35 不思議
とにかく体を休めろと部屋に帰され、ベッドに寝かされるが私はラッセルを枕元に呼ぶ。
「ラッセルさん、月明かりに照らさないと……」
「分かったから、ちょっと休みな」
「駄目です、もし新月でないと駄目なら」
「……なるほど、わかったワシに任せろ。お前は寝てなさい」
「お願いしま……す……」
やっと眠ったか、とラッセルの声を遠くに聞いた。
……なんか大変そうだね……
エマ?まぁね、でも発見したの!凄いよ。ここならちゃんと生きていけるかもよ。
……でもそれ私じゃ無いし、見つけたの……
まぁ、そうなんだけど。
……戻らなくても良いよね。私……
誰かの気配で目が覚めた。
「……誰、朝?」
「アリアだよ、いまお昼。これ食べる?」
スープを持って来てくれたらしい。あんまり食欲無い。
「いらない」
「もう、仕方ないな。じやあほらリンゴ食べて、お薬飲まないと」
「ふふ、アリアがお姉さんみたいだね」
私が笑って言うと、ちょっと照れながらリンゴをくれた。
「今は私がお姉さんなの。エマの面倒は私が看てるから」
ジョルジュにでも言われたのか、張り切って私の看病をしてくれるらしい。微笑ましいねぇ。リンゴを食べ薬を飲んで眠る事にした。何か忘れてる気がするけど駄目だ眠い。
夜、目が覚めたが誰もいなくてそのまま眠った。しばらくしてまた人の気配で目覚めるとアリアがいた。
「起きたね、お昼だよ。今度はスープ食べてね」
私は体を起こすとスープを貰い、半分ほど食べて薬を飲んだ。
「ねぇ、他の人は?」
「みんな仕事だよ、いつも通り。私しかいないから、ゆっくり休んでね」
ずいぶん大人びた口をきくようになったもんだ。
「何か言ってた?」
「何も、何も言うなって言われてるし」
「なぜ?」
「心配して起きてくるから熱が完全に下がるまで部屋から出しちゃ駄目だって」
「心配って……駄目だったの?新月魔草」
「私は何も知らない」
そう言って、アリアはサッと出ていった。駄目か、新月に照らすのは関係なかったのかな。せっかく分かったと思ったけど冷静に考えれば月に照らされたら芽が出るとか無いか。
また振り出しかぁ、水耕栽培って初心者向じゃなかったっけ?世界が違うと勝手が違うのか。このまま駄目なら私は追い出されるんだろな、元々栽培要員じゃないし。元の孤児院に戻されるのかな?エマは殴られるって言ってたけど私も殴られるのかな?ヤバイ!嫌だそんなの。殴られたくない、どうしよう。
だんだん不安になってパニックになり涙が出て来た。うぅ、どうしよう。私は追い出されて孤児院に戻されて殴られるんだ、わ〜ん。
「エマ、夕飯だよ。って、何?何泣いてるの?」
「アリア〜。私もうダメだ〜」
「えぇー!待って!誰か呼んでくる!」
アリアが慌てて出て行った。またひとりでぐるぐると殴られたくないよとワンワン泣いた。もう止まらない。
私がもうダメだと言ったのが急に具合が悪くなったと思ったのか、マティウスが部屋に駆け込んできた。
「エマ、大丈夫か!」
「マティウス様ぁ、もう駄目です。私は追い出されて殴られるんです。そんなの嫌です」
「は?何を言っている」
私は泣きながら説明するとマティウスは私の額に手を当てたり首の辺りを触れたりしながら話を聞いていた。そして最後に私の手をそっと握る。
「其方をここから追い出したりはしない。だから誰も其方を殴ったりしない」
優しく話かけてくれた。
「なぜですか?私は失敗したんですよ」
「失敗などしていない」
「してないんですか?」
「そうだ。其方の言うとおり月明かりに照らされた新月魔草から新芽が出たんだ」
「出たんですか?」
「……出たんだ」
静かに、とっても綺麗な笑顔でマティウスは答えてくれた。
やっと熱が下がった!今日から復活だ!私は部屋を出ると朝食の準備をしに調理場に向かう。そこにはアリアが既にいてスープを作り始めていた。
