51 聞き込み2
偶然かな?干ばつで森から魔物が多く出てきたのと流行病が出だしたのと。
「オジサン、その頃からなんか変わった事無かった?」
「なんだよ、面倒くせーな。もう帰れよ、仕事なんだよ」
男は私にシッシッと手を振る。私はポケットから包を出し男に渡す。
「もうちょっと教えて下さい。これでも食べながら」
「なんだ?」
「アデミンストで流行ってるお菓子です」
私はクッキーを数枚男に渡す。男は珍しい食べ物に目を輝かせパクッと一口で食べた。
「うんまい!もっとくれ!」
私はそれしか無いと言って話をせがんだ。
「しかたねぇな、変わった事ねぇ……」
「はい、なんでも良いんですけど。出入する人の変化とか、入ってくる物とか」
「さぁな、別段変わらんかな。食べる物が少なくなって森に入って魔物を狩る回数が増えたくらいかな」
「魔物狩ってたんですか?」
「あぁ、普段は豚や鶏を飼って食ってたけど餌にするもんが無くなって二、三年飼えなくなってたんだよ。今はやっと半分くらいの頭数飼えてるがな」
男が顎で指した方に柵で仕切られた所に数頭の豚がいた。そうなんだ、魔物を狩ってたんだ。
「どんな魔物が食べられるんですか?」
「まぁ手近なとこでギルバルだな。捕まえる時は大変だが味は上手いよ。後はズーラムとか。どれも町あげて罠を仕掛けて捕まえる。有志を募って討伐隊を結成して大変だったよ。お貴族様なんて魔術でチョイチョイだけど俺達の食料の為に狩ってくれるわけ無いからな」
毛足の長い牛っぽいのとダチョウの様な魔物を主に捕まえるらしい。男は残りのクッキーを食べ終わるともう良いだろと言って仕事に戻った。私は礼を言って宿屋に戻った。道すがらアリステアが合流してくる。
「何渡してたんだ?」
話を聞きたいんじゃなくてクッキーに興味があったらしい。私は少しだけ渡した。ポリポリ食べながら目を見開いていたアリステアが名残惜しそうに私を見てる。
「駄目ですよ、この先まだ使うんですから」
「こんな美味しい物渡さなくても他の物を渡せば良いではないか」
「他って何があるんですか?」
「金があるだろ」
「私は持ってません。あ、アリステア様、クッキー買って下さいよ」
「良いぞ、全部渡せよ」
アリステアはよっぽど気にいったのか、大変いい顔で言う。宿屋について自分の荷物の中のクッキーを取りに行き、その間にアリステアはマティウスに報告に行った。後から部屋に入り私も報告する。
「大体の事は聞いた。其方に任せて収穫ありってことか」
「そうですね。べらべら話してくれましたから」
「仕方ない。平民の相手は任せた。後はゆっくりと休め」
「はい。ではアリステア様、コレを」
私はアリステアに向き直り包を渡した。アリステアは嬉しそうにジャリジャリと鳴る革袋と交換してくれた。
「何を渡したんだ!」
テリウスが凄んできた。イイ勘してるよ。
「クッキーです。買ってくれるっておっしゃったんで」
「フン、クッキーか。私はとっくに食べたからな」
テリウスが勝ち誇ってニヤリと笑う。
「まぁ、味が違いますけど」
私の言葉に驚愕するテリウス。
「味が違うってどういう事だ!」
「ナッツ入とお茶の葉入りです。美味しいですよ」
横でマティウスが無言で頷き、それを見たテリウスが「食べたのですか……」とまたも驚く。
「私にも渡せ」
「すみません、全部アリステア様に売りました」
私はチャリチャリ革袋を鳴らす。アリステアは美味しそうに包から取り出したクッキーを頬張っている。ダリューンがポケットから何か取り出しアリステアに渡す。アリステアは片眉をあげると一枚ずつクッキーを渡した。
「ボッタクリじゃないか?」
「嫌なら良いですよ」
「いや、……いい」
ダリューンがポリポリ食べて眉間にシワを寄せた。一体幾らで売ったんですか?
「エマ、今度は俺が全部買うから早く作れ」
ダリューンはそう言ってアリステアを睨みつけた。
「レシピを教えろ。そういう約束だろ」
横からテリウスが睨んでくる。
「教えたじゃないですか。それに色々入れるだけですよ」
「色々ってなんだ?」
「それは別料金が発生いたします」
いい金蔓が出来たかもしれない。ムフッ。テリウスは苦悩しながら帰ったら払うと言ってレシピを手に入れた。今後共ご贔屓に。
朝目覚めてすぐに身支度を整えると馬房に向かった。今日こそ八脚馬のマチルダと仲良くなるべく足を運ぶ。
宿の馬房には馬丁が忙しそうに何頭かの馬の世話を焼いていたがその中で一際輝くマチルダがひんやり冷たい朝の空気の中キリッと佇んでいた。馬房から出され外に繋がれている。
「おはようマチルダ。もう外に出てるのね」
私は距離をとって話しかける。マチルダは私を一瞥すると白い鼻息をフンと出し素知らぬ顔をした。めっちゃプライド高い。でもそこがカワイイ。
私はカワイイとかキレイだとかどんどん褒め言葉を投げかけた。この子絶対に言葉がわかってるはずだ。確信していた私の思いは通じたのかマチルダはだんだん満更でもない感じを醸し出してきた。行けるかも!
