83 魔力発動1
私が片付けた薬草庫をカイリンがえらく感心し、自分の薬草庫も片付けろと言ってきた。今日は朝から作業そっちのけで掃除に向う。
きゃっふぅ、珍しい物が見れる、るるるん。
私が部屋へ入るとカイリンは机に座り何やら執務中だった。私はそっと扉を閉め静かにそちらに近づくと彼女はチラッとこちらを見ると持っているペンで奥の部屋を指し行けと命じた。私はコックリと頷きながらそちらへ行く。
ここかぁ……
張り切ってカイリン個人の薬草庫の扉を開けた。
それはそれは凄いマッドサイエンティストぶりが発揮された妖しさたっぷりの不気味な部屋だった。
瓶詰めの正体不明の臓器のような物に魔物、動物、果ては人間の骨。人体解剖図に不思議な魔法円の様な模様のタペストリー等など興味が尽きない物ばかりだ。ほうほうと頷きながら眺めていたが、のんびりしてはいられない。早速置いてあった道具を手に掃除を始めた。
朝から始めた掃除は昼前にはあらかた終わり休憩を挟んでお楽しみの仕分けだ。
見たことの無い物の分別をどうやってしようかと考えながら部屋を出るとそこにマティウスがカイリンと何やら話し合っていた。
「そこで何をしている?」
マティウスは私が隣の部屋に居るのを知らなかったらしくちょっと驚いていた。
「私が片付けを頼んだ。休憩か?良いぞマティウス」
「あ、いえ。大丈夫です」
私が断ろうとするとカイリンはニヤッと笑う。
「そうだ、マティウス。フェアリーネの魔力を見てやってくれ」
「魔力を?」
「あぁ、彼女は一時臥せって以来魔力が使えんらしい、だな?」
カイリンが私に確認してくる。
「そうですね。ただ、今迄使ったことなかったので……」
「は?」
マティウスとカイリンは何を言ってるのだという顔で私を見る。
「では、病気で臥せった後で調子が悪かっただけではないのか?」
私はミラベルから記憶が無くなる前、つまり死ぬ前からフェアリーネが魔力を使っていなかったという事を聞いていたので、そこは濁して生まれてから今迄魔力を使ったことが無いと伝えた。
ふたりは大きくため息を着くとお互いを見合って難しい顔をしている。
「やっぱり普通ではないのですか?」
私がお父様に魔力を使いたいと言った時にニッコリ拒否されたが、その時のイブリンやミラベルの顔は複雑そうだった。
「まさか、本当に深層のご令嬢とはな」
カイリンは私に近づくと両手を出して掌を上向きにしろと言ってきた。私のその手にカイリンが両手を乗せると何か魔術を発動させたのか重なったところがちょっとヒンヤリした。
「冷たいですね」
私は感じたまま話すとカイリンは眉をクイッとあげる。
「マティウス、やれ」
「……良いのですか?」
「別にこれくらい構わんだろ」
マティウスは少し躊躇いながらさっきのカイリンの様に私の手に自分の手を重ねた。そしてまたさっきと同じく魔力を発動させたのか今度はふんわりと暖かく感じた。
「暖かいです」
私がそう言うとカイリンは頷いた。
「決まりだな、フェアリーネ魔力発動をしたいならマティウスに頼め。やるかどうかは自分で決めろ。やっても直ぐには使えんから早目にな。いざという時困るぞ」
「どういう意味ですか?魔力発動ってなんですか?」
私の質問にカイリンは面倒だからマティウスに聞けと、私達を追い出し休憩に行けと言われた。
私達は温室に行きエイダンと合流して食事し、食後のお茶を飲んでいた。
「エイダン、魔力発動って何?」
私の質問にエイダンはぶはっとお茶でむせかけた。
「何いってんだ?」
そう言ってマティウスを見る。
「フェアリーネは魔力を使ったことがないらしい」
「あぁ、病気で調子を崩したんだろ。稀にそういう事があるって聞いた事がある」
「違う、フェアリーネはそもそも魔力発動をしていない」
エイダンは今度こそ私を見て驚いていた。
「どうしてだ?普通は生まれた時に両親が行うだろう?」
「そうなの?それってどうやるの?」
ふたりはいよいよ困った顔で見合っていたが、マティウスは決心したのか話しだした。
「子供が生まれて暫くしたら両親の手によってまず子供との魔力の相性を調べる。大概はどちらかで合う」
