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転生者にも事情がある  作者: 蜜柑缶


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28   研究の成果

 コップの中の研究室は一向に変化なく。根っこも伸びてるのか伸びてないのかよくわからなかった。

 数日が経ち毎日水は変えるものの初日以来、色が変わる訳でもなく少しは萎れた感じがなくなったかな?ってとこだ。

 締め切りに追われてる訳でもないので私はのんびりとコップを眺める日々。日中は最近入れてもらったベッドの下に隠し、夜に取り出すと観察する。秘密のペットを可愛がるようにだんだん楽しくなってきた。


「うんうん、今日も変わりないね。よし、今夜は新月だ。新月魔草の名に恥じぬように新月を浴びようね」


 私は話しかけながらコップ研究室を窓辺に置くと月見さながら空を見上げた。雲ひとつ無く、しかし新月なので薄暗くちょっぴり神秘的な感じが……しないか。せめて貴族様の庭でも見れれば良いのだけれどここから見えるのは壁だけだ。この建物は全体を木製の壁に囲まれて外から隔離されている秘密基地だからね。

 私はつい、コップ研究室を窓辺に置いたまま眠りについた。





 ……あなた、誰?……


 誰かが話しかけて来る。夢……だよね。

 

 私は、エマだよ。

 

……エマは私よ……


 あぁ、あなたエマ?私、私は誰?なんて言えば良いのか。


 ……なんだか寝むいから、寝る……





 そうか、私また取り憑いてる感じなのかな。でも、私のせいじゃ無いし!責任ないよね。無いはず。誰か無いって言ってよ、はぁ……



 目覚めは悪かった。前のように泣いて無いのが救いかな。窓辺のコップ研究室をベッド下に隠し階段を降りていく。

 早朝は薄暗く、まだ誰も起きてないので一人で朝食の準備を始めた。出来上がる頃、ジョルジュが起きてきて、テーブルの準備をしてくれる。ラルクはアリアを起こして顔を洗わせていた。

 いつもの様に食事を済ませ、洗濯にかかった。アリアも習慣づいて来て黙ってても手伝ってくれ、掃除もテキパキ出来るようになっていた。勉強の時間も決まって、真面目に取り組むようになり、私も頑張らないと追いつかれそうだ。


「ラッセルさん、何か本を貸してくれませんか?私も新しい事勉強したいです」

「そう?後で持ってくるよ」


 ラッセルはそう言うと秘密基地へ消えていった。最近は研究の進み具合はあまり耳に入らないけど、まだ上手く行ってないようだ。何度目かのサンプルを運んで行くが、表情も優れず、失敗に終われば大変な事になるというプレッシャーだけが増し雰囲気を暗くしていた。

 そういえば、流行病……では無く毒物摂取事件?は、どうなってるんだろう。ここに入って以来情報がなくてちょっと忘れてた。私って薄情だなぁ。

 ラッセルが本を持って来てくれた時に聞いてみると、また村が一つほぼ全滅したそうだ。マティウスが伝染病ではない可能性があるって訴えたにもかかわらず、村は燃やされ、村人は火葬されたらしい。

 オルガの悲しむさまを思い出し胸が痛くなる。ボヤボヤしてる場合じゃない。でもどうすればいいのかわからない。

 

 なにも事も出来ず、夜になり部屋に戻るとコップ研究室を取り出す。私に何か出来るとも思わないが落ち着かない。ため息と共に窓辺にコップ研究室を置いて眺めながら考えていた。

 今の私が新月魔草に関わるすべは無い。

 知識も無いし、技術も無い。無い無いづくしの自分に脱力する。コップの中の新月魔草も何の変化も無く、根っこが元気に伸びているだけだ。

 ……え?伸びてる?!伸びてる!

