要した。
何とか冷静さを装える程には回復し私は起き上がった。
カイリンがそれに気がついて側に来るとベールを無造作に捲り顔色を見たり首元を触って熱を確認したりして頷いた。
「気分は悪くないな?こちらの予想をかなり上回る相性の良さだったので多少驚いたが許容の範囲内であったので良しとしよう。それからもし父上に魔力発動が伝わったときは私が担当したと言っておけ」
「マティウスと言っては駄目なんですね」
「そうだ。過保護の父親は何をするかわからんからな」
「はぁ……」
私はそのままカイリンの薬草庫の仕分けをする為に隣の部屋へ行った。
ダルさは多少残ったものの仕分けを進め在庫表なども作成していると休憩になったのかエイダンが来た。
「大丈夫か?行くぞ」
「大丈夫」
私はエイダンと並んで歩き温室に行った。
「マティウスは念の為暫く来ないって。何事もなく終わったんだろ?」
「えぇ、もちろん。ナニゴトモナクオワッタ」
今日はベールを取らないで食事した方がいいかも。
何とかベール無しのエイダンとの食事を終え、お茶を頂く。
「マティウスってもうすぐ農村に行くんでしょ?いつなの?」
「そうだな、薬も揃い出したし近い内に出るだろう。農村の食料事情の事か?」
「そう、どう進めていこうかと思って。一度スラットリーへ連絡を取ろうかと思うんだけど父が許してくれるか心配で」
お父様は最近、別館にあまり来ない。開拓が進んだ事で何かが動き出したのだろうか?お母様からは何の連絡も無いけれど一度ミラベルに調べさせたほうが良いかも。
お父様から直々に送りこまれていたピッカリが行方不明になっている事がどう伝わっているのか分からないが、スラットリーからもあれから連絡がない。こちらから連絡しても良いだろうか?それとも……
「そうだ!」
私は思わず考えを口に出しそうになりとどまった。
「何だよ、ビックリした」
エイダンが驚いてビクつく。
「ねぇ、ダリューン様って直ぐに連絡つくの?」
「ダリューン?つくと思うよ。アイツはマティウスの護衛だから」
おっと、知らない事になってたっけ?
「そうなんだ。あの方騎士様でしょ?ちょっと頼みたい事があるんだけど。内密に」
「頼み?」
「そう、人探しをね」




