34 わかってくれない
帰るとアリアが一番に迎えてくれた。私はお土産を手渡すととっても喜んでくれた。
「あ、エマもペンダントしてる。私もする!」
アリアがそう言うのでそっと首にかけてあげると、大喜びでジョルジュに報告していた。カワイイねぇ。
夕食をすました後、秘密基地の小屋を見に行った。今日一日で何が変わるわけでもないだろうけど落ち着かないからだ。私がボンヤリコップたちを見ているとラッセルがやって来てガラス窓につけてある扉を閉めだした。こうしないと夜冷えすぎるからだ。
「ほら、もう暗くなるよ。部屋に帰りなさい」
「はぁい」
「ちょっとは気が晴れたかい?」
「そうですね、思ってたより賑やかで楽しかったです」
「そりゃあ良かった。前は小さな町だったんだろう?」
「まぁ、そうですね。ここと比べたらどこも小さいですから」
「そりゃそうだな」
エマの前よくは知らないので適当に話しをあわせておいた。部屋に戻りベッドの下からコップを取り出す。何の変化も無くガッカリとし窓辺に置くと、外は薄暗くなり、雲の間から月が少し出ていた。
「今夜は新月かぁ……」
疲れていたせいかそのまま横になると毛布もかぶらず眠ってしまった。
誰かに呼ばれてる気がした。振り返ると小さいエマがいた。
……ねぇ、外はどう?……
珍しく尋ねてきた。
外はいま大変だよ。全然上手く行かなくて。
……そうなんだ。やっぱり外は怖いんだね……
そうかもね。
小さいエマは当分帰る気無いみたいだな、この体に。私もそうなればどうなるか分からないので、なんとも言えないけどね。
寒さに起された朝だった。毛布も被っていなくてブルブル震えながら起き上がる。ヤバイ熱あるかも、頭がボーっとする。無理やり立ち上がり部屋を出ようとして思い出す。コップ持って行かなきゃここじゃ寒すぎだよ。
私はボンヤリした頭でコップを掴むと冷え過ぎないように上衣の裾をめくり懐にしまう。やっぱり熱があるのか一緒に入れた手が温かい。
急いで階段を降り秘密基地に向かう。外はかなり冷え込んでいて吐き出された息が白く、小走りで秘密基地に入ると珍しくマティウスが小屋の前にひとりでいた。
「おはようございます。テンプルウッド様、こんなに早くどうしたんですか?冷えますよ」
「エマこそ……なんだその顔は熱があるのか?」
「テヘッ、バレました?なんだかそうみたいで」
「バレたでは無いだろう。早く帰って眠りなさい。後で薬を届けさせる」
マティウスは私に近づくと額に手をあてるとムッとする。
「かなり高いぞ。はぁ、何をしに来たんだ……これの様子を見にか」
「はい、見ました?」
「あぁ、変わりない」
「駄目か」
「とにかく其方は熱をなんとかしろ。体が万全でないと、出来る物も出来ん」
そう言って私を帰そうとするので私は慌てた。
「待って下さい。これ戻しに来たんです」
懐からコップを取り出す。
「なんだ貸せ、私が置いておく」
「お願いします」
コップをマティウスに渡すと振り返り部屋に帰ろうとニ、三歩踏み出したとたん、急に腕を掴まれる。
「一体何をした!」
怒鳴りつけられ振り向くと目の前にコップを突きつけられる。
「新芽が……」
差し出されたコップの新月魔草から新芽が出て艶っと光を放って見えた。マティウスの大きな声に驚いたダリューンが貴族様の部屋から飛び出して来た。
「芽が……」
私は驚き熱に浮かされた頭でそれを見たがそのままふらりと崩れ落ちた。
お昼過ぎにやっと意識がハッキリして来た。
「おや、気がついたかい?」
「ラッセルさん……新芽が出た夢を見てました」
「そうかい、でもそれ現実だから」
「嘘!どこですか!」
私は飛び起きようとして頭がクラリとしてまたベッドに倒れ込んだ。
「コラコラ、ムチャするな。さっき薬を飲ませたばかりだぞ」
「そんなの覚えてない」
