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転生者にも事情がある  作者: 蜜柑缶


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77   学院生活3

 ダリューンはその札をサッと外すと手の中に隠した。


「見たか?」


 子供に聞くようにわざとらしい困り顔で私に聞く。


「見た」


 私もつられて子供っぽく答えてしまう。


「ナイショだぞ」

「なぜ?」

「オレが叱られる」

「誰に?」

「怖いオバサンがいるんだよ、赤い髪の」


 ダリューンはイタズラっ子のような楽しそうな顔をしてニッカリ笑った。

 その顔を見ていると一緒に旅した時の事なんかを思い出し笑ってしまった。


「アハハハっ、そんな事を言ってもいいの?」

「なんの事だ、オレはなんにも言ってないぞ」


 そう言ってダリューンも笑った。エイダンが呆れながら私の側に来るとダリューンを紹介してくれた。


「こちらはダリューン・バーソロミュー様だ。ダリューン、こっちはフェアリーネ・ディミトロフ様」

「一応、初めまして、バーソロミュー様。この前お会いしましたね」


 私がそう言うとダリューンは一瞬真顔になり、ハッとした。


「あぁ、ここで!お会いしましたね、夏に。ディミトロフ様」


 ふ〜ん、あの時、冬の現場にアナタもいたのね。そりゃそうか、護衛だもんね、その節はお世話になりました。


「フェアリーネとお呼び下さい」

「では、私もダリューンと」


 名乗りが終わるとエイダンが私を直に連れて行き席につかす。

 おおっと、どうした?


「あんまりダリューンと話すな」

「なぜ?」


 私が首を傾げると、エイダンは眉間にシワを寄せ「アイツは女たらしだ」と言った。

 マジっすか!確かに男前でガッチリ筋肉質、お茶目な優男で魅力的。


「あぁ、納得」


 私はコックリ頷いた。


「ちょっと聞き捨てなりませんね、フェアリーネ様。私はこれでも一途な男ですよ」


 ダリューンは戯けるように言う。

 

「嘘をつけ、平民の愛人がいる癖に」

「愛人!」


 私がエイダンの言葉に驚くと、言ったエイダンが驚いた。


「いや、その、それは、」

「オイオイ、お嬢様になんて事をお聞かせするんだ。これだから恋人も出来ないお子ちゃまは」

「ううううう、うるさいよ!早く行けよ」


 エイダンが動揺しまくっている。カワイイけど、大丈夫だよ私、そんなの気にしない。だって離婚歴あるし、とは言えない。


「では、フェアリーネ様、また」


 ダリューンはいつものニヤニヤ顔で帰っていった。

 エイダンはスーハー呼吸を整えると私の向かいに座り食事を始めた。


「エイダン、恋人いないの?」

「グフッ!」


 エイダンが分かりやすく喉をつまらせた。いないんだ。


「いらん事を聞くな」

「エイダン良い人なのに」

「うるさいぞ」


 なんか怒ってる?傷つきやすい年頃か。そこからは終始無言で食べ、作業にとりかかった。


 ダリューンが持ってきた箱には珍しい薬草が入っていた。他領でしか取れないものらしいがでもこれってオルガの薬湯にも入ってる、っていうかこの中のほとんどの薬草は食中毒用の薬草じゃないか。


「ねぇ、これってスラットリーから来てるんでしょ」

「……余計な事聞くな」

「スラットリーはお母様の実家よ」


 私が言うとエイダンは知らなかったようで、眉間にシワを寄せる。


「そうだったのか……ダリューンのヤツ……」


 少し考え「スラットリーと言えばやり手で有名だよ。色々な商売に手を出してる。薬草くらいどことでも取り引きしてるさ」そう言って作業に戻った。


 なんだか気になるなぁ……






 経理コースの最後の試験が終わって最終合格者が発表される事になり私は学院に呼ばれた。


 ミラベルと絶対に合格だよね、なんて言いながら指定された部屋へ向かう。そこは経理コースの先生の研究室で中へはひとりでと言われミラベルは別室へと連れて行かれた。

 なんか雰囲気悪くない?

 通された部屋には三人の先生がいて私が入ると少し動揺したようにピクッとした。それでも教師かよ。


「わざわざお越し頂き申し訳ございません、ディミトロフ様。こちらへ」


 案内されて椅子に座る。すぐ後からもう一人案内されて誰かが入って来た。その人物を私の隣へ座らせ、先生方がこちらへ向きなおる。

 私はチラッと横目でその人を見るとマティウスだった。

 一瞬息が詰まり少し震え出した。

 待て待て、震えるな、落ち着け、ゆっくり呼吸して、大丈夫、大丈夫、誰にもなんにもバレてない。バレるっていうか何というか、誰かぁー!

