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転生者にも事情がある  作者: 蜜柑缶


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45   マティウスの事情4

 後からラッセルが閉じ込めるのは可哀想だから自分に任せて欲しいと願い出てきたのでそうする事にした。ダリューンが会った感触ではちょっと気になるとの事だったのでアリステアに密かに見張らせる事にする。


 上位貴族で伯爵という地位は敵も多い。他領、自領に関わらずテンプルウッド家の内情を探ろうと貴族、平民問わず警戒が必要だ。

 まして、今は新月魔草の栽培という重要な責務が進行中だ。用心に越したことは無いだろう。


 数日がたった頃、新たな流行病が発生したと聞き、私は急ぎ馬車を走らせた。到着した時は既に火が放たれた後で正に燃えさかっている最中であった。領主に焼き払うのは待ってもらうよう要請していたにも関わらず頭の悪い奴らにかかるとこの醜態だ。


 私は氷の魔術を使い、いくつかの建物を消化したが平民の家は木造であっという間に炭化しており何も見つける事が出来なかった。今回も生き残りは無く、徒労に終わった。新月魔草の進捗状況も悪く、思い切ってやり方を変える必要があるかも知れぬとラッセルから報告があった。

 そんな時、ラッセルからの報告でエマが新月魔草の廃棄された苗を部屋に持ち帰ったようだとわかった。エマの事は失念していたがやはり探りを入れようとして動き出したか。


 しばらくは泳がすように告げ、一層目を光らすように命じた。特に何の動きもないままであったが、アリステアの報告によるとエマは異質で不思議な感じがする少女であった。

 ラッセルに本を貸してくれと願い出て、とても孤児院育ちには理解出来ない内容のものを単語の意味が分からないという程度の事以外は問題なく読み進めること。アリアと遊ぶ内容が誰も知らない遊びで、仕事をさせる誘導の仕方も上手く教え方も理に適っている事。

 そして、時折歌う事がありその歌は誰も知らない物である事だ。一緒に行動しているアリアにも簡単な歌を教えていてそれは子供らしい物のようだか、一人でコッソリ歌う時は全く雰囲気の違う物と変えているようだ。

 アリステアが複雑な顔で報告してくる内容によると、ある物は大変美しい歌詞と旋律でまたある物は旋律は美しかったり、変わっているが興味を惹かれるその歌詞が問題だと言う。

 貴族の子女であれば口に出すのも憚れる内容で聞いているアリステアも頭を抱えるほどらしい。

 感情的で直接的、仕事として聞いているが、もし女性が二人きりで歌ってきたらかなりグッと来るものがあるらしい。一体どのような教育を受ければ十二才の少女がそんな事になるのか……平民では普通の事なのであろうか?


 ともかくエマを見張らせること数日、ある夜アリステアから動きがあるとの報告が来た。アリステアはアリアの隣の部屋で様子を伺っていたが部屋から出た気配があったので窓から飛び降りこちらに先回りしてきた。

 我々は新月魔草を栽培している場所に密かに待機し、エマが来るのを待った。程なくエマの姿があらわれた。本人は見つからない様にコソコソしているつもりなのかそっと歩く姿が間抜けに見える。所詮子供だな。


「そこで何をしている!」


 ダリューンの声に驚き、アリステアに手を捕まれエマは動揺していたがその手には信じられない物が握られていた。

 新月魔草が育っていたその小さなコップを彼女はコップ研究室と呼び開き直るとジョルジュ一家を追い出さないならやり方を教えても良いと言い出した。

 なぜエマがそんな事を言い出すのかわからなかったが了承する。するとアリステアに自身の救命を申し出なくて良いのか?と言われ慌てて自分も助けてくれと言い出した。私は間抜けなその姿に思わず失笑してしまう。

 面白そうな奴がまた現れたと思った。なぜだか以前のアリアとのやり取りを思い出した。






 それからは遅々として進まなかった栽培はエマによる水耕栽培システムというやり方を取り入れ紆余曲折ながら順調に進んできた。

 エマが変な奴であるのは皆に浸透しつつあったが、本人は自覚が無いようで警戒心の無さは誰かから何かを指示されて来たのではないであろうと思われた。


 エマには薬剤師になるべく教育を施していった。読み書きに加え計算能力も高く上手く行けばこの先十分役に立つ文官のような役目を担えるだろう。

 近頃はテリウスがエマの動向を気にし始め、平民に嫌悪感の強かった頃に比べると対応の仕方もかなり変わった。この前はエマがテリウスの知らない料理を知っていると騒ぎ立て自ら準備をすると平民用の厨房にわざわざ同行し、レシピを手に入れ出来上がりを食していた。

 パンケーキと呼ばれたそれはふわふわと甘くて初めての食感と味であった。ダリューンは私が美味しそうにそれを食べていたのを見て自分の分も取りにいっていた。

 その後もテリウスはニ、三の新しいレシピを手に入れ、それは密かに私の楽しみでもあった。普段は生きる上で最低限食せば良いと思っていたが食べる楽しみが増えたのだ。


 ジョルジュ一家が出て行ってからはエマには殆どの時間を勉強に当てさせていたが、彼女は優秀で予定よりずっと早く進んだ。

 ある日予定にはなかったが別館に行ってしまう前に、流行病で焼き払われていない村を調べる事になった。エマも連れて行く方が良いだろう。何をしでかすか分からない所はあるものの正体不明な知識が何かの役に立つかもしれん。


 明日、出発する事になった。

 

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