61 試験1
思っていたより勉強は順調に進んでいたのか、ミラベルは私に貴族としての教育まで入れて来た。
「コレ、いるの?私は貴族社会に馴染まないのでしょ?」
「先の事はわかりませんわ。やっておいて無駄ではありません。それに学院に行くのですから行儀作法は必要でございます」
そうだ、貴族だらけの所に行くんだった。
試験は午前と午後に別れており学科によって違うらしい。学院には色々な資格をとれる教科があり、経営者として貴族社会でのやり取りに必要な経営コース、花嫁修業的な貴婦人コース、魔術士コース、騎士コース、等など結構種類が多くある。
教える人がいれば色々開設されるみたいで、逆に先生がいなくなればアッサリ閉鎖される随分勝手な構造だ。
人気は騎士コースでそこから護衛になったり優秀な者は騎士団に入れたりするらしい。裕福な女性貴族の大多数は貴婦人コースで、そうでもない者はどこか爵位のある家に仕える為に得意分野の文官になり、上手く行けばそこのお坊ちゃまに見初められ結婚、目指せ玉の輿だ。
経営コースの中にもいくつか資格の種類があって私が取る一番基本の経理、売買が出来る販売、領主に税を納める手続きが出来る税理、などがある。とりあえず経理だな。
最近やっと鏡を見せてもらえるようになった。フェアリーネは自分の姿を見る事を嫌がっていたので屋敷から鏡はすべて取り外していたのだ。
私はかなり痩せていて不健康な体つきだったのがここに来てふっくらと肉づきも良くなり、女性らしい丸みも出て来てやっとミラベルは鏡を置いてくれた。磨き抜かれた鏡をドキドキしなから覗いて見た。
うわぁ……美人!プラチナブロンドのストレートの髪に切れ長の瞳は濃い蒼玉。少し病的だが肌は陶器のように滑らかで透けるように白く、鼻筋が通りサクラ色の唇は艷やかでぽってりとしほんのり色気を感じる。
めっちゃ美麗です。マジですか!私こんなにも美しく生まれ変わったの?
「大変お美しいですわ、フェアリーネ様」
満足気なミラベルを見てもやっぱりそうよね。こんなに綺麗なのに髪が白いってだけで避けられるんだ。よし、綺麗過ぎて避けられてるって事にしておこう。
私が固く決意していると、おばあちゃま側仕えの二人がお茶を入れてくれた。
「お嬢様、本当に学院に行かれるのですか?」
「心配ですよ、本当に」
ドロシア&オリアーナが私を心配しているのはわかるが借金返済のためだ。
「大丈夫よ、試験を受けるのだけですもの」
私はお茶を一口飲んで優雅に微笑む。大分貴族らしく飲めるようになった。
「ですけど、口さがない者達がいますよ」
「そうですよ、心配です」
この二人、とっても良いと思う。なんちゃら姉妹みたいで。
「大丈夫ですわ。私がずっとお側に付いておりますから。お一人になられるのは試験中だけですわ」
ミラベルはさも当たり前の様にニッコリ笑う。そうなの?保護者同伴的な?恥ずかしい位の過保護なやつ状態になるのかな。
「ディミトロフ家のお嬢様がお一人で行動するなんてありえませんわ」
ああそうだね、貴族様はいつもお付きの人を連れてる。だったら大丈夫だね。
「お嬢様、エルナンデス伯爵にはお気おつけ下さい」
「えぇ、あのバカ息子……いえ、ご子息に近づいてはいけません」
ドロシア&オリアーナが顔をしかめて言う。
「どなたですの?」
ミラベルが社交用の貴族的な笑顔のままひんやり冷たい空気を醸し出す。笑顔で怒ってるの?器用ね。
「大丈夫ですわ。絶対に!近づけませんから」
私を秋の学院入学に間に合わせてみせると意気込んで実現した出来る秘書のミラベルが、力強く発言したとこをみると相当な事をしでかした者らしい。
「その方は何をしたの?」
ドロシア&オリアーナに尋ねると二人は顔を見合わせコックリ頷きあう。
「近づかなければ良いのです」
「せっかくお忘れになっているのですから」
そう言って教えてくれない。
「ミラベル、教えてくださる?」
「何度も不快な思いをする事はありませんわ」
そう言って話は切られた。不快なら聞かなくてもいいか。
