62 試験2
首都アデミンストに入った。もう少しで学院に着くというその時ミラベルが大きな美しいベールを取り出した。
「フェアリーネ様、これをお召になって下さい」
頭からスッポリと被せられ髪はおろか顔も見えなくなった。顎のあたりが微かに見えるくらいだろうか?
「ここまで必要かしら?」
私が大袈裟だと言うとミラベルは貴族らしく微笑む。
「様子見ですわ。不要となれば取ればいいのですから」
めっちゃ警戒してる。そんなに酷いの?
学院の正面玄関に到着した。馬車は少し端のほうに寄せられ、降りたところから結構な階段を登らなくてはいけない。
どこかの劇場の大階段の様で、ちょっと芝居がかったような豪奢な造りの学院にピッタリだがど真ん中を歩くのは遠慮したい。目立つ事この上ないだろう。
屋敷からついてきた護衛が警戒する中、エスコートしてもらい馬車から降りるとここからはミラベルと二人だ。ちょっと緊張する。
ミラベルを見ると貴族らしく優雅に私を案内し階段へと向かう。私もやらなきゃ、お貴族仕様。
ベールはどうゆう仕組みなのかわからないけど私の顔は見えないようだが、こっちからは結構見通しが良い。少しボンヤリとするがちゃんと見えてる。
階段をゆっくりと上がり建物の中へ入る。ベールを被った私はすれ違う人達の目を一瞬引き付けるが特に何も言われる事なくスムーズに進み、受付らしき物を済ませ入学式兼説明会の会場に向かう。外国の方など高貴な方はたまに薄いベールをつけているらしくそれほど違和感はないそうだ。
会場は思ったより広く随分沢山の入学者がいるのだと思っていたら、新入生だけでは無くニ年、三年の者も学科ごとの案内が行われる為ここに学院一同が揃っているのだ。
教科によって研究者や入り直しの者、卒業時の成績をもっと上げて就職に有利にしたくて勉強し直す者と色々な理由で皆ここにいるらしい。
私達は一番後ろの目立たない所にそっと座りミラベルが盗聴防止を使いこの後の事を話す。
「ここである程度の説明があり詳しくは後の試験会場に移動してからです。お嬢様は経理コースと薬学コースですので先にこの会場での説明の後、経理コースの試験を受けて休憩を挟んで次に薬学コースの教室です」
いくらミラベルがずっと一緒とはいえザックリ説明を聞く。ざわついていた会場が少し静かになったかと思ったら正面にある壇上で説明が始まった。
みんなが一斉に正面を向いて話を聞きだした時に静かに私の横に一つおいて誰かが座った。こんな隅の一番後ろに座るなんて、私以外にも訳あり人物がいるのだろうか?男性の様だ。
わざわざ自分から関わる事は無いので出来るだけ自然な感じで顔を向けない様にして気配を消す。
説明会はすぐに終わり次は試験会場の案内だ。隣の訳ありかもしれない人物はさっさと出て行ったのでもう教室が発表されたのだろう。
私はミラベルに連れられ最初の経理コースの第一試験が行われる場所に向かった。
試験会場は普通の教室で、中に入り机に座るとその横にミラベルがピッタリと貼り着いた。
絶対に誰にも話しかけられない様に警戒感ギンギンのミラベルの目をかいくぐる猛者は存在せず、最後に試験官らしき人が教室に入りお付きの人は外に出るようにと言われた。
ミラベルはまわりの貴族達に無言で目で釘を刺すとスッと離れた。出ていった瞬間、圧が凄かったのかまわりの人達がホッとしていたのが分かった。
教室のドアが閉められ、詳しい説明が始まる。その途端隣の男性貴族が話しかけてきた。
「失礼ですがどちらのお嬢様でしょうか?私は……」
私は軽くコホンと咳をし試験官の気を引く。
「そこ、静かに。ここは社交の場ではありません」
試験官の注意に他の人達がクスッと笑い、話しかけてきた男は肩をすくめると口を閉じた。お調子者っぽくて嫌いでは無いが出来れば関わりたくはないタイプだ。
試験官の説明の後、出席確認がされ一人ひとり名前が呼ばれ皆静かに頷く。
あれ、不味くない?私の名前ってどれくらい浸透してるんだろう?私の順番が来て試験官が一瞬戸惑いを見せてから名前を呼ぶ。
