64 反抗期
アデミンストにある本館に到着した。ここはディミトロフ家とはいえ本館に私の居場所は無い。使用人達も私を見たことがない者がほとんどで、あからさまな態度を取るものはいないが出来るだけ人目に触れない方が良いと言う事でベールを被り移動する。
流石本館、私が住む別館よりもかなり大きく豪華な造りで装飾も大変お金がかかってそうだ。こんな事に金かけるなら借金返済に当てろよと言いたい。
何とかそれほど多くの使用人ともすれ違わずにお父様の個人の部屋までやってきた。既に待ち構えていたお父様が私が部屋に入るなりベールをそっと上げて取り去ってくれた。
「あぁ、良かった。顔を見て安心したよ。酷い目に合わなかったかい?」
心配で仕事が手につかなかったようだ。いや、やろうよ仕事。
ミラベルが早速今日の出来事を報告し始めた。私は別館から来ていたドロシア&オリアーナにお茶を入れてもらいホッコリと休んでいた。
「フェアリーネ様、学院はいかがでした?」
「怖くなかったですか?」
この二人がいると落ち着く自分がいるよ。
「大丈夫でしたよ。それより聞いて、わたくし薬学コースで唯一の合格者でしたの」
自慢気に話すと二人はニッコリと微笑む。
「まぁまぁ当然ですわ。フェアリーネ様は優秀ですもの」
「本当にそうですわ。一番に決まってますよ」
素直に褒めてくれるので嬉しくなってお父様にも褒めてもらおうと振り返った。
「なんだって!講義なんて駄目だ!何を言ってるんだ。そのような目に合わされたというのに又来週も行くなんてとんでもない!」
ミラベルの報告を聞いていたお父様が声を荒らげた。予想していたのかミラベルに動揺は無いがドロシア&オリアーナはビクッとして顔を見合わせ私をお父様から見えないように間に立った。私が叱られると思ったのだろう。
私は「大丈夫よ」と言って立ち上がるとミラベルの横に並んだ。
「何故駄目なのですか?わたくし平気でしたわ。ちゃんと振る舞えたと思いますし、優秀だと褒められたのですよ。やりたい事をみつけたのです」
私の言葉にお父様は一瞬言葉に詰まったが貴族らしく微笑み言うことを聞かせようとする。
「講義のことはこちらで断っておくから行かなくても良いんだよ。お前の目的は経理コースだろ。そちらならば次は冬の第二試験に行けば良いのだからそうなさい」
「嫌です。わたくし来週の講義に行きたいのです」
「ワガママを言うんじゃ無いよ」
「ですけど、どの道わたくしがお父様の仕事を手伝うのならいずれは人目にさらされます。それが少し早まっただけですわ」
私は強く食い下がる。
「駄目だ!そもそも私はお前に仕事をさせる気は無い」
「なんですって、約束したではないですか、嘘をついたのですか!」
「私は最初から学院に行くことは認めたが仕事をさせるとは約束していない」
やんわりした言い方だがキッパリとお父様は言い切った。
コイツ、そうきたか。人が黙って貴族らしく振る舞って大人しく接していたからってこんな事言ってくるなんて……あぁわかった、わかった!
「わかりました」
私はニッコリとお父様に微笑んだ。
「分かってくれて良かったよ」
お父様はホッとして椅子に座りなおした。私の横でミラベルがピリッとするのが分かった。ミラベルは気づいているのだ、私がキレているのを。
私は彼女に笑顔のまま視線を移すと目で余計な事言うんじゃ無いと釘を刺し、ミラベルは微かに頷き了承した。
それからお母様とお兄様が合流し当たり障りの無い会話をして別館に帰ることになりベールを被った。
私は貴族的な笑顔を絶やさず最後まですごし、我ながら成長したなぁと思いながら馬車に乗り込む。ミラベルが一瞬お母様に視線を送っていたがコホンと咳払いしたらグッと堪えたようだった。
馬車が走り出した瞬間に私はベールを取る。
「ミラベルは誰の味方かしら?」
ベールを差出し答えを迫ると彼女は深呼吸した。
「もちろんフェアリーネ様のお味方です」
と言ってベールを受け取った。
「貴方はお父様の指示で私の世話を焼いているのでしょう?」
「それはそうですが、私はフェアリーネ様に心から仕えているつもりです。それは指示されたからではありません」
「それは一緒にいて十分わかっているわ。だからこそここでハッキリさせたいの。邪魔されたくないの。でもこのままじゃ貴方は主であるお父様に逆らえないでしょ?それを避けたいの」
そう言うとミラベルはニッコリ笑う。
「私の主はイブリン様です。ですから旦那様の言う事聞く必要は本来ないのです、奥様に頼まれフェアリーネ様に付いているので」
「そう、それは主をわたくし個人に変えることは出来るかしら?」
「奥様にお聞きしないとわかりませんが可能かと」
「では早急にお願い。来週に間に合わせてちょうだい」
「は、はい。……かしこまりました」
ミラベルは大きな決断を迫った私を見て言った。
「責任とってくださいね」
えっ何?なぜ嫁入りみたいになってるの?
