31 秘密基地改造
アリアもちゃんとしてきたなぁ。
片付けを率先してやっている姿を見てしみじみ思う。ジョルジュとラルクは二人共秘密基地に籠りがちだけど、文句も言わずにひとりで頑張っている。そういえばウォルフはどうしてるんだろ?全然顔を見せないけど。
「あのぉ、もう一人アリアのお兄さんがいるんですよね?」
「ウォルフね、アイツは兵士の訓練中だよ」
そうラルクが答えてくれた。ダンヴァース領の首都アデミンストは外側をぐるりと環状囲壁に護られている。そこには三ヵ所の門があり、常に兵士が配置されていて、北は領主のお城や貴族の住まいがあり、東西と南には平民もよく使う外につながる門がある。
兵士は弱い魔物の駆除や怪しい人物の排除など体力勝負の場面も多いが、ウォルフのように事務処理能力があるのは少ない為に重宝されるらしい。
面接に行くと即日採用され、事務をしつつ訓練もしなければならず家族と会う機会はほとんど無いらしい。寂しいだろうな。
「大変ですね。慣れないところで」
「たまに父さんは会いに行ってるよ、今度は私も連れて行ってもらえるの」
「最近はちゃんと言う事を聞けるようになったからな」
ラルクとアリアが楽しそうに話している。アリアが外で余計な事を話さないか心配で連れていけなかったらしい。
「これ室内が良いんじゃないの?」
秘密基地に行くとラッセルがコップを手に聞いてきた。
「そうかも、ここ寒いですもんね」
もう初冬とも言えない季節。気温も大分下がってきたし、そのうち氷がはるかも。
「ここって雪降るんですか?」
「少しね。たまに積もる」
だったら完全に室内にいれないとね。ここは壁はあるけど天井が無い部分があるからダメだ。
「屋根つけないと駄目ですね」
「じゃあ言ってきて」
「私が言うんですか?」
「君の考えで進めるんだから、頑張らないと」
マジか……振り返ってもアリステアはもう居なくて完全に貴族様のドアをたたかなくてはいけない。憂鬱だなぁ、ラッセル笑ってるし。
恐る恐るドアをノックするとすぐに開いた。
「誰だお前は?」
「な!テリ、カ、カーン様!」
急にテリウスは反則です。私はビクつくとあわわと挙動不審になる。
「それだよ、エマは。入れ」
「お前か」
奥からダリューンが見つけてくれ助かった。私はテリウスの横を出来るだけ遠目に通るように横歩きで移動し、小走りでダリューンの側まで行くとマティウスがこちらを見た。
「なんだ?」
「はい、お願いがありまして。秘密基地に屋根をつけて欲しいのです」
「秘密基地?あぁ……子供だな……それで、屋根とは?半分ついてあるが?」
「保温性が欲しいのです。屋根がないと気温が下がり過ぎますから」
マティウスは顎に手を添え少し考えた。
「今の屋根がある所だけ小屋に作り変える方が早いな」
「だったら窓つけて下さい。寒くない所で陽にあてたいので、お願いします」
私はペコリと頭をさげ、とっとと帰るために後を向くが、ダリューンが嬉しそうに待ち構えていた。
「エマ、この資料を読んでおけ」
「なんですか?」
「新月魔草の入った薬湯の資料だ。それと流行病の症状」
「あぁ、わかりました」
「それから、新月魔草の栽培のやり方とこの先の説明をここに書いとけ」
そう言って紙束と筆記用具を渡される。面倒だが仕方がない。わかりましたとそれを受け取り部屋を出た。外ではラッセルが待っていて経過を話すと頷きガビーに小屋作りの指示をだした。ガビーは気に入らないながらも準備の為に秘密基地を出ていった。
こんな小娘に指図されるのは嫌だろうな。私もやりたくないけど仕方ない。実働はガビー達に頼む事になるだろうし、すべて上手くいくわけでは無いだろう。植物のプロのラッセルやガビーに任せた方が上手くいくことが多いだろう。私にあるのはうろ覚えの記憶だけだ。