「フェアリーネ・ディミトロフ様」
教室中のみんなが息を呑んだ事が分かった。私が静かに頷くとさっき話しかけてきた男性騎士がばっとこちらを向いたのが分かったが、私は正面を向いたまま動かなかった。
その後は何事も無く出席確認が進み、試験が行われた。
第一試験は経理と言うより貴族としての礼儀の部分がほとんどで、なんて事なく解き進みアッサリ終わった。終われば教室を出ても良いので私は帰り支度をし、立ち上がろうとしたら私より先に誰かが教室を出ていった。私も立ち上がると一瞬ザワッとしたが気にせず外に出た。
外ではミラベルが冷静を装っていたがイライラしながら待っていた。
「こちらへ」
一言だけいって私をささっと休憩の為の部屋へ連れて行かれた。
辺境伯は公爵に次ぐ高位だ、申請すれば伯爵より上位の者は有料だが別室を用意してもらえるらしく、部屋に入るとホッとした。やっぱり皆私の事知ってるんだ。
「大丈夫でしたか?何か言われました?」
「何も、だけど私の事をみんな知ってる感じね。名前を呼ばれたらザワついていたわ」
「なんですって、あれ程頼んでおいたのに!」
ミラベルによると出席確認は試験官が不正を防ぐ為に行う事で人物確認が出来ている人は呼ばれないらしい。
つまりほぼ新入生だけが呼ばれ、再試験の者など試験官が見知っている者は呼ばれない。私は新入生だが事情を考慮して呼ばれない事になっていたはずなのに違ったようだ。これも白の呪いのせいなか、ただの手違いかよくわからない。
「申し訳ございません。フェアリーネ様、次の薬学コースではご不快な思いをするかも知れません」
休憩中に噂が広まるであろう心配をしてくれてミラベルが顔を曇らせる。
「大丈夫よ。実害が無いなら無視すればいいわ」
私は気にしないとミラベルに話し平気なフリをしたが実際はやっぱり気になる。さっきのザワつきかたもちょっと怖かったよ。前の席の人なんてちょっと椅子を引いて距離を空けようとしていたし。近づいたら呪いが移るとでも思っているのかな?この世界って本当に呪いなんてあるの?
休憩が終わり、部屋を出て休憩前に歩いてきた通路から別の通路へと移り長い廊下を歩く、カツカツと靴音だけが響き廊下には誰もいない。人気の無い所を選んでくれているのだろうか。
再び他の人達も歩いている廊下に出て少し歩き、教室に着くと中には数人の男性貴族がいるだけで女性は私だけだった。余計に目立つな。
入った瞬間ザワッとし一斉にこちらに視線が向けられる。教室内を移動していると私の動きに合わせて視線はついてきて、私が座ったら少しでも距離をおこうと何人かが席を移った。
ミラベルが無表情の頬を一瞬ピクッとさせていたが教室内で口をきくものは誰もおらず、シンとしたまま試験官が来るのを待っていた。
苦しいほどの緊張感の中を一変するかの勢いで試験官らしき女性貴族が飛び込んできた。
「はい、急いで。本日第一試験に通った者に第ニ試験は実施されません。今季の試験は本日のみで後は来年です。見込みのあるものだけ取るので、即採点しますから出来た人からここに持ってきてください」
私がいる事に妙な緊張感を漂わせていた教室内だが、急に皆バタバタと試験の準備をし始めた。
「あなた、早く出て」
「あの、これは一体……」
「疑問があるなら後で受け付けますが今は出てください。試験を受ける気のある者だけ残って。邪魔するなら失格にするのですぐに出てください」
そこまで言われれば引くしかないと思ったのかミラベルはグッと我慢の顔で黙って私を一度見ると出ていった。
直に試験開始だ。問題が配られてみんなが息を呑むのが分かった。普段の第一試験は軽い基本知識だけのはずが今回は違ったようだった。
「すみません、いつもと内容が違い過ぎるようですが?」
「文句のある人は出て下さい。また来季にどうぞ」
試験官は手に持った書類から目も上げずにボソッと答えた。質問した者は黙ってテストを受けだした。




