67 お仕事3
カイリンからは二、三日日おきに呼び出され学院の研究室に通う生活が続いた。
二度目からはお弁当を持参してミラベルと一緒に作業部屋で昼食を取っていたが何故かエイダンもわざわざコッチに食事を運んで一緒に食べていたので最近は彼の分もお弁当を持っていっていた。
「なんだコレ……」
唐揚げは裏切らないよね。エイダンは目をキラキラさせて鶏の唐揚げを存分に味わっていた。男の子だねぇ。
お仕事の内容も少しずつ増え必要な薬草の管理など他にも雑務が山のようにある。ミラベルもカイリンに帳簿の記入や在庫の管理、発注など事務を任され優秀さを発揮してきる。
「いや、使えるねぇ。辺境伯の文官は」
時折、カイリンは私達の作業を見に来ては一緒にお茶して、持って来たクッキーを食べまくって帰って行った。
エイダンは私が人目につかないようにドアを締めて作業し、用があって出ていく時は中からカギをかけるように言って出ていた。
「気を使わせて悪いね」
「いや、別に……」
彼は基本的に仕事中は余計な話をしない。淡々と作業し、簡潔に指示をくれる。
秋も深まってきた頃、私は慣れた作業をこなし、出荷する物をまとめていた。今回はちょっと量が多かったので手間取った。
「エイダン、遅くなったけど出来たよ」
「いや、仕方無いさ。今回は多すぎだから」
私がドアの前の荷物を置いている所に最後の一箱を置いて、出荷する為にドアのカギを開けた。すると不意に男が入って来た。
「エイダン、まだか?遅いぞ」
「わっ!危な……かった……」
私は驚いて後に下がる。
「……おぉ、すまんな」
入ってきた男の顔をふと見るとダリューンだった。なんでこんなとこに!私は息を飲んだ。
「あぁっ!こっちには来るなって言ったのに!」
エイダンが早足で側まで来て私とダリューンの間に立った。
「いや、他にも人がいると思わなかったから、驚かせて申し訳無い」
ダリューンは私をチラッと見ると謝罪しすぐに荷物を持って出て行った。
いや、相当ビビったわ。なんでここにダリューン?あ、この薬草、流行病のか?そういえば新月魔草以外のオルガのレシピの材料も入ってたな。
私が考え込んでいたのをダリューンを怖がったせいかと勘違いしたエイダンが心配そうにこっちを見ていた。
「あ、大丈夫だよ。ちょっとビックリしただけ。平気だから心配しないで」
「アイツ悪い奴じゃ無いから。あぁ見えて出来る奴だし」
そうだね。良く知ってるよ。
「よく知って人?」
「まぁな、カイリン先生の所によく出入りして薬草とか持って来て出来上がった薬を持って行ったりしてるから」
新月魔草の栽培が上手く行っているのだろうか?オルガの薬湯配ってるのかな?