 プチパニック状態の私をおいて先生達が話し始めた。


「えぇっとですね。実は本日の合格発表の件ですが、お二人の試験結果について少し確認したい事がありまして」

 

 コホンと咳払いの後先生が言った。


「不正が疑われるのです」

「は?」

「どのあたりでしょうか?」


 私は意味分かんないって首を傾げただけだが、マティウスは何の感情も無くすぐ質問をする。


「お二人の解答が全く同じなのです」


 先生は二枚の解答用紙を私達に見せた。

 それは全問正解で合格と結果が書かれてあった。全問正解なんだからそりゃ同じだよ。


「これのどこが不正のなのですか?」


 マティウスが少しムッとしたように先生を見る。


「いやいや、テンプルウッド様が優秀な事は存じ上げているのですが、その……ディミトロフ様の解答には疑問が残ります」

「わたくしですか?」


 マティウスの隣でフンフンと何気に聞いていたら突然名指しされ驚く。ちょっと気を抜いていたよ。なんかマティウスに任せておけば大丈夫なんて思ってたよ。


「えぇ、ディミトロフ様は初めて試験に挑んだにも関わらず三試験共に満点合格です」

「はぁ……」


 だって簡単なんだもん。


「それが何か?」

「いや、テンプルウッド様は優秀でいらっしゃるので疑問はありませんが、その……」

「なんです?」

「大変言いづらいのですが、今までお屋敷からほとんどお出でになった事がないお嬢様にこれほどの実力がお有りなのが……」


 は?それって遠回しに髪のこと言ってんの?髪が白いと勉強が出来ないとでも?この先生馬鹿なの?ってか馬鹿。


「バカバカしい」


 私はつい本音を漏らしてしまう。部屋の中は信じられないという空気が漂う。父親に屋敷の奥深く隠されて育てられた深層のお嬢様だと思われていた者の言葉だと一瞬理解出来なかったらしい。

 私がもっと文句を言ってやろうと口を開くより先にマティウスが、クッっと笑う。


「本当ですな。大変馬鹿馬鹿しい」


 マティウスは先生達をちょっと馬鹿にするような笑みを浮かべる。


「私も呼び出されたという事は私が手助けしたとお疑いですよね」


 あ、そうなんだ、違うよ。今まで口も聞いたこと無いし。フェアリーネとしては。


「いま初めてお会いしましたわ」


 ため息と共に言う。なんか馬鹿らしくなって来た。こんな馬鹿に試験とかされてこんな馬鹿に採点とかされてこんな馬鹿に合格とか決められるの?

 ちょっと頭痛いんですけど。


「で、どうするんです。我々は不合格ですか?」


 マティウスもちょっと面倒くさそうにきく。


「いや、良ければ再試験を……」

「今すぐここで実施していただけますか?わたくしこの後も予定がございますし。それからそれによって、疑いが晴れたのなら販売資格も試験して下さい三つ共に、すぐに」


 経理コースの経理資格だけでは商売は出来ない。販売資格もいるのだ。最初はお父様の仕事のお手伝いのつもりだったから経理だけで良かったが今は販売資格も必要だ。

クラウス伯父様にマドレーヌのレシピを売ったけど、それはあくまで内々の話だ。ついでに取れれば時間短縮出来る。


「は?それはちょっと、」

「ですけど、こんなあらぬ疑いをかけられて再試験まで行うのになんの便宜もなされないというのは、ちょっと……ねぇ……」


 私は小首を傾げて先生たちの様子を伺う。


「確かに、ディミトロフ辺境伯ご令嬢の言う事も一理あるとおもいますよ」


 マティウスがわざわざ爵位をチラつかせて掩護してくれる。ちょっとビックリ。


「……わかりました。すぐに問題をご用意いたします」

「あぁ、折角なので私の分もご用意願います」


 おぉ、サラッと自分も受けるとは抜け目なし。




 結局、疑いは晴れ、販売資格も得られて、ちょっとお得感があった。良し、売って売って売りまくろう!

 私はちょっと気を良くして部屋から出た。浮かれてたら後ろからもう一人出てきた。

 おっと、マティウスがいたんだ。


「あの、ご迷惑おかけ致しましたわ。マ、テンプルウッド様」


 私は丁寧に謝罪した。


「いえ、こちらも手間が省けましたから、お気になさらず」


 そう言ってフッと笑った。

 ぅぅううわっ、久しぶりのキラキラ光る眩いお姿にその笑顔!無理無理こっち見ないで美麗過ぎです!何だかパワーが増してませんか?エマとして会ってた時より輝き増し増しなんですけど!


「……恐れ入ります」


 やっとそれだけ言うと顔をそむけた。ベールがあっても耐えられんです。


「ディミトロフ様はカイリン先生に師事されていると伺いましたが?」

「は?あぁ、そうです。カイリン先生にお世話になっておりますわ」


 ちょっと興奮がおさまらずドキドキしたまま会話が続く。


「私もカイリン先生に師事しております。では同僚ということですね」

「えぇ!そうなんですか?」


 私がアタフタと返事をしているとミラベルがすすっと合流した。ナイス!もうふたりきりは限界でした。

 マティウスは女性と二人でも全く動じた様子は無い。女性っつてもベールを被った私だし、別に緊張もしないか……うん?アレ?


「待って下さい。それではエイダンもご存知でなんですか?」


 私はふと気が付き質問する。もしかして……


「えぇ、エイダンとは友人ですよ。……あなたの事を頼まれておりました」


 えっ!試験受けた教室にはいなかったよ……ね?はっ!

 マティウスがそっと視線を下げながら気まずそうにする。


「ま、まさか……」

「えぇ、まぁ、こらからはお気をつけ下さい。危険ですから……倒れると……」


 ふぁぁあああ!後にマティウスとか反則!神は死んだ、あんな恥ずかしい所をよりによってマティウスに見られるなんて!恥ずかしさで死ねる……


「……恐れ入ります……」


 そこからの記憶は無い……私記憶無くすの得意だし……



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