60 あきらめ
なにが辺境伯だよ!なにが貴族だよ!
私は朝から荒れまくっていた。リハビリも気が入らず、ただイライラとして一向に進まなかった。
上げといて下げるんじゃないよ。またか、また貧乏か。
「もぉー!わかった、わかりました。ミラベル、お父様とお母様を呼んで下さい。きちんと話を聞きたいです」
「かしこまりました」
もぉ、どれくらいひっ迫してるかによってのんびりリハビリとかしてる場合じゃ無い。
しかし、何をノンビリしてるのか、金策に忙しいのか面会は二日後に決まった。その間、ミラベルに、少しでも情報を教えてもらう。
「で、どれくらい駄目なの?」
「あ、あの私からはちょっと……」
「なに?知らないの?それでも文官なの?」
ちょっと八つ当たり気味にミラベルに言う。
「いえ、存じております。ここに来る前は本家の文官でしたから」
「そんなに大変なのに何故ここに来たの?飛ばされた?」
ミラベルは荒れる私に困惑した。
「フェアリーネ様、お言葉が乱れております。ですが飛ばされた訳ではありません。フェアリーネ様の体調管理をするように申し付けられたのです。他の者たちはその、ちょっと……」
「あぁ、私に近寄るのを嫌がったのね。それでミラベルが?貴方は優秀そうだけど、こんな仕事に納得してたの?」
「私は自分の仕事にいつでも責任を持っております。そんな否定的なことは思っておりません。それにイブリン様から直々に頼まれましたから、フェアリーネ様を宜しくと。それなのに一度は失ってしまい、申し訳無い気持ちでございます」
フェアリーネの死は周りの皆に深いキズを残したのだ。彼女はそれに気づけないほど追い詰められていたのだろうか……髪の色が違うというだけでどこまで追い詰めたのか、貴族ムカつく。
ミラベルから聞き出した話によると、財政はかなり厳しいらしい。そもそも、いくら貴族でも管理地の運営で生活を担うのだから会社経営と同じだ。下手すれば潰れる。経営が困難になれば土地を売ったり私財を手放したりしなければならないが、土地を売ればまた収入も減る。どこかでキッチリ建て直さないといけない。
「借金は?」
「あの、それは……」
「もう言ってよ。今聞いとけばお父様達と話す時に片付けられる問題があるかも知れないじやない」
「はい、あのフェアリーネ様」
「なに?」
「記憶がないのですよね」
「そうね、財政も知らないし」
「立て直す方法はご存知なのですか?」
「知らないわよ。でも探せばなんとかなるかんじゃないかと思ってる」
借金返済の為に出来る事は基本働くということだけだ。だけどそれは仕事があれば、の話だ。後は節約だ。このニ本立てでやるしかない。経験者は語るだ。一発逆転なんて奇跡には期待しない!
「で、なにが切っ掛けで傾いたの?」
「そうですね、インファント様はあまり経営者としては向かないようで」
致命的だな。
「お兄様は?」
「お二人共よく似ていらっしゃいます」
駄目か。
「もしかして、お母様が、」
「イブリン様はとても積極的な方ですが、経営者向きでは無いと思われます」
まさかの全滅。
「今は誰が中心になってやってるの?」
「インファント様です」
「駄目じゃない」
「ですがインファント様が今迄やってこられておりますから」
「それで借金が増えてるんでしょ」
ミラベルはお上品にコホンと咳払いをした。やっぱり駄目だと思ってんだ。とにかく慢性的な原因があるのね。浪費家なのかな?私は部屋を見回した。
「ミラベル、この部屋の調度品て高額なのよね」
「そうでございますね。ですが辺境伯家のお屋敷ともなればこれ位は揃えておかないと矜持が保てないかと」
「このお屋敷は私を閉じ込めておく所だったんでしょ」
「えぇ、まあそうですね」
「誰も来ないわよね」
「ご家族以外は数名の使用人だけですね」
なるほど、無駄に金かけてるな、そういう事ね。
ニ日後、お父様とお母様、それにお兄様までやって来て再び家族会議だ。
「お父様、早速ですが今の経営状態をお話し下さい」
