40 お勉強と唐揚げ
いずれ移動すると言われ、別館へ行くらしいがそれはどこにあるのかな?
休憩が終わりまたお勉強タイムに入ったがボンヤリその事を考えていた。アデミンストを出るってことよね。水耕栽培システムの拡大なら私に出来る仕事はもう無いって言われたけど、私は何をするんだろう?事務職的な事とか計算は散々させられてるけど本格的な事じゃないし。
「ボンヤリするな。今度はこの本を読んでおけ」
私はまた新しい薬草の本を渡される。前のは薬草の種類が中心に載っていたが、今度のは薬草の組み合わせと効果の違い等の本だ。基本的に読み物は嫌いでは無い。ここには娯楽は無いし、話し相手もジョルジュ一家が出てしまっては殆どいない。だから本を与えられるのはかなり嬉しいが、難しい本なので読むのは大変だ。解説や助言がほしい。
「マティウス様、なぜこんなに難しい本を読まなくてはいけないのですか?」
「薬剤師になる為だ」
「誰がですか?」
「其方だ」
当たり前の様に答える。
「私がですか?!」
「そうだが、なぜそんな事を聞く?」
「き、き、聞いてませんよ、いや、そうじゃなくて。なぜ私が薬剤師になるんですか?」
ぷちパニックになりながらアワアワと聞く。
「新月魔草の栽培に貢献した其方にはこれからも各種薬草の栽培に着手するにあたって必要だと思ったからだ」
「栽培に詳しいのはラッセルさんたちの方だと思います。水耕栽培システムが成功しているのはたまたまです。これ以上は何も出ませんよ」
「別にそれだけでは無い。今はとりあえず薬剤師としての知識を夏までにはつけろ」
「夏ですか?」
マティウスの言葉に今は下火になっている流行病疑いの病気の事が頭に浮かぶ。寒い季節は何故だが収まり、また暖かくなってくれば増える予測だ。新月魔草はとりあえず少し用意出来そうだが根本的に解決出来ている訳ではない。
「調べは進んでいるのですか?」
「いや、殆ど進展はしていない。なにぶん現場の調べが出来ていないのでな」
流行り病の出た村は今は焼き払われていて調べようが無いので領主様に次の流行り病発生時には火をかけるのは少し待ってくれるように要望を出してはいるが、次にどこに出るかは不明だから待つしかない。
「最初の方の村は残ってないのですか?」
「焼き払われ始める前の村か……確かに行ってみる価値はあるかもしれんな」
マティウスは顎に手をやると黙って考えだした。マティウスが関わり出してからは村が焼き払われていた為、それ以前の事には気が回らなかったらしい。
領主命令とはいえ、平民の為に村を周り治療したがほとんど助かる人は無く。精神的にも肉体的にもかなり追い詰められていたようだ。私の時もかなり疲れてたもんね。あの時の光景を思い出し胸がキュっとする。
「ここから遠いのでしょうか?」
「馬車で2日ほどの所にも出たはずだ、まだ初期の頃に」
「そこ、見れないですか?何かあるかも」
私は自分の住んでいた町とリーナの村しか知らない。リーナの村はボンヤリしか覚えておらず今は焼跡だけだ。他の村も見てみたい。
「フム、考えてみよう」
マティウスはそう言って、仕事に戻った。私も与えられた本をまた読み始めた。だから難しいって。
昼休憩になり本を閉じると私は「失礼します」と立ち上がり昼食を取る為に部屋を出ようとした。
「今から作るのか?ひとりか?」
ダリューンに声をかけられた。彼は賑やかなのが好きなので気を使って言ってくれたようだ。
「ひとりですけど、昨日の残りがあるので、それで済ませます」
「あぁ、昨夜の送別会とやらの……」
アリステアが何故か昨日の事を知ってる風だ。話したっけ?