「ねぇ、流行病ってどうなったの?食中毒だったんだよね」
「良く知ってるな。あれはある魔物を食べた為に起きた食中毒だったよ。冬になると沈静化するから今のうちに各地に薬を配っていこうって事になってるけど、高額だからなかなか思うように配れなくてな」
そうなんだ。まだ完全に無くなったワケじゃ無いのね。
そろそろ初冬にさしかかり、私の経理コースの第二試験も迫ってる。お父様は資格を得られても仕事には関わらせないと言っていたが、やってやる。なめんなよ。
隠れてここで仕事をしているがお母様と上手く連携して今までバレてはいない。接するする人も最小限にしており、初日の失敗以来ほぼエイダン以外の人に接触は無い。ダリューンには会っちゃったけど。
「いつ第二試験なんだ?」
エイダンが休憩中にフィナンシェを食べながら聞いてきた。我が家の料理人も腕を上げたわ。
「明後日よ。チョロそう」
「心配はそこじゃないだろ」
エイダンは私がまた誰かに何か言われないか気にしてくれているようだ。やっさしぃー。
「大丈夫でしょ。またミラベルもギリギリまで側にいるだろうし。何か言われても気にしない」
私の言葉にエイダンはう〜んと考え込み「経理か……アイツに頼むか」と呟いた。
「なに?何を頼むの?」
「いや、経理を受けている知り合いがいるからそいつにフェアリーネの事を頼むよ」
「えぇ!?いいよ。迷惑かけたくないから」
私はこれ以上貴族の誰かと接する機会を増やしたくない。食堂の出来事でちょっと嫌な思いをしたのが気になるし、それにエイダンにも本当は迷惑をかけているかも知れない。ちょっと弱気になってるな。
「大丈夫だと思うけど、まぁ困ってたら助けてやってくれって言っとくよ。大丈夫ならほっとくだろうし。そいつもあまり人と関わるのを嫌がるから」
「だったら良いけど」
休憩も終わろうとする頃カイリンが久しぶりにやってきた。
「フェアリーネ、ご苦労だったな。今季は取り敢えず一段落したから当分は来なくても大丈夫だ。また忙しくなったら頼むよ。後、薬学コースがとれるようになったら便宜を図るから声かけてくれ」
「そう、ですか。短い間でしたけど楽しかったです。エイダンとも知り合えて良かったし」
私はちょっと寂しく思いながらエイダンの方を見る。彼はちょっと驚いて視線をそらした。
「ヘェ~、そんな感じなんだな。まぁ、まだ午後もあるから、それ済ませたら帰ってくれ、ではまた」
カイリンが両手にフィナンシェを持って去って行った。
午後もアレコレ薬草を分別したりしながら仕事をこなしていた。
「おっと……失敗」
私は手を滑らして薬を少しこぼしてしまう。もったいない!苦労して粉にしたのにと慌てて片付けた。
「かかってるぞ」
そう言ってエイダンがベールを指差した。
「え、どこ?」
私は手で後ろのあたりをパタパタと払った。
「違うそこじゃない」
彼は私に近づくとさっとベールをとった。
「え……」
私は驚いてエイダンを見上げる。彼は気にする風でも無くベールを軽く振って薬の粉末を払うと私に向き直った。
「ほら、こっち向け」
そう言って今度はふんわりとベールをかけてくれた。かと思ったけどベールはスルリと私の髪を滑り肩に落ちるとスカーフのように首元だけにかかった。
「あ……あの……ありがとう」
思ったよりもエイダンの顔が近くにあって固まってしまう。
エイダンは両手でベールを持ったままちょっとかがんだ姿勢で私を見ている。
待って待って待って、この状況はマズイ、か、顔が熱くなる。よく見ればエイダン結構イケメンだし。どうすればいいの!逃げる?逃げればいいの?
「ベールしなくても良いよ」
そう言って席に戻って行った。あぁぁ、叫びたい!誰かなんとかして!この雰囲気!キャ~。
私は心の中で大騒ぎしているのをなんとか堪えて作業にもどった。
何となく話もしないまま夕刻になり、とうとう帰る時間になった。
「フェアリーネ様、終わりました?帰りま……ベールはどうしたのですか?!」
ミラベルが私が顔を出したまま作業しているのを見て驚いていた。やっぱりベールなんか被っているより無いほうが仕事をしやすかったのでそのままにしていたのだ。
気持ち的には被りたいほど恥ずかしかったが、やり易さには勝てなかった。エイダンも何も気にしていなかったようなので大丈夫だろう。
ミラベルもエイダンをジッと見ていたが彼が普通に接していたのでホッと胸をなでおろしていた。
またベールを被り、いつも通り馬車まで送ってくれ、エイダンと当分の別れを告げた。
「また会えると良いね、色々ありがとう」
「あぁ、俺も面白かったよ」
なに?面白いって?エイダンに手を振り馬車に乗り込む。
今度はいつ来れるのかな……名残惜しく思いながら屋敷へ帰った。




