58 家族と面会
ミラベルは私が食事をしている間にアレコレ連絡をとっていたらしく、側に来ると報告してきた。
「面会の件ですが、皆様お揃いになられらるのは四日後でございます。午後に少しですがお時間が取れるようなので、既に手配致しました。それからこれがフェアリーネ様の体調を考慮した体力回復計画です」
ピラっと一枚の紙にザックリと書かれた計画書だ。
「わりとアッサリしているのね」
私が言うと、ミラベルはニヤッと笑う。
「それは概要だけです。詳しくはわたくしが把握しておりますのでご安心を」
なんか怖い!もしかしてミラベルってスパルタ?嫌な予感しかしない……
それから毎日、薬湯に始まり腕のリハビリ、柔軟体操、足のリハビリと、入浴後にマッサージと、夕食後にはとっても眠くなるくらい体を動かされた。
そのかいあってか四日後には手が肩まで上がるようになり自分で食事がとれるようになった。固形物も食べれるので食事が楽しめる。
「今日は午後に予定通りご家族に面会です。問題ございませんか?」
「はい、大丈夫です。何か気をつける事はありますか?」
「……いえ、是非そのままでお願い致します」
ミラベルは少し躊躇うように返事をした。まだなんかあるの?
定刻に家族三人がやって来た。当然だが全員貴族だ。きらびやかな衣装で現れたこの三人とこれから家族とか無理があるかも。
私はまだ自力で座れないのでベットにいい感じに起こしてもらった状態で迎えた。
お父様は一度会っていたのでニッコリと挨拶し、軽くハグされる。うひゃー、相変わらずイケメン。そしておでこにキスは止めて、恥ずかしいー!
頬が熱くなるのを感じつつ次は兄のユージーンだ。
「フェアリーネ、本当に……生きていたんだね」
ユージーンは涙ぐみ私を抱きしめる。髪をゆっくりと撫で私の顔を見つめる。お父様に負けず劣らずのイケメンで父親似の薄い緑の瞳に濃い青の髪で優しく微笑む。夢見がちで気弱そうな所も似てそう。
私の頬をそっと撫でると立ち上がり、次に待ち構える義母のイブリンに場所を譲ったがその目は心配そうだった。
「フェアリーネ、様。本当に良かったですわ。インファント様もユージーン様も大変ご心配されておりましたよ」
イブリンは少しよそよそしく言葉を選んで話しているようだった。
まぁ、義理だし、そんなに仲良く無かったのかな?ミラベルは公平な良い方だって言ってたけどな。
「ありがとうございます、お母様」
「まぁ……フェアリーネ様。本当に記憶がございませんのね。初めてですわ、母と呼ばれたのは……」
おぅ、やっぱり。なさぬ仲だもんね。
「申し訳ございません。ご不快でしたら、前の呼び方に戻しますわ。私はなんとお呼びしておりました?」
「いいえ!是非、そのままで。わたくしはフェアリーネ様に母と呼ばれたいですわ」
イブリンは目を見張り笑顔で答えた。お父様とユージーンも驚き、そして少し困った顔でお互いを見合っている。
「ではお母様、わたくしも敬称は外して頂きたいです」
私はイブリンに何となく好印象を持ったのでそう伝えた。
「わかりましたわ。フェアリーネ、改めてこれからはわたくしは母として貴方に積極的に関わらせて頂きたいです。宜しいですよね、インファント様。ユージーン様」
イブリンは二人に向って宣言するかのように了承を迫った。気が強そうだね、好きなタイプだよ。
「フェアリーネがそう言うのなら、私は構わないが……」
お父様の戸惑いながらも承諾するのを見てユージーンは焦っているようだ。
「そ、そんなに急いで距離を詰めなくても、フェアリーネはまだ回復していないのですから。そのうち気が変わってしまうかもしれません」
よっぽど仲悪かったのね。良い人っぽいけどなぁ……
「あの、ユージーン様、わたくし多分大丈夫です。もし何かあったらその時にキチンと言いますから」
ユージーンは首を傾げ優しく私を見つめる。
「前のようにお兄様と呼んでくれないのかい?本当に覚えてないのだね……」
そう悲しげに目を潤ます。ふわっ!そんなに憂いを含んだ顔で見つめないで!ドキドキが止まらないよ!
