38 料理男子
もうすぐ歳送り、つまり年末年始だ。年末を挟んで4日間は仕事を休むのが慣例らしく、ジョルジュ達は年明け3日目に引っ越す予定なので最近は新しい家の準備に忙しい。
私は送別のパンケーキを作る為、せっせと計算機として頑張っていた。
「この後、例の材料を渡す」
マティウスの言葉によしっ!とコブシを握る。早目に貰って一度試して本番に挑みたかったので助かった。
「ありがとうございます。良かったです、早めに頂けて」
「礼はテリウスに言うのだな。道具作りに苦労しておったぞ」
なんとテリウスが尽力してくれたらしい。
「カーン様、ありがとうございます、嬉しいです」
「ふん、其方の為ではない。ぱんけーきとやらの作り方を教えろ」
おぅ、レシピ目当てでしたか。まぁいいですよ。
「わかりました。後で試すつもりですのでその時にはどうぞご覧になって下さい」
テリウスがいつもの無表情を少しだけ崩して唇の端をクッと上げるのを私は見た。ホントに料理好きなのね。
いつもの時間に勉強と仕事を終え私は材料を受け取ろうとした。
「では、材料をください」
「持ってやる。重いのでな、お前には無理だろ」
は?と思いアリステアが材料を部屋に持ち込むのを見た。
「なんですかそれ?!」
そこには完全に業者用の大袋を抱えたアリステアがいた。
「小麦粉はどこへ運ぶ?」
いやいやいや、どれだけ作らす気ですか。10キロはあろう小麦粉をとりあえず厨房へ運んでもらいその後砂糖は1キロほど、ハチミツも小さな瓶に1個用意してあった。思っていたより多いご褒美ちょっとビックリした。
厨房に立つと準備を始めた。生クリームは後で泡立てるとして、材料の計量は卵を1個50グラムと考えてそれを基準に目分量で量るとしよう。
「それは何をしている?」
私が計量の後、メレンゲを作り出すとテリウスは興味深く聞いてくる。
「これはパンケーキをフワフワにする為の泡立てです。この為に泡立て器を作って頂きました」
私は必死で卵白を泡立てる。ハンドミキサーが無いのでなかなか泡立てる事が出来ず、苦労しているとテリウスがもどかしそうにイライラとする。
「いつまでかかってる、貸せ!私がやる!」
それを奪い取り見様見真似で泡立て始めた。さすが料理男子の力、あっとゆう間にメレンゲが出来た。
続けて砂糖、卵黄、小麦粉、と混ぜながら生地をつくり、いよいよフライパンで焼く事に。
とにかく火加減を弱火にし、バターを入れてとかし、生地をすくって入れ、ちょっとこんもりするように追加で乗せた。
ジックリ焼いていくと思ったより上手く膨らみフワフワパンケーキの出来上がりだ、良かった。
出来上がりをお皿に乗せ、泡立てた生クリームを添えテリウスに差し出す。
「はい、カーン様。フワフワパンケーキのお味見どうぞ。お好みでハチミツをかけてもいいですよ」
私が渡すと横から静かに見ていたアリステアが攫っていった。
「あ!何をするアリステア、私のだぞ!」
「オレもカーンだからな」
辺りにはいい匂いが充満しており、アリステアは虎視眈々と狙っていたようだ。テリウスは食べたくて仕方が無い様子で、あっという間にパンケーキにガブリついたアリステアを睨みつけていた。
「なんだこれは……フワフワで、甘くて口の中でホロリとして……旨い」
アリステアは甘党だったんですね。良かったです、成功ですね。
私は揉める二人をほっといてニ個目を焼き出す。フライパンは小さめだし、火加減も難しいので一つづつ焼き、ふんわりニ個目が出来る頃ダリューンが顔を出した。
「いい匂いだな。マティウス様に持って行くから渡せ」
ダリューンは問答無用で次の一皿を持って行く。マティウスの名を出されては勝てないテリウスは三個目のパンケーキを待つ。