「わかりました、もういいわ。それよりわたくしの明日の準備は出来ているのかしら?」
明日はいよいよ入学式と第一試験だ。入学式と言っても大袈裟な事ではなく、説明会的な要素が主だ。
「もちろん、万端です」
この日の為に勉強は勿論、礼儀作法、階級による挨拶の仕方、相応しい服装をしなければならずドレスの注文など色々忙しかった。ドレスも年齢、場所などによって丈の長さが微妙に違うらしく高貴な方は足を出来るだけ出さないらしい。足出しは端ないそうな。
ドレスは全て作り直しだった。フェアリーネはずっと痩せ過ぎ体型だったため今の私には小さ過ぎた。結構スタイル良いのよね私って、ムフッ。
髪の事があったからお針子さん達に会うのはちょっと不安だったけど昔からの馴染みの人達ばかりだったようだし、そもそも平民だ。多分白い髪がそこまで奇異にうつってないようで淡々と仕事してくれた。
淡いピンクの色合いで作ったドレスはフンワリとAラインで裾が広がりマキシ丈のいかにも夢見心地なお嬢様が着てそうな物だった。
これってお父様の好みかな?このドレスなら横に並んで立てばお似合いの夢見心地ふんわりカップルが出来上がるだろう。
だけど私は切れ長の瞳のややキツイ美人、ツンデレのツンが強いほうなのでこの雰囲気のドレスを着れば違う意味でグッとくる感じだ。なんかマニア受けしそうで嫌いでは無い。ムフ、ギャップってやつね。
次の日、いよいよ入学式に向かう。家族勢揃いで本館からここ別館に見送りに来てくれている。心配そうな面々の中お母様だけがニコニコと嬉しそうに私を見つめる。
「本当に良くここまで頑張りましたね。貴方は自慢の娘ですわ」
「お母様、ありがとうございます。自慢出来るかはまだわかりませんけど精一杯頑張ります」
お兄様は涙ぐみながら震える手で私の頬にそっと触れる。
「本当に行くのかい?今からでも止めて良いんだよ」
心配全開だ。そんな不安そうな顔をしないで、こっちだって緊張してるのに。
「ユージーン、そんな顔をしてはフェアリーネが困ってしまうではないか」
お父様が私の気持ちを代弁してくれる。
「お前にこんな負担をかけてしまってすまないね」
「お父様、謝るのでは無くわたくしがここから出る日が来たことを喜んで下さい」
私がそういうと夢の住人のようなお父様が驚いて優しく抱きしめて耳元で「そうだな、おめでとう」と囁いた。
ブワッ、だからそれやめてよ!甘々カップルだけに許される行為だから!
赤面しながら家族に手を振り馬車に乗り込んだ。学院は領主様のお城の近くにある。つまり首都アデミンストの北に位置する。
辺境伯であるディミトロフ家の別館はアデミンストから馬車で1時間程の距離にあり、本来なら本館から行くほうが近い。だけど一年かけて三回程行くだけなので特に引っ越しするつもりはない。
「ねぇミラベル、教科の中に薬剤師になるコースがあったじゃない?それ私も取れないかしら?」
ミラベルは少し考えて答える。
「そうですね、お嬢様が興味をお持ちだったので少し調べてはいたのですが今のままでは資格を取るには足りませんね。第一試験は合格すると思いますが、第二試験は実技がありますからどなたかに師事しなければいけませんね」
「そうなの、だめかしら?どなたか私にも教えてくださる方がいるか調べてくれない?」
ミラベルは少し困った顔をした。
「ですが、出来るだけ貴族と関わるのを避けるように旦那様から言われておりますし、先生が見つかるかわかりません。教師クラスの腕の者はある程度お年を召しておられますから、その……」
「髪ね、またこれがネックなのね」
こんなにキレイなのにそんなに怖い?見慣れないだけだと思うのにね。古い考えの人ほど考え方は変えられないっていうからね。
「まぁ取り敢えず誰か探してみて見つからないなら諦めるけど、申込みはしてもいいでしょ?第一試験だけでも受けたいわ、薬学コース」
「分かりました。大丈夫です、薬草の基本だけですから。フェアリーネ様がご存知の範囲ですわ」
いつのまに私の知識の範囲を把握したのやら。