屋根作りは任せて私は自分の部屋がある建物に戻ると食卓に資料を広げ読み出した。この前の続きを読むと、流行病は少し鎮静化しているようだ。理由はわからないが病が出だしてからここ数年、なぜか冬場は少し被害が収まるらしく、マティウスとしてはこの冬場の内に解決しようと試みているらしい。
オルガは元気だろうか?順調に新月魔草が送られてきているから多分元気だな。新月魔草の護衛の貴族に囲まれて怖がってないか心配だけど。
これからの進め方の説明を書いていると、ジョルジュが覗いてきた。
「エマはその年で随分大人びた文章を書くね。慣れてる感じだ」
そりゃあ慣れてますよ。デスクワークもしてましたから。でもそんな事は言えない。
「そうですか?この資料を参考に書いてみたんです。へへっ!」
笑って誤魔化す。
「アリアも字が上手になりましたね」
「まぁ覚え直してるからね。前に一度教えたんだけどそれも例の騒ぎで忘れてたからね。でも本当に無事で良かったよ」
それ私の記憶に残ってます、すみません。
「大変な思いをしたんですね。私もちょっと忘れてますけど」
「本当に大変だったんだ。色々あって、テンプルウッド様にも気に入られていたんだが、記憶を無くして以来怖がって話もしないよ。ご不興を買ってないか心配でね」
「そ、それは大丈夫なんじゃないですか?子供相手に気にしてる風でも無いでしょ?不機嫌な顔は仕事し過ぎのせいなんじゃないですか?」
愛人説が復活しないように近づかない方がいいよ、アリア。
「確かに仕事ばかりで食事や睡眠をとってくれないってバーソロミュー様もカーン様も心配してらしたよ」
やっぱり、そうだと思った、酷い顔色だもん。立場的に私には何が出来るわけじゃないけど心配だよ。
資料も読み終わり説明書もザックリとだけど書いたので持って行こうと部屋を出る。私が秘密基地に入るとガビーが何人かの男達と早速小屋作りをしていた。
口の固い人を厳選して作業に当たらせているらしい。ラッセルは細かい指示をだし、窓の位置や中の棚の配置などをどんどん決めている。
ガビーも大工さながら釘をゴンゴン打ち付けみるみる壁が出来ている。逞しいねぇ〜。
再び貴族様ドアをノックする。
「なんだ?」
「あ、あの、これを……」
またテリウスだよ、怖いよ。ビクビクしながら資料を渡してサッサと頭を下げ、逃げ出す。
「待て」
「ふぇ?」
呼び止められ驚いて変な返事をすると舌打ちされた。
「入れ」
仕方無く部屋に入るとマティウスは居なくてテリウスと、二人だけになるえ、なに?
「マティウス様はすぐに来る。余計な事をせずにそこで待て」
「はい!」
私が返事をするとテリウスは向こうのドアを開け出て行った。はぁ……疲れるよ、なんでテリウスいるのよ。平民嫌いなんでしょ、まぁ側仕えだから仕方ないのかな。
私はなんとなく貴族様仕様の部屋を見渡す。シンプルだが細かい細工のテーブルや棚、ふかふかの絨毯はお金かかってそうで落ち着かない。ふと見ると部屋の隅に高級そうなチェストがありその上に本が置いてあった。
ちょっと見ていいかな。何の本だろ?豪華な革張りの大きな本でヨッコイショとばかりに表紙を開く。それは手書きの薬草の本だった。
丁寧な説明と細かい絵に目を奪われる。写真やコピーなんか無いのに精密で凄い。マティウスは貴族で医術者だけど魔術だけに頼るわけじゃない。やっぱりオルガのような腕のいい薬剤師も必要で、自分も勉強してるようだ。
私は夢中で次々ページをめくる。何ページかめくると新月魔草が載っていた。そこは他の薬草の物より説明が少なく、まだまだ良く知られていない事がよくわかる。
「やっぱり、希少で貴重ってことか……」
「だから、急いで栽培せねばならんのだ」
「うひゃ〜、マ、マティ、いや、テンプルウッド様!」
「何をしている!余計な事をするなと言ったハズだぞ!」
マティウスに驚き、テリウスに叱られ、ダリューンに笑われた。なんて日だ。




