71 開拓1
次の日、スラットリー子爵の当主であるお祖父様に、リックスことアリステアを私付きの護衛にして欲しいと頼んだ。
「あぁ、話は聞いたよ。まだ雇い入れて日が浅いが怪しい所も無いからな。いいだろう」
孫娘のおねだりを嬉しそうに叶えてくれたのでついでに、開拓の現場にしばらく監督官として行っても良いか尋ねた。
「ピカリングが頼りないのであろ?ふむ、新しく護衛も付いた事だし、まぁ、良いだろう。ネイトも連れて行くんだよ。しばらく様子を見るといい」
現状を本家にいるお父様に知らせて欲しいのだろう。お祖父様は快く了承してくれた。
私はネイトにリックスを護衛にする事を告げ呼び出してもらい、馬車の中にリックス。外には馬上のネイトを連れ森に向かう。
「昨日はありがとうございました。リックス様」
「どうぞ、リックスとお呼び下さい。フェアリーネ様」
「そう?ではリックス、ここに来る前は誰に仕えていたのかしら?」
「定まった主はおりませんでました。後ろ盾もありませんから仕官先を探して彷徨っていたのです」
「貴方ほどの腕なら直ぐに雇って貰えそうだけど。ネイトも褒めていたわ」
「いえ、買い被り過ぎです。昨日の事はネイトとの連携が上手くいった結果です」
アリステアは控え目に話し怪しさは全く感じられなかった。
「昨日は騎士仲間達に根掘り葉掘りフェアリーネ様の事を聞かれ大変でした」
前言撤回、余計な事を言わないで。
「何を話したのですか?」
ミラベルは私の噂の内容に興味深々で先を促す。
「言わせないでミラベル、恥ずかしいわ」
私は慌ててミラベルを抑える。残念そうな彼女に「後でお話し致します」とアリステアは約束していた。
余計な事を!アリステアってこんなお茶目さんだったっけ?
昨日、ピッカリがいた建物へ行くと先触れもなく訪れた私に動揺を隠せない様子だった。
「あぁ、フェ、フェアリーネ様!どうなされたのですか?今日は何用で?」
「ピカリング様、わたくし昨日はすぐに帰ってしまって申し訳ございませんでしたわ。今日は皆様の作業の様子をキチンと拝見しようと思い参りました」
ニッコリしようと思ったがベールをしてたわ。
「えぇ、そんな急に」
昨日の騒ぎで私が怖がってもう来ないか、シナリオがあれ以上無かったのか、ピッカリはあたふたとし話が進まない。
「大丈夫です、ピカリング様のお手は煩わせませんわ。勝手に致しますので、では失礼いたします」
面倒いのでピッカリを振り切ると昨日魔物のパイアが出た所へ行った。あそこが開拓の最前線のはずだ。
馬車の中でアリステア改リックスはさっきの私のやり取りを見て驚いていたようだ。グズは嫌いです。
「フェアリーネ様はお噂とはかなり印象が違いますね」
リックスはやんわり私に聞いてくる。
「そうかしら?どんな噂があるの?」
「そうですね。あまり多くはありませんが、フェアリーネ様がここへいらっしゃると聞いた時は、ディミトロフ辺境伯の深層のお嬢様がアデミンストから療養する為に来るらしいと……その、例の、事情がおありだから外出はされないだろうと」
白の呪いね、やっぱりここでも呪いは避けられる事柄なのね。
「そう思われていたのがどう違ったのかしら?」
別にまだ何もしていないよ。
「今ではフェアリーネ様が顔を出されないのはディミトロフ様がお美しいフェアリーネ様をふさわしい人物の所へ嫁がせる為にワザとお隠しになられていると言われています」
「…………………………は?」
耳鳴りが聞こえます……誰?そんななんの根拠も無い……クラウスかぁ!アイツ、私の価値を吊り上げにかかってやがる!なんて事を!
「まぁ!なんて事を!」
そうそう、ミラベル言ってやって!私はそんなんじゃないって!
