54 もう少し
気不味い雰囲気のなか、馬車は走り次の農村に着いた。
マティウスは貴族様仕様の無表情で当たり障りなく指示を出し、村長から軽く挨拶を受け後は頼むと馬車に引っ込んだ。
私はホッとすると、村の人から話を聞いて歩く。みな口を揃えていうのは、干ばつ以来収穫量が増えない。最近魔物が多い気がするってとこだ。
「魔物って何が多いのですか?」
「今はグズモットだね。食料もないし食べちまうけど。畑を荒らされるのが困りもんだよ」
うぇ、やっぱりあれ食べるんだ。
「グズモットって元々食料でしたっけ?」
「いや〜、あんな食べるとこ少ないのは食べて無かったよ。だけど今じゃどこも食料難だから食べるようになっちまったな」
以前は食べてなかったってそれって……
「いつからですか?いつからグズモットを食べ出したんですか?」
「だから、食料が無いからだから、干ばつ以降だよ」
これかも、干ばつ以前と以降の違い。ミトの町でもグズモットが増えてるっていってたし。
私は急いで馬車に引き返した。
「なにか聞けたか??」
マティウスは何事も無かったように迎えてくれ、ダリューンと三人で情報を話合う。
「マティウス様、グズモットかも知れません」
「グズモット?なぜだアレに毒性はないぞ」
「はい、ですが、環境が変わって何らかの変化が起こって、人に害があったのかも知れません。そもそもグズモットは干ばつ前は食べられていませんでした」
「確かにあまり聞かんな」
マティウスは上位貴族だから平民の食べ物なんて知らないだろう。だけどダリューンは割とその辺りに詳しいようだ。何しに街へ行ってるのやら。
「他の農村の情報はどうだったんですか?」
あの男のせいでちゃんと話が聞けて無かったので私には照らし合わせが出来ない。
「フム、確かに干ばつ以来食料難だとは言っていたようだが、何を食べて凌いでいたかは書かれておらん」
肝心なとこなのに、貴族様め!
「いい加減な調べをしているようだな」
ホンマそれ!私では口に出来ないけどね。
「グズモットを調べる必要がありますよね」
「農村近くの森の中に魔物狩りにいきますか?」
私の言葉にダリューンが提案する。それを聞いてマティウスが思案しているようだかダリューンは早速この辺りの魔物の出没具合を聞いて来ると言って出ていった。
「すぐに行きますか?」
マティウスは眉間にシワを寄せ私を見る。えっ、なに?何か余計な事を言った?また左手首の魔術具に触れ話してくれた。
「このまま森に行くには危険が大き過ぎる。かといって君を避難させるには時間がかかり過ぎる」
「大丈夫ですよ、私も連れて行って下さい」
「グズモットだぞ。前は見ただけで泣き叫んでいたではないか」
「確かに、でもアレは大群で……私が捕まえなきゃいけない訳ではないですし」
「それだけでは無い。この南方の森は他にも魔物が多く出没する。炎龍だって本来南方で多く目撃されるのだ」
えっ!炎龍!それは無理。アレは死ぬレベルに怖い。
「で、でも前も何とかマティウス様が追い払ってくれたではないですか。次も……」
「アレは本当に運が良かっただけだ。どの道助かる見込みが無かったからあの様な手段を使ったが上手くいくとは思わなかった。恐らく我々にかまうよりグズモットによっぽど腹でも立てていたんだろう」
大量発生していたグズモットに腹がたったって……よっぽどウザかったのね。でもそもそも何故グズモットは大量発生したのかな?干ばつなら森だって枯れて食料が無かった筈なのに。
マティウスによると動物の中には生命の危機を感じて子を大量に残そうと出産を早めたり回数を増やす種類もいるそうな。グズモットがそうなんだろう。
「とにかく森へ行かねばならん。が、君をどうするか……」
「行きますよ、今更置いて行かれても困ります」
