76 学院生活2
久しぶりの学院だ。まだ肌寒い季節、軽めのコートを羽織り馬車から降りた。例の大きな階段の端っこをひっそりと上がり前回も試験が行われた教室へ向かう。
前と同じようにミラベルを伴って教室へ入ろうとすると入口にいた教師に止められた。
「付き添いの方は教室へは入れません」
「え!そんなの聞いてませんわ」
ミラベルはキッと睨みつけ抗議したが教師は不正が行われた疑いがあるので今季から生徒のみに入室が限られたのだという。
誰だよ、不正野郎。迷惑だな!
「仕方ないわ。ミラベル、終わった頃迎えに来て」
私はひとりで教室に入った。
「おい、見ろよ。来たぞ」
いきなり聞こえよがしに誰かがいった言葉で教室内はシンとし、一斉にみんながこちらを見た。
わぉ、忘れてたよ。この感じ、私こんな立場でした。まぁ、気にしなきゃいい、大丈夫。
ちょっとドキドキしながらも平静を装い座る席を探す。教室は40人ほど座れるようになってはいるが、ここにいるのは20人程だ。個々に机は離れているものの側には近寄りたくない。
私は出口よりの後ろから2番目に座った。一番後ろだと出入りするものにさらされるから嫌だったのだ。
そこから数人が入って来たが私の後をすっと通り抜け前方の人が溜まっている所に行くとヒソヒソと話すという事が繰り返された。
やっぱりアデミンストはキツイな。森の現場が恋しいよ。
そろそろ試験が始まるという頃、試験官が前に立ち準備を始めた。他の生徒達もそれぞれ席に付きバタバタと準備しだした時、私の後にスッと誰かが座った気配がした。
なんか怖い。これだけ空いてるのにそこに座るの?
疑問はあるが振り返らずそのまま試験の注意を聞く。
「前回の試験で不正の疑われる事があったので今回は解き終わってもその場を動かず最後に試験官が用紙を回収するのを待つように」
マジ面倒くさい。ここの経理の試験って本当に簡単で3分の1の時間もあれば解き終わる。後ずっと拘束されるの?早く薬学コース取りに行きたいのに。
「では、始め」
ほら、終わったよ。まだみんな書き書きしてるけど。私はベールの下であくびして暫くするとコックリコックリ船を漕ぎ出した。
駄目だって、頑張れ私。でも頭がふらふらして止まらない。暇すぎる。
いい加減限界がきて完全に意識がなくなりそうになった時、ゴンッと椅子を蹴られた。ビクッとして目が覚め、自分が横向きに倒れそうになっていたようだと気づき焦った。体制を直し今度は必死に難しい顔をして眠気と戦い何とか持ち堪えた。
起こしてくれたのかな?偶然?
「はい、時間です」
試験官がササッと用紙を回収していき試験は終了した。ホッとして立ち上がるったが、後の席の生徒はもう居なくて結局誰かわからなかった。
顔見ても分からない可能性のが高いけどね。前方の生徒達はまた私を見て何か言ってた様だがすぐに教室を出てミラベルと合流した。
「どうでした?」
「死ぬほど眠かった」
ミラベルは呆れてクスクスと笑い、今度は薬学コースの教室に向かった。
薬学コースの教室でもやはり付添人は入室出来なかった。ここでは経理コースの教室よりあからさまな視線や会話はされなかったがやはりヒソヒソと何か言われているのが分かった。面倒いなぁ……
とにかくまた端っこの後から2番目に座った。しばらくして数人の生徒が前のドアから入って来て、そこになんとエイダンがいた。
私はエイダンに声をかけようとして一瞬躊躇った。ここで声を掛けては迷惑がかかるかも知れない。あげかけた手をおろし膝の上に置いて下を向いた。ホッとため息をついた時、隣に誰かが座った。
「久しぶりだな」
エイダンは普通に声を掛けてきて試験を受ける準備を始めた。私は驚いて振り向いたまま無言でいた。
「まさか、オレを覚えてないのか?」
真顔で聞いてきた彼に私は顔をブンブン横に振って否定した。
「お、覚えてるよ。……久しぶり」
「おぅ、これが終わったら前に手伝ってくれた部屋に来てくれってカイリン先生が言ってたから……い、一緒に行こう」
頭をポリポリかきながらエイダンは前を向いたまま言った。
「わかった」
私がベールのしたで泣き笑いしたのは誰にもヒミツだ。
すぐに試験が始まった。第二試験はカイリンの都合で実施されなかった。ま、合格は私だけだし。
今回は第三試験だ。エイダンも合格はまだだったようだが余裕のようで、すぐに隣で突っ伏して寝ていた。私もまぁまぁ出来て時間も経理程ではないが余った。
「はい、終わりです」
試験官がまた解答用紙を回収し、やっと外に出るべく立ち上がろうとすると、エイダンが手を出してくれ流れる様にエスコートされ立たされた。
あれ?エイダンこんなやつだったっけ?
