55 研究開始
しばらく森の中を探索していると少し拓けた場所に出た。人工的に伐採された跡があり切り株が点在している。そこで休憩する事になり切り株に腰掛けるとホッとした。
一箇所に落ち着き軽食を取りながら周りを観察すると切り倒された木々が苔むし朽ちていた。開拓が頓挫した感じだ。
「切り拓こうとして諦めたんですかね?」
私が側のテリウスに問いかける。
「そうだな、魔物が出たのではないか?」
視線の先には根っこから引き抜かれた様な倒木が幾つかあり大型の魔物が暴れた跡のように見える。大型ってどれくらい大型なの?怖いんだけど。
私が怯えた顔をしたのか、テリウスは少し笑った。
「心配する必要は無い。マティウス様がいらっしゃるしダリューンもアリステアも凄腕だからな」
「あのお二人ってやっぱり強い方なのですか?」
「それはそうだ、二人共騎士団に席を残す身だ。職を辞すると言ったが騎士団長に命じられ有事の際には騎士団に加わると約束させられておる」
「騎士団にいたのですか?」
「マティウス様の護衛につく為の条件に騎士団と同等の強さを要求されるからな、一度入る方が証明が簡単だったんだ」
ひょえ~、戦う所をほとんど見た事無いけど凄腕騎士様だったんだ。
改めてそんな目で二人を見るとちょっとカッコよく見えるから私って本当に単純だな。なぜかマティウスがムッとした顔をしてアリステアが気まずそうにし、ダリューンはフッと男前の顔をしている。
休憩も終わり、また探索を開始しようと立ち上がり歩き出す。私は一歩踏み出した瞬間に枯れ木に足を取られた。
「うわっ!」
転ぶ!と手を着こうとした瞬間、マティウスがサッと抱き止めてくれた。体をそっと起こされ「気をつけろ。まったく……」とボソッと言われる。
なんだか恥ずかしくて「すみません……」と離れようとした瞬間、枯れ木の間から茶色の小さな丸い頭がフンフンと辺りを探るような動きをしているのが目についた。それは目が退化しているようだったが私の方に顔を向けるといきなり鼻先をビラっと開いた。
「ギャー!!気持ち悪い!」
悲鳴に瞬時に反応したマティウスは私をそのまま横抱きにし後ろ向きに飛び上がった。みんなも同時に飛び退き、アリステアがナイフを投げた先にグズモットが地面に縫い止められていた。
「なんだ、グズモットか」
ダリューンがつまらなそうに腰の剣から手を離す。マティウスは私を抱えたまま命じた。
「一匹だけではないかもしれん。調査の為に五、六頭は確保したい。探せ!」
ダリューンとアリステアは足や剣を使って枯れ木を払ったりして辺りを調べあっと言う間に五頭のグズモットを捕まえた。
私はおろして貰えずマティウスに抱えられたまま待機していた。
「あの……もうおろして下さい。重いでしょうから」
マティウスは思っていたよりずっとガッチリした体つきで、しっかり抱えられ安定の安心感だがさっきからドキドキが止まらない。目の前にはキリッとしたイケメンの顔が迫り熱が出そうだ。
安全が確認されると私はやっとおろしてもらえた。へんにウロウロされるより抱えている方が扱いやすかったらしい。荷物ですか、私は。
そこにはグズモットの巣があったようでよく見ると地面に小さな穴がいくつもあった。
それからも森の中を少し歩きまわったが何も現れずその日は早目に森から出ると少し離れた岩場の影に野営する事となった。
マティウスは捕まえたグズモットを次々と解剖しだした。グズモット自体は気持ち悪いが死んで解剖されていくそれにはわりと平気な私はずっと見ていた。
「相変わらずチグハグな奴だな」
そう言われたが気持ち悪さが違うので仕方ない。
グズモットの胃袋の中身を出すと木ノ実や虫、草や木の皮など雑食らしく色々なものが出てきた。それらを書きとめ資料を作っていく。
五頭のグズモットは成体が三頭、幼体がニ頭で全て平均より小さ目のようだ。個体は小さくなり数は増えているようだった。
マティウスは胃袋の中身を丁寧に分析していく。解剖の気持ち悪さは平気だが胃袋の中身は消化液に塗れて異様な匂いを放っている。
「うわぁ……気持ち悪いですね」
