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転生者にも事情がある  作者: 蜜柑缶


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33   街ブラ

 コップ研究室の拡大から二週間がたった。いくつかは変化なしだが殆ど根が生えた。が、そこから変化が無い。

 窓辺で日に当てたり当てなかったり、部屋を少し温めたり水を変えたり増やしたり減したりしたが新芽はいっこうに生えない。なんで?私のは生えたのに。

 毎日眺めてはため息、眺めてはため息で小屋の中は私のため息で充満していた。


「そんなに見つめたら葉っぱだって気おくれしちゃうよ」

「ラッセルさぁん、プロのご意見お願いしますよぉ」


 私は半泣きですがる。このままじゃ今シーズン中に新月魔草が収穫出来ない。


「これに関してはワシもなぁ……良くわからんから試行錯誤を続けるしかないのぉ」

「にゃにゃにゃにゃー!」


 コップたちの前で頭を抱えジタバタする。


「何を奇声を上げている」


 突然のマティウスの登場に驚いて飛び上がる。


「申し訳ありません」

「まだ芽がでないのか」

「はい……」


 またため息をついてしまう。前の時と何が違うのか……ベッドの下に置いて、水を替えただけだ。根がのびてから慌てて日光にあてた。それはこの小屋の窓辺でちゃんと調整している。そもそも冬に入っている為そんなに陽射しがキツイわけでも無くちょうど良さそうだ。


「ムムムッ、なんでよぉ!」

「おい、テンプルウッド様の御前だぞ」


 その声に我にかえる。来ていたのか!テリウス!


「申し訳ありません」


 再び謝る。マティウスも待ち遠しいのかコップをマジマジと見ていて、私もその横でまた見て、そしてため息。


「はぁ〜、どうしよぉ」

「焦っても仕方がないがな、何か突破口は無いのか」

「にゃいです」


 頭を掻きむしり追い詰められながら答える。「なんだその答えは」とテリウスがまたチクリと言うが聞こえない聞こえない、それどころじゃない。私は失礼しますと頭を下げ自分の部屋に逃げ帰った。


 もう一度検証する為に一つコップを持ってきて、ベッドの下に入れ置いておく。階下に降りて食事をし、また確認に行く。そしてため息、その繰り返しだ。

 私のあまりの悩みように皆が心配してくれていた。そしてそこから数日たったある日。


「ちょっと煮詰まってるなら環境を変えて、頭冷やして来い。街へ行く許可を取ったから出掛けろ」


 なんとガビーが貴族様に掛け合ってくれ外出許可がでた。私が信じられない物を見る目でガビーを見る。もしかして、神……


「勿論、一人は駄目だ。誰かついて行ってもえ」


 誰かってだれ?ぐるりと見回してみた。ジョルジュでもいいけど、ラッセルはないな。ガビーは、論外、じゃあラルク?

 ラルクのところで視線を止めると成り行きを見ていたラッセルが嬉しそうに微笑んだ。


「おぉ、ラルクついて行ってあげなさい。若い者同士、お前もあまり街へ行くことも無いから息抜きしてきなさい」

「え?オレですか?」


 ラルクはまさか自分が指名されるとは思って無かったらしく、微妙な顔をする。


「すみません、少しだけ良いですか?」


 私は切羽詰まっていたので頼み込んた。その様子を見てジョルジュとラッセルがにんまり笑う。


「じゃあ気晴らしに行こうか」


 ラルクは優しく答えてくれた。マジ感謝です。







 出かけにアリアが一緒に行きたがったがジョルジュに全力で止められていた。

 別に良いのにね。ま、確かにアリアが居るとそっちに気を取られ息抜きとはならないか。

 

 数ヶ月ぶりに外の世界だ。ここは首都アデミンストだから都会だとわかってはいたが、まったく実感がないまま過ごして来た。そもそも元いた町しか知らないし。

 秘密基地がある場所はテンプルウッド家の庭園の一部で、つまり貴族街にある。貴族街はお城の周辺にあり、殆どの貴族はその辺りに本邸を構えている。貴族街の南には平民でもお金持ちの裕福な商人などが住み南下する程生活水準は下がる。南門の近くはあまり治安の良い地域ではないらしい。

 

 私達は貴族街から徒歩で街まで行く。歩いているのは屋敷に仕えている下働きの者や出入りの業者くらいだ。初めての外出が興味深くキョロキョロしていたが、ラルクはそんな私を優しく気遣い手を引いてくれた。


「アリアが最初に街に出た時も大変だったらしい。迷子になりかけたってウォルフが言ってたからエマも気をつけて」

「はい、ありがとうございます」


 久しぶりの街だ。しかも、見た事の無い大きな街にかなりワクワクする。貴族街から出た所はアリアの住んでいたキルクの町には無さそうな高級な店が並ぶが外から眺めるだけで入る事は出来そうにない。私達の服装は平民の中でも下町程度で、店の前に立つだけでも追い払われるだろう。そこを通り過ぎ、賑やかなバザールに来た。