「おはようアリア。ごめん、遅くなった」
「エマ、おはよう。ここはいいから小屋に行って。出来たら呼ぶよ」
「アリア一人で用意するの?」
「エマが寝込んでる間ずっとしてたよ。朝は一人、昼と夜は父さんと二人」
「そうなの?」
「そうなの、早く行って。エマにはエマのしなきゃいけない事があるでしょ」
なんと、アリアの成長が著しい。眩しいよ、大きくなったね。
「わかった、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
アリアに送り出され秘密基地へむかった。中では大改造が行われていた。屋根が完全に取り付けられそこは室内空間になっていた。
天井は板張りにガラスの窓をつけて窓には陽射しが調整出来るようにカーテンが付けられていた。
その下に台が置かれコップがずらりと並んでいる。前の量よりずっと多くその一部は葉が伸びていた。
「凄い、伸びてるよ」
私はそこに近づくとジッと眺める。
「もう大丈夫かい?」
「ラッセルさん、大丈夫です。それよりコレ!凄いですね」
「あぁ、本当にお前は凄いよ」
「私は別に、エヘ」
「いや、お前は凄いよ」
声をかけられ振り向くとガビーがいた。
「お前のおかげでここまで来た」
「ガビーさん……」
「ここからはプロの腕の見せ所だ」
「はい、期待してますよ」
「偉そうにしやがって、見てろよ」
そう言ってニッカリ笑い作業に戻る。
「ガビーさん、若いですね。張りきってる」
「そうだのぉ」
「若さが眩しいです」
「エマは若さが足りんの」
「何ですかそれ、酷い」
ラッセルに年寄り臭いと指摘されちょっと落ち込む。だが、この新芽を見ていたら自然と笑顔になる。
「エマ、マティウス様がお呼びだ」
「はい」
アリステアに呼ばれ付いて行き、貴族様ドアから中に入る。
「おはようございます。マティウス様」
「あぁ……そこに座れ」
私の顔色を見て額に触れ熱が下がったのを確認するとテーブルに資料を広げ私が以前書いた今後の進め方を指差す。
「これだが……」
「はい」
「この水耕栽培システムとは?」
「前にも説明した通り……」
私はまた説明する、前は真剣に聞いてなかったのか再度の確認の為か、不思議システム過ぎて頭に入らなかったようだ。
「この水の循環は?」
「ですから、それは前にも言った通り魔術でチョイチョイっとお願いします」
「チョイ……って、どうしても流れがいるのか?」
「流れはいりますし、水にエアー、じゃなくて空気を入れないといけないらしいです」
「なぜだ?」
「わかりません」
無言のマティウス。私も無言で息をひそめ、これ以上聞いてくれるなオーラを出してジッと動かずにいる。マティウスはすっと資料を片付けた。ホッとして密かに深呼吸して落ち着く。
「其方は……」
「はい」
「なんだか……不思議な感じがする」
「はい?」
なんだかヤバイ雰囲気。
「なんと言うか……似ている」
「だ……誰にですか?」
いや、ヤバイかも。どうしよう。
「以前、ある所へ流行病の調査へ行ったんだが、」
「はい」
もう駄目だ、めっちゃこっち見てる。目をそらしても良いだろうか?この緊張感に耐えられない。そう思った瞬間、
「マティウス様、そろそろ」
テリウスが声をかけてきた。グッジョブ!テリウス。マティウスは私をジッと見たままだ。
「いま行く」
ゆっくりと席を立つマティウスに、私も立ち上がり頭を下げ暇を告げた。
貴族様部屋から出て特大のため息をつく。賢い人は勘も良いってこと?私に何か違和感があるらしい。アリアの時もちょっと会話に変な間がある時があったしこのままいけばいずれ何か言われるかも知れない。でも、新月魔草が無ければ沢山の人の命が危ないし。もう少し頑張ってその後はどうする?逃げる?どこへ?




