39 送別会
歳送りも過ぎいよいよ明日はジョルジュ一家のお引越しだ。私はフワフワパンケーキと鶏の唐揚げを用意し送別会の準備を整えた。
ジョルジュ、ラルク、アリア、そしてラッセルとガビーまでいる。
まぁ、いいか。どうやらこの前の餃子がとっても美味しかったとラルクから聞いたらしく、また美味しい物が出るのではと期待しての参加らしい。
「これ何?カリッとしてジュワっとして、美味しい!」
から揚げをアリアがとっても美味しそうに食べくれる。油で揚げる料理はここには無いらしい。油高いもんね。
他の人も次々と唐揚げに群がり私は揚げては出し、揚げては出しと大変忙しかった。今夜のメニューはテリウスには内緒にしといて良かったよ。貴族に乱入されたら送別会どころじゃなくなりそうだもんね。
食後のフワフワパンケーキも大好評でふんわり甘いスイーツはみんなを幸せにして、楽しい時間はあっという間に過ぎた。
「エマが変わった料理を作れるなんて知らなかったよ。美味しかった」
ラルクが満足げにお腹をさすりながら言う。
「今までは材料が無かったからね。小麦粉も砂糖も油も高価だから、ご褒美におねだりしたんだよ」
「おねだりって凄いね……エマ」
アリアが恐ろしげに言う。貴族に何かを頼むとかありえないって顔だ。それを聞いて無言で食べていたガビーがポロリとこぼす。
「だが、本来なら新月魔草の栽培に成功したエマはもっと褒美を貰えるはずだからな」
ラッセルも頷く。ニ人は元々テンプルウッド家に雇われているものの今回の事で手当の割増は貰っているらしい。ジョルジュ一家も住まいと当座の生活費、引っ越しの準備金などかなり優遇されているそうだ。
私は勉強させられて、本読まされて、計算機にされているのに、なぜ食料品だけなの?と初めて気付いた。みんな早くに気付いてたけど言えなかったらしい。
「きっと今後待遇が変わるはずだよ。マティウス様には何か考えがあるようだから」
「そうでしょうか?ラッセルさんはここに仕えて長いって言ってましたけど、他の貴族とは違うのですか?」
「そりゃ違うよ。本来なら話も出来ない方なのにお小さい頃から色々な事に興味をお持ちでな、植物の事を知りたいとわざわざワシに尋ねにいらして驚いたもんだよ」
へえ~、それで今回もラッセルに頼んだんだね。
「だからここに囲ったり、勉強させたり、本来なら大変な事なんだよ」
囲ったりって……ちょっと人聞きの悪いんですけど、まぁ、流すとして、
「エマはここから出られないの?」
アリアが心配そうに言う。時間はかかっても自分と同じようにそのうち街に住むのだと思っていたようだ。
どうなるのかな、実際問題私はここから出られないかも知れない。保護すると言われたし、少なくとも貴族の目を逃れ普通に暮らすのは本当に用済みなってからだとすると、下手すればその時点で殺される可能性も無くはない。
元はなんの後ろ盾もお金も無いただの孤児だ。それが新月魔草の栽培なんて深く関わり過ぎだ。ジョルジュ一家はそのまま仕える形になるから利害関係が成り立って大丈夫だろうけど。
「マティウス様はお優しいから心配しなくても大丈夫だよ」
ラッセルが私の考えを見越したかのように話し、ガビーも頷く。
「確かに、マティウス様は他の貴族とは大分違うな。変わっておられるし、そもそも伯爵家の跡取りがこんな薬草の栽培に自ら指導するのもおかしな話だ」
そうなんだ。マティウスは医術師だからやっているのだと思っていたけど、本来なら薬草作りや菜園など、平民の仕事だ。
だけど、栽培方法が不明で新月魔草が高価で希少だった為、自ら手を下す事にしたらしい。
夜もふけて送別会は終わり、後は明日の朝ジョルジュ一家を見送るだけだ。アリアが後片付けを一緒にすると言ってくれ並んで洗い物をする。
「エマはここに一人で住むの?」
「さぁ、何も聞いてないから」
「寂しくない?」
「寂しいよ。ずっとアリアが一緒に居てくれたのに、明日からは一人だもんね」