 なんと根っこが伸びてる!どうしよ、どうしよ!知らせる?知らせた方がいい?でも待って、根っこが伸びただけだよ。落ち着け、育つかまだわからない。葉の部分が育ってから知らせた方が良いだろう。よし、落ち着こう、ふぅ〜。


 興奮して良く眠れず、朝からボーっとしたが、いつもの仕事ををこなす。今日はアリアはここに居なくて珍しくラルクと外で遊んでいる。ラルクも少し気晴らしかな。

 私はラッセルに借りた本を読んでいた。ちょっと難しいわからない所をラッセルに聞きつつテーブルにいた。面白くなってきて夢中で読み進むとまたわからない単語が出てきてまた聞こうと顔をあげながら問いかけた。


「これなんて読むんですか?」


 そこにはダリューンだけがいた。

 なぜここに?


「……どれだ?」

「は?いえ、大丈夫です!すみません!間違えました」


 私は焦って断るがダリューンは面白がって教えてくれた。


「難しい本を読んでるんだな」

「いえ、あの、はい」

「大丈夫だ、気にするな。平民の相手は慣れてる。アリアの相手も前はよくしてたんだ」

「あ、そうですか」


 その節はお世話になりました。


「今はあまり話してませんね?お忙しいですもんね」

「いや、そうじゃないんだ。アリアが怖がってな。父親も言ってたが前の記憶がなくなって、俺と話した事も忘れているらしい」

「そう、なん、ですね」


 私はなんだか複雑な心境で返事をする。ダリューンが優しいのはわかっている。前は楽しくてよく話したし、マティウスとだって楽しく話したのにもう全然顔も見てない。

 会いたいなぁ……


「お前、まだここしか出入りしてないんだろ。窮屈じゃないのか?」

「はい、慣れました。ご飯食べれますから文句はないです。仕事だと思えば。それに本もあるし」

「ハハッ逞しいな」

「あの、教えて頂いてありがとうございます」


 ダリューンはそのまま秘密基地へ行った。見送ったあとどっと疲れが来た。久しぶりに貴族様と話したよ。


 夜、コップ研究室を取り出していつもの窓辺に置く。コップの中に雑に置いていた新月魔草も今は、布に穴を開けた所に差し込みコップにかぶせ、根っこだけが水に浸かるヒヤシンス方式で元気に根だけが育っていたが、なかなか葉の部分は育たないのでどうするか悩んでいた。

 これって栄養が足りないのかな?えっと……確か、光合成か。陽の光に当てないといけないんだっけ。でも新月魔草って、あの洞窟の中で育っていたんだからあまり直射日光は駄目だろうな。私は次の日、窓から離れた部屋の隅にコップ研究室を置いて部屋から出た。元々部屋は日当りが悪いから陽に当たり過ぎることはないだろう。


 何日かそれをくり返すとある日、プックリと肉厚の黄緑色の葉が二本、ニョッキリと生えてきた。

 マジか……生えたよ。成功したよ。この気持ちを誰に伝えれば良いのか!


 どうやって知らせようか迷いつつ、朝からソワソワしながらいつもの仕事をこなす。朝食を終えるといつもはみんな壁の向こうへ行くのに、その日はテーブルに着くと資料を並べだした。しばらくするとアリステアとダリューンが来て、私とアリアは外へ出された。

 何の話だろう?ジョルジュの顔色は悪かったしラルクは眉間にシワを寄せていた。

 数時間後、ガビーがラッセルと二人で秘密基地へ行った。部屋に入るとジョルジュは頭を抱え、ラルクは俯いたまま無言で椅子に座っていた。


「あの、大丈夫ですか?」

「あぁ……このままじゃこの仕事は打ち切りだって言われちゃって」

「えぇ!」


 ジョルジュは顔色を無くしたままフラフラと部屋を出て行った。ラルクもなんとか違う方法がないかと懸命に資料を読み込んでいる。

 私は部屋の中のコップ研究室を渡そうかと思ったが、本当にそれで良いのか迷った。ジョルジュ達が成果を出さないと彼らは追い出されるんじゃないだろうか?それは嫌だ。一時とはいえ家族だった彼らには恩がある。

 考えた末、コップ研究室をコッソリ秘密基地へ置きに行くことにした。後はラルクとラッセルが何とかするだろう。ガビーがどうするかはよくわからないけど、ラッセルは優しいし。


 よし!今夜決行だ!

 

 

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