「オレは父と合った」
エイダンは頷きながら言う。
「それからその子供を包み込む様に魔力で覆って魔力の流れを教え込むんだ。魔力発動にはその対象より大きな魔力が必要だから子供の内にやるのが常識だ。子供は生まれて間もなくは魔力も小さいからそれを上回る魔力もその親でだいたい間に合う」
「そうなんだ、それで?私は何故魔力発動がまだなの?」
「それは……」
エイダンが言いにくそうにしている。ここでも白の呪いですか……
「恐らく、君の親は君を外に出す気がなかったのであろう」
マティウスは淡々と感情を出さずに言った。やはり両親が私を屋敷に軟禁していた事がハッキリしたのだ。
「そう……だったのね。やっぱり。激しい過保護ね」
私が魔術を使う事を父親は望んでない。普通の親ならば子供の魔力が高いかどうかはとても気になるものらしい。魔力が高ければそれを盾に婚姻に利用したり、魔術師、騎士として優秀になれる。
逆に魔力が低いものはその家の爵位を継げなかったりより爵位が低いところへしか嫁げなかったりする。
お父様は私を外の世界で生きていけないようにし、出て行けないようにしていたのだ。
まったく、どういう環境でフェアリーネを育てたのか知らないけどとんでもない事だ。子供の権利を奪うなんて。
「もし……君が魔力発動を望むなら私が行っても構わないが普通は親の許可がいる」
「そうなの?」
エイダンがちょっと複雑な顔をした。
「なに?何かあるの?」
「魔力発動をした者同士はお互いの魔力の流れの影響が少しの間だけど残るんだ。少しすれば消えるけどね。だから、その……お互いの気持ちというか、感情が伝わりやすくなる」
「ふぁ?ナニソレ!無理じゃない?なんか、ハズカシイやつじゃないそれって、それって……」
私はマティウスを見て動揺していたが、マティウスは完全に感情を消した顔で優雅にお茶を飲んでいる。
「時折、病気によって魔力の調子を崩す者がいてその治療は医術師の仕事だ。私は医術師だから大丈夫だ。経験もある」
「け!経験!」
「妙な言い方をするな、治療の経験だ。相手は幼女であり病気にかかって回復した時点で両親より魔力が高かったので医術師に見せたのだ。今回のようにカイリン先生では合わず私が行った」
「それで?お互いの気持ちが伝わったの?」
私が怪談でも聞くかのような気持ちで先を促す。
「あくまで通常は気持ちが伝わり安いと言う程度だ。離れれば伝わらない。期間もまちまちだがほぼ短期間だ。数分の時もある。使用する魔力量にもよる」
「どう伝わったの?その子供と……」
私はさらに突っ込んで聞く。
「泣かれた……私は馬鹿な子供が嫌いだからな」
最低だコイツ。でも本当に伝わるんだ。どうしよう……なんか恥ずかしい。
「カイリン先生はああ言ったが焦る必要はない。他の女性医術師で相性が合う者が見つかるまで待っても良いであろう」
マティウスはそう言うがこの先もお父様が私に魔力発動を許してくれるかわからない。だったら今のうちにやってしまって事後報告の方がいいかも知れない。
「やっぱりお願いしたいわ」
「フェアリーネ、よく考えた方がいいぞ」
エイダンが心配そうに言う。
「でも、魔力発動しても直ぐには魔術が使えないのでしょう?」
「あぁ、魔力が使えるまでには時間がかかるし、そこから訓練しなければ上手く操れるようにはならん。訓練にも相性が関係してくるからそこでも多少は相手を選ばねばならぬ」
「魔力発動しても魔力が小さければそれ程魔術は使えないぞ。オレはかなり魔力が低いからな、こんなもんだ」
エイダンはそう言って手のひらにリンゴくらいの大きさの水玉を出した。それは掌の上でくるくると周っている。
「わぁ、凄い。そんな事が出来るの?」
私が初めて見た水の魔術に感動しているとエイダンは私を可哀想な子を見るような目でみた。
「こんなの何の役にも立たないレベルだよ。攻撃にしてもちょっと殴った程度だ。これなら身体強化に使った方がいくらかましだよ」
そう言ってエイダンはその水玉を地面に投げ捨てた。