「ラッセルさんとは一緒じゃないの?」
「まぁ、仕事で顔を会わせる事はあるでしょうね」
アリアは何とか私が一人にならないように考えてくれてるようだ。
「大丈夫だよ。寂しくなったら、アリアの顔見に行くから」
「出て来れる?誰かついて来てくれるのかな?」
「ガビーさんに頼む事になっても会いに行くよ」
「ガビーさんに?あの人顔怖いよ」
「最近は結構慣れて怖くないんだよ」
二人でふふっと笑い何だかんだと話ながら片付けは終わり、おやすみなさいと言って部屋に帰った。
……ねぇ、そこにいる?……
あら、久しぶりエマ、元気?どうしたの。
……うん、楽しそうな声が聞こえて来て……
楽しかったからね。
……なにが?……
友達がちょっと離れて暮らす事になったのよ。
……それが楽しいの?……
また会えるって約束したからね。
……寂しくないの?……
寂しいよ。でも、色々あるのが生きるって事だからね。
……生きる事……
目が覚めてから小さいエマのことを考えた。怖がって外に出て来ないけど、怖くなくなったら出て来れるって事かな。
そうなったらまた私はどこかに飛んでいくのかな?この体にエマが戻って来たらマティウスはどうするだろう。何も知らない孤児は追い出されるのかな。それとも……
ジョルジュ一家としばしのお別れだ。泣くほど遠い所へ行くわけでも二度と会えないわけでも無いので涙は無く。アリアとハグして笑顔で爽やかに別れた。またね〜。
今日から仕事が始まる。四日会っていなかっただけだが、久しぶりな感じがする。
教室に入ると既にマティウスが座って仕事を始めていた。私は慌てて椅子に座り計算を始めた。しばらく淡々と仕事をし、休憩となった。
マティウスはお茶を飲みながらも新月魔草の栽培拡大の計画書類に目を通していた。
「マティウス様、ちょっと良いですか?」
「なんだ?」
書類から目を話さずマティウスは返事をする。
「私はいつまでここにいるのですか?」
「もう少ししたら、住いは移動する」
「えっと、そうでは無くて。私はいつまでこの状態でマティウス様の側にいるのでしょうか?」
マティウスがえっ?って顔でこちらを見る。私はそんなに変な事を聞いたつもりは無く、逆にえ?と首を傾げる。
「エマ、気が早いな。お前はまだ未成年で教育が必要だ。成人まではマティウス様との関係はこのままだぞ、恐らく」
ダリューンが横から口を挟む。私はなんの事か分からずまた、え?となる。
「ダリューン様、気が早いってどういう事ですか?私はもう十三才です。普通ならそろそろ見習い終了の時期です。今後の仕事がどうなるのかが知りたいのですが?」
保護すると言われたが勉強してばかりだ、薬草の本読んだり、計算機になったり。
「あぁ、仕事のことか」
マティウスがホッとしたような顔をして、ダリューンをグッと睨み余計な事を言うなと釘をさし、ダリューンは申し訳ございませんとニヤリとした。なにか言い方が悪かったのかな?
「エマにはまだ聞きたいことがある。もう少ししたらここを引き払い私の所有する別館へ移る。ここではこれ以上大々的に広げる事が出来ないからな」
「新月魔草は順調に成長してますけど?」
この教室に来るのに秘密基地を通るがあれからまた新芽が出た物も増えてるし、そこから成長している物もあり、最近はプランターをみるのが楽しい。
「そうだが、ここだけではやはり手狭だからな。それに別館の方が父の目が届きにくいので私もやりやすい」
「えっと……当主様にはお知らせしないで進めるのですか?」
「まだ時期では無い。ここで秘密裏に動くのも限界だから移動する」
そんなものなの?私には貴族の親子関係はわからないし、そもそも貴族の事が良く分からない。とにかく私も引っ越しか、アリアに会いに行くよって言ったのになぁ。
「ではそこで私は仕事を持てるのですね?」
「そうだ。詳細はその時にする」
「わかりました」
とにかく私も引っ越しか。