「大丈夫よ。わたくし個人の財産も一応あるみたいだし」
「私が欲しいのはお金ではありませんわ」
何だかミラベルの目が熱っぽく潤んで来た気がするのは気の所為では無いのかも。え!ミラベルそっち?待って私そっち違う!
「ミ、ミラベル、あの、わたくしお誘いしておいて何だけどそっち違うから」
こんな馬車の中で襲われたら逃げられない。ミラベルは結構強いのだ。彼女はは両手を祈るように目の前で組むと私にグッと近寄る。
「わたくしフェアリーネ様が生き返ってからずっと楽しみにしていたのです」
「た、た、楽しみって……」
ち、近い近い、距離感がおかしいよ!
「とってもとってもお美しいフェアリーネ様が何故苦しんでおられているのか、それがとっても嫌だったのです。
だから毎日お祈り致しておりました、お元気になられるのを。私が至らず一度は絶望致しましたわ。そうしたら生き返ったフェアリーネ様が生前とは別人のように生き生きと振る舞っておられるのを見てこの方をずっとお守りしようと決めたのです。きっと素晴らしい事をなされるに違いないって信じております。ですからわたしの全力をもってお支えいたします」
ミラベルってこんなキャラだったのね。私の直属になる事になってスイッチが入ったようだ。まぁ全力出してくれるのは良い事だ、良しとしよう。そっちじゃないようだし。
別館に到着し私は馬車から降りると扉を開け屋敷に入った。もうここで取り繕うつもりはない。ミラベルは私の変わりように慌てていたがお構い無しに自室へ直行し机に座るとミラベルにアレコレ指示を出す。
「まず、これの資料とこれとこれ買うなり借りるなりして。明日早速お父様に見つからない様に私の直属になってきて。それからここ数年の流行病の経過を調べて、誰がどのように関わっているかも調べて。それから……」
私は自分が気になっている事をもう我慢する事無く調べ上げてやろうと指示を出した。ミラベルは本当に優秀で直にメモを取り出て行った。素晴らしいです。
次の日にはほとんど手配を済まし夜にはミラベルは私の直属になり、流行病の情報が少し手に入った。
「ひとつお話がございます」
「何かしら?」
「イブリン様に直属のお願いにお伺いした時に色々聞かれました。私はフェアリーネ様に集中してお仕えしたいからと言い切ったのですが切り替えの代わりにフェアリーネ様の情報を内密に渡すように約束させられましたのでインファント様には伝えないという約束で契約しました」
ミラベルは契約魔法でお互いに縛ったらしい。
「そうなの、まぁいいわ。情報はいくらか操作出来るでしょう」
「はい、ある程度は大丈夫です。それに」
「なに?」
「きっとイブリン様はフェアリーネ様をお助けしたいのだと思います」
「私を助けてくれるの?」
お母様はお父様を裏切るつもりなのだろうか?そもそもお母様様の家柄を考えると爵位的にはかなり玉の輿だがディミトロフ家はお金が無いのでずっと援助しっぱなしのようだ。
お母様が仕切りたいのかな?今は一応まだお父様が当主だけどいずれお兄様の代に変わったらお母様は蔑ろにされそうだもんね。しばらくは大丈夫だろうけど様子見ね。