「何を言っているんだい。そんな事を子供のお前が気にする事ないんだよ」
お父様は驚いたが、無表情に顔を固めたままそっとお茶を飲む。貴族の嗜みかよ。
「そうだよ、それより何かやりたい事が決まったのではないのかい?」
ユージーンは私がやりたい事をみつけて呼び出したと思っていたようだ。
「そうですね、やりたい事というか、やらなければならない事は見つかりました」
「それは何ですの?」
イブリンが面白そうな物を見る顔で私を見る。
「借金返済です」
はい、また沈黙の時間です。でも、そうはいかない。
「そうですね、フェアリーネの気持ちは嬉しいけれど、経営に関してはわたくしの実家からの援助もありますから大丈夫ですよ。貴方はやりたい事を探しなさい」
お母様の実家の援助か、それで余裕ぶっこいてるのか。
「お母様のご実家からの援助は有限です。お金が無限に出るお財布でもお持ちなのかしら」
私の指摘に皆黙る。もう我慢出来ない。
「私は借金があるのは我慢できません。せめて返す目処だけでもつけて頂きたい」
「だか、どうするのだい。今我々は領主の命により大々的に森を開拓をするべく奔走しているのだよ。お前の手に負える事ではないのだよ」
ここかぁ!開拓べたの貧乏辺境伯。まわり回ってもう運命だな、やるしかない。
「私もお手伝い致します」
「何を言うんだ、お前には無理だよ」
ユージーンが驚いて言ってるが、お前も出来てないよって言葉は飲み込む。
「いえ、これは家族全員でやるべき事です」
「だが、事業に関わるのなら、学院で資格を取らなければ関われないぞ。フェアリーネは学院には行けないであろ?貴族ばかりのところに通うのだぞ」
へ?いきなり貴族の壁なの。私が髪のせいでイジメられるかと一瞬、躊躇した。
「資格を取るだけなら何度か学院に行くだけで取れますわ」
ミラベルが良い提案をしてくれた。気がきくねぇ!
「どうやるの?私にも出来そう?」
「はい、自主勉強なさって試験だけを受けに学院に行くのです。そこだけは避けれませんが、恐らく三度ほど行けば資格は取れます」
試験さえ通れば出席日数など関係無いらしい。それいいね、私向きだ。
「ではそうします。ミラベル、勉強の手配と学院に手続きをお願いね」
「はい、かしこまりました」
ミラベルが嬉しそうに早速手配に向った。
「待ちなさい。まだ歩く事もままならないお前がそんな大変な事が出来るわけない」
「お兄様は私には無理だと?出来るわけないと仰るのですか?」
「それは、……だから体を回復させる事を優先させるべきだろ?」
「同時進行で出来ます」
私はキッパリ言い切り、雑音を排除する。
「借金は敵です。かならず返しましょう」
「素晴らしいわフェアリーネ。わたくし、あなたに協力を惜しみませんわ」
「ありがとうございますお母様。で?お父様とお兄様は?」
二人は顔を見合せ、コックリ頷いて、
「わかったよ、協力するよ。頑張りなさい」
よし、言質はとった。やるよ、私。家族からの了解をもぎり取って、次の日から私への教育とリハビリが全開で始まった。
ミラベルはとても優秀な先生で、そしてやはりスパルタでした。私は何度も頭がパンクしたがなんとか詰め込み、そしてリハビリに励む。
少し助かったのはマティウスと勉強していた為ある程度頭が学びに慣れていた事だ。脳が若いね、それに内容は思っていたより難しくなく、転生前にやっていた会計処理が基本だった。
ここにはパソコンがないのでウン十年前の手書きの時代のやり方だ。はぁい、大丈夫です。わたくし転生前は自営業の母を手伝いやっておりました。吹けば飛ぶような小さな店舗を借金にまみれタダタダ母とふたりの兄とでコツコツと!
イヤー!またあの日々なの?!でも、落ち着いて私、結局は何とかなっていたのだから今回もきっと大丈夫!のはず。
詰め込み教育が功を奏し私は秋から始まる学院に間に合ったのだ。リハビリも順調に進みある程度日常生活はひとりで出来るようになっていた。