「ねぇねぇ触らせてくれる?」
私はキュンとする気持ちを抑えつつ一歩近づく。マチルダはブルッと鼻を鳴らしたが抵抗は無いように見えた。そのままそっと近くにより艷やかな首元に触れる。
「うわ……温かい、すべすべ」
うっとりとする程の手触りに昨日のマティウスの満足気な顔を思い出す。そりゃそんな顔になるよ。私はずっとすべすべと撫でていた。
「何をしている。早く朝食をすませろ。まったくこんなとこで」
またもやテリウスに邪魔される。大人しく触らせてくれていたマチルダまでテリウスを見た瞬間にムッとして鼻息を荒くした。あれは嫌われてるね。マチルダにまたねと声をかけ食事に向かった。早く農村に行かなきゃ。
ミトという町から馬車でニ日ほど行った所の農村に到着した。
いよいよ農村の調査だがそこはリーナの村より少し小さい村で村長が迎え出てきた。
「あ、あの、突然のご来訪の用向きはなんでございましょうか?」
ビクビクとしながら年老いた男が顔色を無くしている。マティウスは最初から話す気は無いらしくテリウスと村を見て周っている。話すのはダリューンだ。
「流行病の為の見回りだ。変わり無いか?」
「はい。変わりございません」
「食料の不足など無いか?」
「いえ、ございません」
「……そうか。もうよいぞ」
一応、食料事情を聞いてみたかったようだが無理だったようだ。選手交代だ。
ダリューンがマティウスを追いかけて行ったのを見計らって私は村長に話しかけた。
「村長さん、大丈夫ですか?ちょっと座ったほうが……」
「あぁ娘さんありがとよ。慣れないことはするもんじゃないね」
「慣れない事?村長さんなのに?」
村長はゆっくりと座るとふぅ~と息を吐く。
「ワシは元々村長なんて柄じゃなくてな。仕方なくやっとるんじゃ」
「なぜですか?」
「前の村長は代替わりした若い村長だったんだが、四年前に魔物狩りに出た時に殺られてしまってな」
「えぇ!亡くなったんですか?」
「あぁ、それで誰かが後を引き継がなきゃいけなくなって、だけど誰もやりたがらなくてな」
村長になれば村の仕切りの他、貴族様に、収穫の報告、それに加え土地の代金を払いにいったり、魔物が出たときの対処のお願いと割と貴族と関わる事が多い。一番年長だという理由で押し付けられたらしい。
こんな年寄りにさせるくらいならこの土地自体あまり実のある所では無いのかも知れない。
「収穫良くないんですか?」
「あぁ、干ばつの後からまだ回復してない。若い奴はもっとマシな土地に出て行ったよ。ここもすぐダメになるかもな」
村長はのっそりと歩き出した。うぅ~ん、かなり大変そうだ。
私は村の中を歩き人々を見て回ったが子供は殆どいない。年寄と女性ばかりが目立ち若い男手は出稼ぎに行ってようだ。そんなに農村として成立たないなら土地の持ち主の貴族様にテコ入れしてもらえないのだろうか。自分達の収入にだって関わるのに。
少し歩くと家の前に座り込んで地面に何か書きながらひとりで遊んでいる女の子がいたので声をかけた。
「こんにちは、何してるの?」
「……お姉ちゃんだれ?」
痩せて元気が無い。この子だけじゃ無い、この村の人は全体的に栄養が足りてない感じだ。魔物を狩るにも人手が足りないのだろう。
「エマっていうのよ。ちょっとお話してもいい?」
「うん」
その子は俯いたまま返事をした。
「最近ちゃんとご飯食べてる?」
「ううん、お腹へってる。お姉ちゃん何か持ってない?」
「あー、今はないから後で持って来るね」
「ホント?母さんの分も貰える?」
急に顔をあげ私を見る。
「もちろん、だからちょっと教えてくれる?」
「うん!」
女の子はルーと言って五才だった。数年前に父親は亡くなって母親とニ人。農村にいる事でなんとか暮らせているようで、そこは共同体の良いところだろう。だが収穫が上がらず苦労しているようだ。
「昨日何食べたの?」
「昨日は、お野菜のスープだけ。たまに魔物のお肉出るけど少しだけなの」
「何のお肉?」
「グズモットだよ」
背筋がぞわりとする。……アレか。私は身震いしそうなのを我慢する。
「そうなんだ、いつもなの?」
「そうだよ。たまに畑に出るから」
狩りに行かなくても捕れる魔物は限られてる。それで何とか食つないでいるのだろう。
「ありがとう、待っててね。何か持って来るね」
嬉しそうに手をふるルーに食べ物を持って来る為に馬車に急いだ。
馬車には調査旅行の為に積んである食料がある。私はそれを少し分けてもらう事にした。クッキーが残って入れば良かったけどもうアリステアの胃袋にとっくに収まっている。
私はテリウスに嫌な顔をされたがレシピ代から引いてくれていいからと材料を手に入れポテトサラダを作る事にした。あまり余裕のある旅でも無いのでそんなに色々使うわけにいかない。芋とベーコンと卵ならいいだろ。
芋を蒸していると案の定テリウスが近づいて来た。
「ただで見ないで下さいね」
「……何を作るんだ」
「ポテトサラダです」
「また私の知らぬ物ではないか!」
苦悩するテリウスが最近カワイイ。が、甘やかさない。
「どうします?早く決めて下さいね」
「……レシピを売ってくれ……」
毎度あり!私は正直マヨネーズを作る為に男手が欲しかったので助かったがその事は口が裂けても言わない。
無事に出来上がったポテトサラダを持ってルーの所に行く。ルーは家から飛び出して来て受け取るとパクッと食べた。
「何これ美味しい!」
マヨネーズに間違はない。満足気なルーに別れを告げ馬車へ帰った。
勿論その日の夕食にポテトサラダが出た。