「お、お兄様、だ、大丈夫です。呼びます」
だからそんな顔を近づけないで、ニャ〜!髪を撫でないで!気を失いそうになりながら、何とかユージーンの手を逃れ私は自分の胸を抑える。こんなキラキラ家族、心臓持たないかも……
やっと三人がベットの近くに置かれたテーブルにつきお茶を飲みだした。私はベットから三人を見ていた。
イブリンは夢見心地なディミトロフ父子と違い現実的な美人だった。話し方もしっかりとしており、ハッキリ物を言う人柄に私は安心した。あの父子に挟まれてたら頭の中でずっとお花畑をスキップしそうだよ。
「あの、お父様のお忙しい仕事って何をなさっているのですか?」
「ディミトロフ家は土地の管理が主な仕事なんだよ」
はっはーん、土地持ち!金持ち!贅沢バンザーイ。初めてだよ、金持ち人生!
「そうなのですね、お兄様も?」
「まぁ……そうだよ。だけどフェアリーネはそんな事知らなくもいいんだよ。お前は穏やかに何も心配せず過ごしなさい」
おぉ!夢のような生活が私を待っている!そう思った瞬間、イブリンがサクッと口をはさんできた。
「まぁ、それはいけませんわ。フェアリーネはもう十四才です。これからの身の振り方を考えなくては」
「フェアリーネはずっとここに居れば幸せに過ごせるよ。別に無理してどこにも行かなくて良いんだよ」
ユージーンがすかさずニッコリ笑って私に話す。
「いいえ、ユージーン様。このままここに一生いる訳には行きませんわ」
「わざわざ口さがない者達の前に出る事は無い。ここに居れば私がずっと面倒をみるからね」
笑顔で話してるけど暗雲立ち込めてる様子だ、大丈夫なの?私がお父様を見るとしっとりした顔で二人を見るばかりで何も言わない。駄目旦那か……
ミラベルを見ると目があった。文官は口出し出来る立場では無いし。 仕方無し。
「あぁ、ちょっと目眩が……」
私はひと芝居うって口論を止めさせる。すぐにユージーンが立ち上がり私に近寄ってきた。
「ごめんよ、このような話を聞かせて。フェアリーネは何も心配する事無いんだよ」
「まぁ、お兄様ありがとうございます」
私はニッコリ笑い、イブリンを見る。彼女はあきらめた様な、残念そうな顔で私とユージーンを見ていた。
「でもお兄様、私はお母様の話が聞いてみたいです」
そう言ったとたん、イブリンの顔がパッと明るくなった。ユージーンはショックを受けたのか無言で私をみる。妹が自分に逆らうなんて思ってもみなかったようだ。
「父上」
ユージーンは父にイブリンを止めるように催促する。しかし、インファントは首を横に振る。
「イブリンの話を聞くと言っただけだ。フェアリーネが望むなら止める事は出来ない」
口ではそう言っているがあまり積極的に賛成でも無い。なんだか皆が何かを隠していてそれが邪魔しているようだ。
「あの……なんですか?私は何か外に行っては不都合があるのですか?」
疑問を口にしてみたが全員躊躇して話さない。こんな時は……
「ミラベル、皆が口にしない事ってなんなの?話してくれますか?」
ごめんね、言いづらい事を頼んで。
「……はい。かしこまりました」
「ミラベル余計な事を言わなくてもよい」
ユージーンが止めようとする。
「いいえ、お兄様。私は自分の立場を知りたいです。何が駄目なのか」
「駄目なんかじゃない。お前は私のかわいい妹だよ」
「だったら心配ありませんね、何を聞いてもお兄様は私を可愛がってくれるのでしょう?」
私はユージーンをやんわり抑えミラベルを見た。
「フェアリーネ様にはなんの問題もございません」
キッパリと言い切った。
「そう、だけど……?」
先を促すとミラベルはひと呼吸おいて一気に話した。
「髪のお色が貴族のそれではありません。ですから周りの貴族からは避けられております。大変奇麗な御髪ですが、色が無いというか、白いというかその色は貴族社会では呪われている白だと言われております。ですから旦那様もユージーン様もこの御屋敷からフェアリーネ様をお出しになたがりません」
「……それだけですか?」
私がポツリと返すと全員驚愕した顔でコチラを見た。