「連れて行った方が困りそうだ。アリアでエマの君は一体何をしでかすか読めん。私はまだ崖っぷちで暴れた君を忘れておらんぞ」
「あはは、その節はお世話になりました」
痛いとこをつかれる。あの時は仕方無かったんですよ、とごまかす。
ダリューンが戻って来たので盗聴防止の魔術具を止める。
「どうだ?」
「最近は先程言っていた通り、グズモットやギルバル、ズーラムくらいで炎龍等の大型魔物は見当たらないそうです」
「そうか、わかった。では明日からは森へ調査に向う。ダリューン、馬を手配出来ないか?マチルダだけでは心許ないかもしれん」
「期待しないで下さいよ。ここは大分マシそうですけど……」
ダリューンは頭をかきながらまた出ていった。
その夜は村長に用意してもらった部屋で皆が休むことが出来た。前の村とは大違いだ。やはり経営手腕と立地など、村の運営って会社と一緒でやり方がマズイと潰れちゃうのね。転生前のウチの会社も要領の悪いやり方して潰れかけてたもんね。
明日も早くに出発だ。ベットに潜り込むと一瞬で意識が無くなった。
……ねぇ、もういい?……
待ってもうすぐだから
……もうひとりは嫌なの……
わかってるよ、すぐだよ。
……分かってない、私はずっとひとりなのに!……
待って、お願い、もう少し待って!
目が覚めると頭が重い。体も違和感がある。小さいエマが出てこようとしてるのかな?
ダルい体を何とか起こして着替え朝食を食べる。幸いマティウスは先に食事を済ませてダリューンとアリステアと打ち合わせしているようだ。テリウスも馬車の用意をしているのかここにはいない。
私はダルさが増す体をなんとか奮い立たし外へ出る。まだ冷たい空気に少しホッとした。
熱があるのかな?あと少しで流行病が抑えられるかもしれない。もうちょっとだけ待ってね、エマ。
そう思った瞬間、目の前の風景がグニャリと歪んだ。
……嫌だ、待てない……
え!待って眠って無いのにエマの声が聞こえる。
……早く出して!……
私は吐き気に襲われ口元を抑えると近くの草むらにヨロヨロと歩いて行きかがみ込むと吐き出した。
……早くだして!……
エマの声が響く。
待って、もう少し、もう少しだから。
私は口を拭い飲み込むようにエマの意識を押し戻す。少しづつ風景が元に戻り何とか体を起こした。
ホントに時間が無いかも。なんとか呼吸を整え馬車へ向った。
すぐに出発だ。昨日言っていたように、借りてきた馬にダリューンが乗り、御者はアリステアだ。テリウスと三人で馬車の中コンコンと言い聞かせられる。
「許可が出るまで馬車から出るな」
「ひとりで離れて行動するな」
「逃げろと言われたら振り返らずに行け」
「余計な事を話すな」
もう、口うるさいお母さんか!
「あぁ、もう!わかりました。って言うかわかってます。ちゃんと聞いてますよ」
何度言っても言い足りないという顔でマティウスとテリウスは私を睨む。
信用ないなぁ、そんなに無茶して無いと思うけど、ねぇ?
しばらく走ると馬車が揺れだし森の中に入ったことがわかった。まだ道らしきものがあるが、もっと奥へ進むと馬車では進めない所になるそうだ。そこからは徒歩だ。まだ歩くと体に違和感が残っているが頑張らないと。
森の中は薄暗くどこかで何やら鳴いている声がするが何かは私にはわからない。足元には枯れ葉や枯れ枝が積もり歩く度にガサガサと音がしている。
魔物探しもともかく森の中の生態系も見る必要があるだろう。グズモットは干ばつのによる飢えで頭数を増やしたのならそれによってさらに森の恵みはひっ迫しただろう。だからこそ農村への異常な出没が起こった。
他の魔物達はどうしたんだろ?増えたグズモットを餌に大型の魔物が増えたんじゃ無いだろうか?
炎龍が苛立つくらい森が騒がしくなっていたのかも知れない。