「皆様やっとフェアリーネ様の価値に気がついたのですね!」
「ミラベル止めなさい!」
そこからミラベルの変なスイッチが入ってしまい延々と私を褒め称える言葉を連ねた。アリステアはそれを薄い笑みを顔に貼り付けて聞いていた。貴方がやった後始末は自分で取ってね。
私は顔を外の景色に向けると耳をシャットアウトした。
現場に着くとなんとも言えない空気が漂っていた。騎士達はそこらへんでダベリ、平民の男達はダラダラと倒れた木を小さくカットして荷馬車に適当に載せ次はどの木を切っていくかを指差しながら眺めいっこうに取り掛かる様子もない。
なんだこれ!ヤル気無いんかい!
私が来たことに数人の騎士達が気づき慌てて近寄る。
「フェアリーネ様!今日もいらしたのですか?」
ひとりが尋ねてくる。
「えぇ、騎士のまとめ役はどなたかしら?」
私の言葉にチャラそうな男がズイッと前に出てきた。
「私でございます。なんでもお言いつけ下さい」
チャラ男は名をガスと言いニヤッとした。
「ではガス、貴方は今この場でクビです。ご苦労様でした」
「は?……なんと?」
「クビです。解雇です」
私はもう用はないとばかりに彼の横を通り他の騎士達がたむろっている所へ行こうとすると、ガスは突然私の腕を掴んだ。
「何だって!そんな事が許されるか!」
と叫んだが、次の瞬間にリックスに腕を固められて背中に膝を押し付けられ地面に倒されていた。
いい仕事するね、相変わらず。
「ぐあっ!離せ!クソ!」
ガスの声に皆が集まってきた。
「この場に働かない者は必要ないわ。やる気の無い者は今すぐ解雇します。貴族、平民、どちらも同じです。使えない者は要りません」
私がそう宣言すると、その場は凍りついた。
「我々の雇い主はディミトロフ辺境伯だ。フェアリーネ様じゃ無い!」
ガスがリックスの下で喚いた。
「では、そうお父様に抗議なさって下さい。その抗議が通って正式にわたくしにお父様から命令が下るまではこの現場に立ち入らないで下さい。もちろん給与も住むところも食事も提供いたしません」
私の言葉に騎士も平民もヒソヒソと話し合っているようだ。
「フェアリーネ様に従えばこのまま働き続けられますか?」
ひとりの平民がオズオズと声をあげた。
「もちろんですわ。働きが良い者には昇給もあります。怠ける者はクビです」
平民にしてみればもうすぐ冬になるというのに仕事はおろか住むところまで無くなるのは死活問題だ。
ザワザワとしていたが、私が改めて仕事を続ける気のある者は前に集まるように言うとゾロゾロと私の前に集まりだした。
「はい、サッサと集まって、ダラダラしない!」
私が声を荒げると皆がビクッとなり小走りに集まる。お嬢様の叱咤は怖いよね。
「はい、騎士の中で風の魔術を使える者は倒れた木の枝をはらって、火の魔術を使える者はそれを集めて向こうで焼き払って、水の魔術を使える者はそれに付いてって火事に気をつけて、残りの者は協力して木を切り倒して、そこの力有りそうなのは残った切株堀り起こす」
私がとっとと指示を出すが誰も動かない。
チッ!トロいな!
「クビになりたくないなら早く動く!」
怒鳴りつけると、ビリっとしてバタバタと動き出した。私はまだリックスに抑えられてるガスの所へ行き地べたを見下ろす。
「貴方はどうするのかしら?」
ガスは顔を引きつらせ「フェアリーネ様に従います」と言うので「次は無くてよ」とお上品に言うとリックスに命じて解放した。
「これで少しは進むかしら?」
私が呟くと隣でリックスが「お見事です」と言ったその目は満足気だったのでなるほど、これも目的の一つかな、と思った。
マティウスは開拓を進めたかったのだろうか?
まだ、何かありそうだが当分はここに掛かりきりになるだろうから構ってられない。