私はすぐに三個目を焼き始めたが出来上がる頃、ダリューンがまた来てマティウス様がもう一つ食べたいと言ったといって三個目も持って行った。
その時のテリウスの気持ちを誰か察してあげてください。残りの生地は一個分だ。早く焼いてくれと半泣きのテリウス。待ってね、すぐだから。
やっとパンケーキを手にしたテリウスの嬉しそうな顔、初めて見たテリウスの笑顔は美味しい物を食べて幸せ一杯でした。良かったね。
ちなみに三個目はダリューンが食べていたのは言うまでもなく。みんなが甘味で幸せ一杯でした。私のは無いけどね。
歳送りの前日、今日から四日間は仕事休みになる。いつものお勉強も休みだが、かと言って私には何もする事も無く、軽く掃除するとボンヤリしていた。
最近は毎日教室に通っていたので多少この世界の事をわかりつつある。私がいた世界より動きが遅いのは単純に情報伝達の遅さもあるが、貴族様が貴族の事しか考えられて無いという仕組みの問題のようだ。
貴族は、自分達が領地を守っているから平民は生きていけるんだと思い、その命令には全力で従うべきだと思っているそれが基本だ。その中でマティウスはまだ新しい考えをしているようだ。
流行り病の調査にアリアを連れて行ったのも異例なことだったが、それにより新月魔草にたどり着き、そこでまたオルガに研究の一部を任せ、ジョルジュ達に栽培の方法を探らせ、孤児院から来た私がそれを達成さた。この成功に関わった貴族は基本マティウスだけだ。
マティウスはまだこの事を当主である父親にも、領主にも知らせていないらしい。つまり完全に秘密裏に進められているがそれも限界に来ている。
初めは庭師のラッセル、ガビーの2人だけを関わらせていたが次第に大工や商人も必要になった。今後は活動が平民中心になると言った私の言葉を聞いてより考えを軌道修正して行ったようだ。
上位貴族のマティウスは平民が絡んだ事業など行なった事はないようだ。平民絡みは下位貴族の仕事という認識があるからだ。初めて絡んだ平民が私で、ある意味無礼さも子供だからで済ませる事が出来、それは良かったのかも。私は礼儀とかそもそも身に付いて無いし、これから学ばせるとか言われてるけど憂鬱でしかない。
ボンヤリ体制に飽きてきたので厨房に行くと小麦粉を出して来て餃子の皮を作る事にした。まだ昼過ぎだし、今からやれば夕飯には間に合うだろう。
子供が小さい時はよくみんなで包んだもんだ。最近は思い出す事も減ってしまった。なんだか子供達の顔も少しボヤけて来ている。転生ってこういう事なのかな。ちょっと寂しいよ。
皮を伸ばしながら歌を口ずさむ。この癖だけは変わらない、歌もそのうち忘れてしまうのかな?今度書き留めておこうかな?そんな事を考えながら一人コロコロ綿棒で皮を伸ばしていた。
「何をしている!」
「ひょえ!」
テリウスの声に飛びあがる。
「何ですか!ビックリするじゃありませんか」
「それはこっちのセリフだ。なぜ黙って私の知らぬ料理を作ろうとしている!」
料理男子テリウスは私が珍しいレシピを持っていると目をつけてのか最近用も無いのにこちらの厨房を見に来る時がある。殆どアリアが作っていたので、舌打ちして帰る姿にかなりビビっていて可哀想だった。
「それはなんだ?」
「餃子の皮ですよ、これに肉の種を包んで焼いて良し、茹でて良しの幸せが一杯詰まった物になるのです」
「そんな……そんな物を私に隠すとは」
「隠してないので、はい、手を洗って下さい。そこで綿棒でこうやって……」
私は面倒な皮作りの助っ人を得たとばかりに伸ばし方を教え、この後どうせ大量に作らされる餃子の種作りに入った。
テリウスは包むのも初めてとは思えないほど上手く、凄いですね流石ですねと、子供達に言って手伝わせたようにおだて、みんなの餃子が完成した時の彼の満足げな顔はかなり可愛く思えた。料理男子バンザイ!