「パンケーキを作ったのか?」
テリウスがピクっとし、聞いてくる。
「えぇ、まぁ……」
私は嫌な予感がし、曖昧に答える。
「何か他にも作ったのか?」
「そんな怖い顔しないで下さい。唐揚げだけですよ」
逃げ切れない事を悟った私はあっさりゲロる。
「なんだ?唐揚げ?どこにあるそれは!」
「テーブルの上に……」
聞くなりテリウスはツカツカと部屋を出て行った。私の昼ご飯なんですけど。
しばらくするとテリウスは戻って来て何故自分に言わずに何も唐揚げを作ったのかと詰め寄ってきた。手には冷えた唐揚げが入った皿を持っていたが数が減っていた。
「落ち着いて下さい。すぐに出来ます、簡単ですから」
私が一歩引いて後ろに下がるとマティウスに当たった。驚いて振り返りあやまる。
「わ、申し訳ありません。あの?なんですか?」
マティウスは私の肩にそっと手を置く。
「すぐに出来るんだな?」
そのまま私を厨房へ送り出した。はい、わかりましたよ、作りますよ。
勿論、テリウスがメモを手について来て、そこからストップがかかるまで私は唐揚げを揚げ続けた。みんなめっちゃ食べる、揚げ油で気持ち悪くなったよ。
午後からはひとりで勉強する事になった。唐揚げで満足したマティウスは用があるらしい。私はアリステアと勉強部屋に二人でいた。
「アリステア様はマティウス様の護衛なんでしょ?ついている時といない時とあるのは何故なんですか?大体ダリューン様がついて行ってますよね」
「基本的にダリューンがついている。彼はマティウス様が10才の頃から7、8年ついていて、私はまだ4年目だ。テリウスも私と変わらん」
「年功序列って事ですか?」
「まぁ役割分担だからな、私は基本的に機動力を活かせることを担当する場合が多い」
オルガの事もアリステアが探してくれたしね。
「貴族様には護衛が付きものなんですね」
「別にそうではない。まぁ、上位貴族は大体ついているがマティウス様には当主から強制的につけられた」
「大事にされてるんですね」
「だがマティウス様は嫌がってな、初めは大変だったらしい」
ダリューンが護衛を始めた頃は見失ってばかりで大変だったらしい。マティウスは色々な事に興味があり色々な方法で抜け出し色々な事をしでかしたらしい。結構やんちゃだったのね。
それが医術に興味を持ち出した頃から少しだけ落ち着いたのでその方面の物を与えるようになりどんどんのめり込んだ様だ。
そこからは勝手に師事する人を探し出し勝手に弟子入りしどんどん跡取りとしての勉強は疎かになっていったようだ。
なので今現在、当主とマティウスは不仲で何をしているかはお互い知らないことが多いらしい。結構落ち着いてる10代だと思っていたが普通に反抗期が長引いているようだ。優秀なだけにこじらせているのかも。
「お前が来てから少しだけ元気になったが、いや、アリアと出会ってからか」
「そうなんですね。前はよく話してたって聞きました」
私はちょっと顔が引きつりそうになり頬を押える。
「ああ、だがアリアは記憶が無くなってマティウス様に近寄らなくなった。それに今は……」
アリステアが私を黙ってジッと見る。
「なんですか?」
「いや、何でもない」
こういう展開は心臓に悪いが前から気になってる事をこの際聞いておこう。
「あの、もし、もしですよ」
「なんだ?」
「アリアの記憶が無くなったように、私の記憶も無くなれば私はどうなるのでしょうか?」
「どうなるとは?」
「アリアには帰る場所がありましたが、私にはありません」
「なるほど、確かに。どうであろうな、そもそも間違いで来たのだろう。戻されるのではないか?未成年だから誰か引き取ってくれれば良いが孤児で手に職がないお前じゃ、その、あまりいい展開にはなりそうにないがな」
まさか娼館にでも売られるのだろうか?それなら小さいエマはまた生きるのがいやになるだろう。
「そんな事聞いても仕方あるまい、記憶が無くなるなんて滅多に起こる事じゃない」
「でも私も記憶を無くしてます」
「一部だし、炎龍の事だけであろう?」
「ええ、そうですね。ハハ……」
大丈夫なんだろうか?このままで。入れ替わるきっかけは多分死ぬほどのショックってとこだろうか?そんな事滅多にないことないと言いつつすでに三回目だ。もし今入替ればエマが売られるなら変わらないほうが良いだろう。