「出るぞ」
そのまま廊下に出てミラベルと合流した。ミラベルは一瞬躊躇った顔をしたが何も言わず。エイダンは私の手を自分の腕にすっと誘導し、エスコートされたまま廊下を歩いた。
すれ違う生徒達があ然としていたがエイダンは気にせずしばらく行くと先生用の廊下に続くドアを開け中に入った。
「どうする?」
そう言ってエイダンはこのままエスコートがいるのか聞いてきた。
「あぁ、良いよ大丈夫。ありがとう」
そう言って私は腕から手を離した。彼は無表情のまま私の隣を歩き出した。
えっと……庇ってくれてた……のかな?
エイダンがいたから誰も何も言わず悪口も聞こえて来なかった。何よりエイダンは私に親しい人だとみんなにアピールしてくれたのだ。ムフフフ、嬉しい。
研究室につくと中には既にカイリンがいて書類を手渡された。
「これ、処理しといてくれ。ミラベルはこっち」
「あ!待って、フェアリーネ様!」
「頑張ってね〜」
ミラベルは有無を言わさぬカイリンに引っ張って行かれた。
「じゃ、またそこ使って……ベール……取れば?」
「うん、ありがと」
私は顔にかけてあるベールを後ろにフンワリ捲りちょっと整える。
「これ、いいでしょ。すぐに隠せるの」
私がエイダンに向き直るとベールをつまみニッコリ笑った。
「髪が!」
エイダンはそれより私の髪が短い事に驚いていた。よく分かったね。
「あぁそうなの。事情があって、結構似合うでしょ。可愛いと思わない?」
私が聞くとエイダンは一瞬グッと口をつぐむ。
「そうだな、似合うよ」
えへへ、無理やり言わせちゃった。
そのまま二人で黙々と作業をし、気がつくとお昼になった。手伝わされると思っていなかったので今日はお弁当を持って来てなかった。
「オレ、食事取ってくるからここに居て」
「ごめん、ありがと……」
なんだか悪くて口ごもると気にするなというように肩にそっと触れられ、そのままドアを開け「カギしろ」と言って出ていった。前の習慣も覚えていたようだ。
なんだか複雑だな、私って成長してない?もうコレ取っちゃった方が良いのかも、でもやっぱりお父様は嫌がるかな。
「フェアリーネ、ベール付けて、開けてくれ」
エイダンの声がしたので私はベールを被りカギを開け、ドアを開けた。
「ありがとう。それ、そこに置いといてくれ」
エイダンに続いて入って来たのは木箱を抱えたダリューンだった。
私はギョッとして一瞬躊躇ったが大丈夫、ベールしてるし顔も違うから分からないと自分に言い聞かせて落ち着く。
「よしっと。置いたぞ、早くやってくれよ。また夏までに行かなきゃならん」
「わかってるよ」
どうやらマティウスはまた夏には流行病対策に奔走するようだ。あ、食中毒か。
「コレって……」
何気なく見た木箱に付けられた荷札に私は興味を惹かれた
送り主 クラウス・スラットリー
送り先 マティウス・テンプルウッド
そう書かれていた。