 街の中心辺りにアデミンストの台所と呼ばれるバザールがあり、食料品だけで無く日用品、衣料品のお店や、レストラン、カフェ、屋台など場所により色々な雰囲気の店が立ち並んでいた。

 やはり北の方が高級な感じの店が多く、商人達には北側に店を持つのがステイタスの一つなのだそうだ。


「いつか店が持てれば良いんだけどな」


 ラルクがポツリとこぼす。前の町キルクではそれなりに商売をしていたのに、今や出来るかどうかもわからない薬草栽培の手伝いだ。大人しい彼だが心のなかでは悔しい思いをしているのだ。


「きっとラルクなら大丈夫だよ」


 私はそう言った瞬間、実は自分がラルクの足を引っ張っている事に気づく。


「あ、ごめんなさい。私がちゃんと出来てないから……」

「そんな事、ないよ」


 ラルクは落ち込む私に柔かく笑うと髪を撫でてくれる。これってアリアに良くするやつね。


「エマはエマの出来る事をしてるんだから。オレの事はオレが頑張らないとね。それに、エマには大変な思いをさせて父さんもオレも悪いと思ってるんだよ」

「大変な思い?」


 ラルクはコックリ頷く。いまや新月魔草の成功に大勢の人の命がかかっている、なのに大人の自分達は全く手助け出来ていない。ガビーですらそう思ってこの外出許可をとってくれたらしい。ガビーにそう思われていたなんて、まったく片鱗も見せなかった彼はある意味酷い、いや、凄い。怖いだけだったよ。


 バザールをウロウロして疲れた頃、ラルクは食事しようと誘ってくれ屋台でナンのような薄いパンに野菜と肉をはさんだ物を買ってくれた。二人用にお小遣いを貰っていて、ラルクが払ってくれた。

 屋台近くのベンチで二人で並んで食べていると突然声をかけられた。


「ラルク!それにエマじゃないか」

「ウォルフ!どうしてここに?」

「オレは先輩達のお昼を買いに来たんだよ、そっちこそ!なんだよデートかよ」


 ニヤリと笑うウォルフに二人で顔を見合わせる。


「イヤイヤイヤイヤ、違う違う!」


 ラルクは慌てて首を振り否定する。そんなに必死にならなくても、私にとっても兄と言うか、息子まではいかないけど可愛いい存在ってだけですよ。

 私は「違いますよ」と笑って流していたが顔を真っ赤にして動揺するラルクはかなり純情なようだ。そろそろ適齢期だろうに早く安定職についてお嫁さん貰わないとね。いい笑顔のウォルフをさっさと追い払い、ラルクはホッとひと息ついた。


「ごめんよエマ。アイツいま彼女が出来たらしくて、浮かれてんだよ」

「彼女!へぇ〜、モテるんですね」

「門番をしていて街の人達と関わる事が多いから知り合う機会も多いんだろ」

「ラルクも機会があればモテますよ。優しいもん」


 私は弟に先を越された感のあるラルクを慰めた。ラルクならその気になればすぐ見つかるだろう。


「ハハ……ありがとうエマ」


 ラルクは力無く笑うと黙って残りを食べ終えた。これ以上は言うまい。傷付きやすい年頃だもんね。


 食べ終わると今度は行商人達が多く店を出している所に行ってみる。屋台や簡易的な作りの店が並んでいて、ここらでは珍しい物も売られているらしい。

 この領地には海が無いので海産物や他領からの輸入品などは少し値がはる物が多いようだ。平民の手がギリギリ届く範囲の高級な生地や、アクセサリー、雑貨などの店を通り庶民的なエリアに入って来るとお土産に好きな物選んで良いよと言われ色々見てまわる。


「これ可愛いい!」


 私はアクセサリーが並んだ露店でペンダントを指差した。淡いピンク色の石の周囲をワイヤーでくるくると花のように飾られたシンプルだけど可愛らしいデザインの物だった。


「これ買っていいですか?」

「良いよ、エマに似合いそうだね」

「違いますよ、アリアにお土産です。お留守番させちゃったから」

「え!?」


 私はずっとアリアにお土産を探してたのだ。ラルクは驚いて不思議そうに私を見る。


「自分のは?選ばないの?」

「私は良いです。これ可愛いアリアに似合いますよ。これ買ってください」


 ニッコリ笑っておねだりした。支払いをしてもらい、ピンクのペンダントを手に入れた。これでよし。


 そろそろ行こうかと歩き出すとラルクに呼び止められる。


「エマ、これ君に」

「え?」


 それはアリアに買ってあげたのより少しだけ大人びた感じの透き通った青い石が付いたペンダントだった。それをそのまま私の首にかけてくれる。


「エマにはこっちの方が似合うね」

「あ、ありがとうございます」


 私は驚いて青い石を指で触るとドキドキして俯く。

 

 なに!なにが起きてるの?いや、動揺しては駄目だ。普通にしよ、ラルクだってきっと妹に接するのと同じ感じなんだから。

 私はチラッとラルクを見ると彼は普通に前を向いて歩いていた。よし、大丈夫。慣れないシュチエーションに焦ったお出かけでした。


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