「ボーっとしとったからのぉ」
私は水を貰って飲み、少し落ち着くと改めて尋ねる。
「本当に新芽が出たんですか?」
「本当にでた」
「なぜ?」
「それを聞きたくて皆ウズウズしとるぞ」
「私ですか?」
「お前が部屋に持ち込んでいた物だけだ」
アレか。
「私は何もしてません」
「偶然かもしれんが、そうじゃないかもしれん」
「はぁ」
「とにかく、自分の行動を思い出せ。熱がさがったらな」
そう言ってラッセルは出ていった。私は思い出そうと頑張ったがどうにも頭がクラクラして集中できず、いつの間にか眠ってしまった。
眠っていたが考えていた。夢の中で考えていたのか、昨日の事を繰り返し思い出していた。
たしか、コップをベッドの下へ入れ、街へ行った。楽しく過ごしてペンダントも買ってもらって、帰って来てコップをとり出したけど変化は無かった。がっかりとしてそれから、それを……
「……窓だ」
私は飛び起きた。そうだ!窓辺に置いた。前も!前も窓辺に置いた!ふらつく足で階段を駆け下り最後の三段踏み外し落ちた。バタバタともの凄い音がしたのかラルクが駆け寄ってくる。
「エマ!大丈夫か?ケガは?」
「窓だよ!窓!」
私はラルクの心配をよそにふらふら立ち上がり壁やテーブルやドアにぶつかりながら秘密基地へ向かう。
「待ってエマ!危ない!わかったから、つかまって!連れて行くから!」
ラルクは私を捕まえ支えてくれ、そのまま小屋の前まで連れて行ってくれた。あまりの騒がしさに皆集まって来たなか、私はひとり小屋の中に入りコップたちを見る。新芽が出た物は一つだけだ。絶対そうだ!
「わかった!わかりました!」
私はコップを片手に小屋から出て叫ぶ。マティウスが騒ぎに驚いて部屋から出て来て私に近寄り、ふらつく体を支えてくれる。
「なにがわかったんだ」
熱で頭がぐるぐる回った状態だったので他の人にはちょっと異様な感じのようだ。マティウスが引き気味で気持ち悪い者を見るような目をしているのは気のせいでは無さそうだ。
「窓ですよ、窓辺に置いたんです」
私がコップを指差しながら熱く説明する。ラッセルは小屋の窓を見て言う。
「ここだって窓辺に並べてあるぞ」
ガビーも頷いて見てる。あ、そうそう。
「ガビーさん、外出の許可とって頂いてありがとうございます」
「今そこじゃないだろう!」
ガビーがすぐさま返す。
「おかげで新芽が出たんですよ」
「だから、何をしたんだ!」
せっかく私がちゃんとガビーにお礼をしてるのにマティウスは気に入らないらしい。邪魔してくる。う〜頭がクラクラする。
「だから、窓ですよ」
「窓がなんだ!」
「なんでわかんないんですか、窓辺に置くとですね」
「置くとなんだ?」
イラつくマティウスに私は胸を張る。
「月明かりに照らされるんですよ」
私の素晴らしい研究結果の発表だ!さぁ皆、絶賛してくれたまえ…………アレ?静かだな。
「月明かりだと?」
「そうですよ、凄くないですか?凄い発見でしょ?」
皆なんで褒めてくれないの?やっとわかったのに。
「月明かりに照らせば新芽が出るのか?」
「そうですよ、うふふっ」
凄く変な雰囲気の中やり取りは続く。
「本当に?」
ラッセルまで首を傾げる。ジョルジュも首を傾げラルクは可哀想な子を見る目で私をみてる。
「本当だもん!」
私の必死の主張は誰の胸にも響かなかった。みんな酷い、ちゃんとした説明をしろと急かされ私はムッとする。
「だから、月明かりに照らすんですよ」
「そんなの聞いた事ない、ただの月明かりだろ?なぜだ?」
「そこはまだハッキリしませんが、そもそもここは魔術の……あららら~」
私は興奮し過ぎたのか急に目が回りまた倒れ込む。
「エマ!……チッ!肝心な時に!」
鬼のようなガビーの声が聞こえる。せっかくいい奴かもって思ったのに……残念です。




