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転生者にも事情がある  作者: 蜜柑缶


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82   マティウスの事情2-2

 フェアリーネは順調に回復し最終には現場に顔を出したようだ。

 私がアリステアの報告を聞いた後ダリューンが例のニヤついた顔をした


「良かったですねマティウス様、フェアリーネ様がお元気になられて」

「そうだな。アリステアの失点ではあったが何とか取り戻せたようだ」

「それだけですか?」

「それだけとは?」

「またまた、マティウス様。ごまかさなくても良いでは無いですか。フェアリーネ様の事を気にかけていたようですが」

「助けた者がその後どうなったかぐらいは気にするであろう、普通は」

「えぇ、普通はね。ですけどマティウス様は今までそれほど助けた女性・・を、気にされる事は無かったように記憶しておりますが」

「其方の記憶違いであろう。私は今までもアリアやエマを保護して……」


 そういえば、私が今まで気にかけた女性……いや幼児、少女……待て待てそうではない。そういう事では無く、関わった女性のその心は同一人物という事ではないか?

 つまり一人だけという事か?……その流れによるとフェアリーネがエマという事ではないのか?!

 その可能性に気づきハッとした。時期は少しズレているが私の目の前に現れた気になる女性という点では一致する。……いや、気になるというのは語弊があるが。


「どうされたのですか?マティウス様、アリア、エマに続いてやっと年相応のお相手に出会ったということですか?」


 ニヤついたダリューンを下がらせると私は自分の考えを打ち消した。

 そんな訳がない。フェアリーネがエマであった者と同一人物などありえない。もしそうであれば何らかの連絡を寄こすはずだ。何も連絡が来ないということは別人である可能性の方が高い。というか、そもそもそんな事が何度も私の周りで起こるなどありえん。


 エマはもういないのだ。


 その後フェアリーネはアデミンストへ帰り、私の調査も一旦練り直しという事となった。開拓は終了し森に秘密裏に調査に入るには絶好の機会だがあの広大な森を無闇に捜索するには限界がある。何か方法を模索せねばならん。


 アデミンストに帰還後、カイリン先生の元へ報告に行く。そこで一人の面白い研究員が入ったと聞かされた。

 同僚のエイダンによるとそれはベールを被った姿の辺境伯令嬢フェアリーネだった。


「ちょっと失敗してな。彼女に悪い事をした」


 エイダンは優秀な彼にしては珍しく油断した事を認めた。それによると折角カイリン先生が様子見のためエイダンとふたりで他の研究員達と離した状態に置いたにも関わらず食事の際、ベールを被った姿の彼女を多数の目に触れさせたと言う。

 エイダンにしてみれば最初からフェアリーネの髪がどうとか、さほど気にしていなかったうえ、作業を教えてみれば覚えもよく気さくな彼女に好感を持ったようだった。そのせいでつい油断したことを後悔していた。

 だがそれでもフェアリーネはエイダンの元に通い作業を続けた。付き合うほどに彼女の優秀さは明確になりカイリン先生も正式に取り込みたかったが彼女の父親により一旦は研究室から遠ざけられたものの、南方の森より帰還後今度は正式に研究員となったようだ。

 彼女の事だ何か策を打ったのでのであろう。

 エイダンによると南方の森に向かう前の経理の試験の折に私に保護を頼もうとしていたらしいが時間が無く頼み損ねていたらしい。私は試験など眼中に無くただの必要な資格を手にする為の手段であったのでなんの記憶にも残っていなかった。エイダンめ、いくらでも伝える方法はあったであろうに。


 しかし改めて今度の経理の試験も受ける事を知り私はその日、試験会場へ向かった。教室に入るとフェアリーネは他の学生を避けるように教室の隅に一人座っていた。私はその後ろに座り試験に望んだ。


 試験は問題なく終えたが終了時間まで留められるというなんとも無駄な時間を過ごしていた。

 前の席に座るフェアリーネも早々に解答を終えたのか、なにをするでも無く座っていたがやがてその頭はコックリと揺れだした。

 まさか居眠っているのか?辺境伯令嬢だぞ!?

 私は信じられないながらも可笑しくなり一人ほくそ笑んでいた。だがそれも一時の事でやがてフェアリーネの体は右に左に揺れだした。

 なんという事だ、このままでは椅子から転げ落ちるに違い無い。私は後からハラハラしながらそれを見ていたが、次の瞬間グラリと大きく体を揺らした時、フェアリーネの椅子を後ろから咄嗟に蹴り上げた。

 ハッとしたフェアリーネは何とか体制を立て直しそこからは居眠ることなく終了時間を迎えた。

 私はホッとして教室を出るとひとりになって思い出し、笑いが止まらなかった。


 それから後、経理の試験での不正を疑われ呼び出しを受けたが、その場にフェアリーネも同席し自分にかけられた疑いを晴らした上に販売資格も得るという大胆な要求を通した彼女に好感をもった。なかなかの手腕だが試験中の居眠りの事を暗に注意すると手首まで真っ赤にして羞恥を堪える姿は可愛らし……いや……それはいいとして。


 その後、カイリン先生と共にベリハベルがどのようにグズモットに影響を及ぼし、なぜそれを食し、これまではなぜ人に影響が無かったのに干ばつ後に現れだしだしたのかという話をした。そしてそれはどこに存在しどうやって捜索するかという事に議題は移っていった。


 研究の方までは手が行き届かないという事で、一人別室に派遣されていたエイダンを研究室に戻す事にしたと、カイリン先生から聞かされ私はフェアリーネの事が心配になった。

 学院内ではフェアリーネの事はある程度行き渡り噂の的であった。

 呪いのせいで不気味な姿になっているとか近づくと呪いが感染るなどつまらないバカバカしいものばかりで聞くに値しないものだった。

 カイリン先生の研究員達は私と同僚であるしカイリン先生事態そんな事などバカらしいと笑い飛ばしていたから、あからさまには何も起きないだろうがエイダンだけでは庇い切れない事があるかも知れない。


 私は移動となった初日の休憩時間にフェアリーネを温室に連れて行く事をエイダンと話し合い迎えに行った。

 フェアリーネはベールで顔は見えないものの端から見ても緊張している事が伝わり私は彼女を直ぐにそこから連れ出した。


 彼女は温室に着くと少し落ち着いたようで、エスコートしている時の震えは止まったようだった。

 後でエイダンがなにやら不満を漏らしていたが無視して良いだろう。

 その後、農村をテコ入れする事について色々話したが中々楽しめた。やはりただのお嬢様ではないようだ。


 ひとつ不満があるとすれば頑なにベールを取ろうとしないという事だ。

 なぜエイダンの前では取るそれを私の前では取らないのか気に食わない。私は既に髪の色は見ているし気にならないと言っているにも関わらず、だ。


 一体なにを考えているのかわからない。


 温室で寛いでいる姿がふとアリアと旅をしていた時のことを思い出させたが気の所為であろう。そんな筈はない。

 エマがフェアリーネなど。

 それなら知らせて来るはずだ。今までもふたりきりの時間もあったにも関わらず何も言って来ないのだから別人であろう……

 

 

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