「解剖が平気なやつがこれは不快なのか?君は本当に理解の範疇を超えてくるな」
マティウスは変人を見るような目付きでこちらをチラッと見る。
「だって匂うし、グチャグチャしてるじゃないですか」
「解剖も同じだと思うが?」
匂いの種類が違うのにわかってもらえない。臭いは臭いでもが耐えれる物と耐えれ無い物があるのに。
マティウスはそれぞれ資料を書き上げ比べだし、その中の一枚の紙を抜き出す。
「一概には言えんがこの個体だけ食べている物が違う」
「どれですか?」
私はマティウスの横に座りそれを覗き込む。そこには食べた物の分類がきちんと成されてあり、どの個体が何をどれだけ食べたか記されていた。その中の幼体のひとつに他の個体では見つけられなかった物が含まれているのが分かった。
「これなんですか?」
そこを指差しながら顔を向けるとすぐそばにあるマティウスと目があった。慌てて体を離し視線を資料に戻す。なんか意識し過ぎてしまい、やりにくい。
マティウスは平然とした声で話す。
「ちゃんと調べんとわからんが、恐らくベリハベルの葉だな。裏側が濃い紫色の独特の特徴が見られる」
「ベリハベルって毒なんですか?」
マティウスはその特徴をスラスラと述べていく。
「大人の掌ほどの大きさで表は緑、裏はさっきも言ったように濃い紫。べリハベル自体滅多に見つからぬ木で私も領主の城の研究室に保管されている葉しか見たことが無い。伝聞によると幹は成熟すると白く、枝についている葉はほんのり産毛に覆われており、遠くから見ると光が反射して全体的に薄く光って見えるそうだ」
話し方に優秀さが溢れてますよ。
「そんな珍しい木があの森にあるという事でしょうか?それがどう作用しているのでしょう?」
「べリハベルは別名忍びよる悪意、昔から秘密裏に暗殺する時に使われる猛毒だ。その葉から抽出される毒は遅効性でほぼ無味であり飲まされた者が倒れる頃には仕掛けたものは側にはいない。なかなか捕まらない暗殺の手段の一つだった。だがあまりに防ぎようが無ぐ暗殺が横行し手に負えなくなり、何代か前の領主より一掃せよと下知され根絶やしにされたはずだ」
そんな恐ろしい物がこの世にあるの!?
「それって、この領地独特の物なんでしょうか?」
「そうだな、他では違う名の物があるかもしれんがベリハベルという名のものは無いとされている」
「そんな猛毒をグズモットの幼体が食べても平気なんですか?」
マティウスは顎を触りながら考え始めた。もう相手にしてもらえなさそうなので私はそっとその場を離れた。
テリウスがスープを作っていたので手伝いをし、夕食の準備が整った。マティウスは食べながらも考えているのか何も話さず。食後もひとり離れて資料を見ていた。
「孤独癖ですね」
「その方が考えがまとまりやすいのだろう」
「ダリューン様って騎士団にいた時何をしてたのですか?」
私はふとテリウスの話を思い出し聞いてみる。
「オレか、まぁ目標が第ニ部隊だったから魔物の討伐かな」
「第一部隊は何するところなんですか?」
「領主一族の護衛が主だな。城を守ったり移動に着いて行ったり。退屈そうだろ?」
「へぇ〜、で、第二部隊は魔物討伐専門なんですか?」
「専門ってわけじゃないけど、今はどの領地とも争って無いからな。有事には先駆けで一番目立つとこだ」
ダリューンらしいかも。
「アリステア様は?」
「オレは……第三だな」
「第三って?何するところなんですか?」
アリステアは頭をかきながらちょっと困ったような顔をする。
「諜報だよ」
そんなのあるの?!
「え!凄い。敵陣に潜り込んだりとか?潜入とか?」
「あぁ、まぁ……」
「凄い、賢こそう!」
「そうか?そうなんだよ、頭を使うんだよ」
アリステアはなんだか嬉しそうな顔をしている。普段は諜報とかって人のあら探しだとか、ちゃんと戦力になってんのかなど、ワケのわからない人達に言われて不愉快な思いをするらしい。
「なんだよ、オレが頭悪いみたいじゃないか」
「そんな事無いですよ、ダリューン様はマティウス様の護衛しなきゃいけないじゃないですか」
危ない危ない、またご機嫌損ねそうになったよ。




